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第一話:家族、家事、初期設定。

 ピピピッピピピッ―――


 次の日、僕、『中条 拓斗』は目覚まし時計のけたたましい電子音で目が覚めた。


 今日は、待ちに待った『ACO』の正式サービス開始当日である。ゲーム開始は正午であるが、キャラクターの作成や、スキルの選択は10時から可能なので、それに間に合うように起床したのである。


 まずやる事は、朝食の準備である。家は母子家庭で、僕と母、妹の3人暮らしである。また、母は仕事のため、基本的に家に居ない。そのため、家事は妹と分担して行っているのである。


「おはよ~、お兄ちゃん…ふぁ…」


 朝食を食卓に並べていると、その妹が大きな欠伸をしながら起きてきた。


「おはよう瑠花、朝飯にするから、顔洗ってこい」


「は~い」


 と、まだ眠気が残っているようでフラフラと覚束ない足取りで洗面所に向かっていった。


 あれが、僕の妹である「中条 瑠花」だ。


 今朝の献立は、ベーコンエッグにバタートースト、インスタントのコーンスープというありふれたものである。食器を並べ終わり、冷蔵庫から牛乳と野菜ジュースを取り出す。それをそれぞれコップに注いでいると、瑠花が洗面所から戻ってくる。顔を洗ったおかげで完全に目が覚めたようで、さっきとは違い、しっかりとした足取りで歩いて来て、ストンと食卓の椅子に座り、コップに入った牛乳を飲みほした。


「ねぇねぇお兄ちゃん、昨日遅くまで起きてたみたいだけど、何してたの?あ、おかわり」


「はいよ。で、昨日は『ACO』のスキル決めてたんだよ」


「あー、今日からだもんね~、私も昨日はワクワクしちゃってなかなか寝られなかったんだ~」


 この会話から分かるように、こいつも一緒に『ACO』をプレイするのである。しかも…


「それにしても、スキルか~、私はβテストと同じでスキルで行くつもりだよ~」


 こいつはあの倍率が脅威の200倍超のβテストの抽選に当選していやがるのである。僕が抽選に外れ、気落ちしているときに、満面の笑みで自慢してきたときには軽く殺意を抱いたものだ。


「ねえねえ、どんなスキルにするの?」


 と瑠花がキラキラした目で身を乗り出しながら聞いてくる。


「フッフッフ、聞いて驚け!」


「ワクワク」


 わざわざ口で「ワクワク」と言ってくれるノリのいい妹である。


「ヒ・ミ・ツ(笑)」


「うっわ、ウッザ(笑)」


 やはり、こういう物は実際に見せて驚かせるべきだろう。


「ほら、まだまだやることあるんだから、さっさと食え。10時までに家事全部終わらせるぞ~」


「は~い」


 そうして、朝食を食べ終わり、食器を片づけ、洗濯機を回し、風呂掃除を終わらせ、洗濯物を干し―― と、やらなければならないことを一通り終わらせると、もう10時半になっていた。これから、昼食を食べて、『ACO』にログインする予定である。


「お兄ちゃ~ん、掃除機かけ終わったよ~」


 昼食の準備をしようとリビングにあるキッチンに向かうと、リビングで掃除機を片づけながら瑠花がそんな声をかけてきた。


「おう、お疲れ。こっちもちょうど終わったよ」


「じゃあ、もう『ACO』やっていい!?」


「待て待て、その前に昼飯だ」


「あ、そっか。じゃあ早くしてね。もう10時過ぎちゃってるからさ!」


「そうだな~、僕も早くやりたいし、今日はインスタント麺にするか。」


 というわけで、鍋に水を入れ湯を沸かし、袋麺を放り込んでラーメンを作る。そこに塩で味付けしただけの野菜炒めを入れて、昼食の完成である。


「「いただきます」」


 二人で声をそろえて食前のあいさつをし、食べ始める。交わされる会話はやはり『ACO』の話である。


「え?βテスターのステータスってリセットされるのか?」


「そうなの。ほとんど全部リセットされるみたい。だからβテスターが有利なのは情報面だけなんだけど、判明してるほとんどのデータが例の攻略サイトに上げられてるから、お兄ちゃんたち第1陣の一般プレイヤーとの差はほとんど無いの」


 どうやら、βテスターは、ヘッドセットとソフトが確実に手にはいるという特典の他には、あまりメリットが無いようである。といってもこれは、全プレイヤーを平等にするための処置らしい。


「ふーん、でも何も無いってのはなんかつまらないな」


「いや、何も無いわけじゃないよ?初期装備がほんの少しだけどグレードアップしてるみたいだし、(ゴールド)は引き継げるみたいだからね」


 ゴールドというのは、『ACO』におけるゲーム内通貨である。


「成る程な~、一応優遇はされてるけど、頑張れば追いつける程度しか差がないわけか。」


「うん、そうみたい。っと、ごちそうさまでした。」


「ん、お粗末さまでした。瑠花はもう入るのか?」


「うん、この後部屋でパジャマに着替えてから入るよ」


「了解。中での待ち合わせはどこにする?」


「う~ん…最初の町の中央広場で良い?おっきな噴水があるし、初期スポーン位置からも近いからすぐわかると思うよ?」


「うん、解った。じゃあ、中でな」


「うん、じゃあね」


 そう言って瑠花はリビングから飛び出し、すごい速さで自室に駆けていった


「さて、僕もさっさと片付けて、設定終わらせようかな」


 そして僕は、昼食に使った鍋を洗い、片づけ終わると、もう11時を2分ほど過ぎていたので、僕はいそいそと自室に向かった。


 ヘッドセットのセッティングを終え、パジャマ代わりのジャージに着替えると、ベッドに身を横たえ、ヘッドセットを被り、世界共通のボイスコマンドを唱えた。


dive(ダイブ)start(スタート)!」


 そして、僕の意識は闇に落ちた。 













『こんにちわ、『アームズ・クリエイト・オンライン』へようこそ。これよりゲーム内であなたが操作するアバターの設定をしていただきます。』


 ダイブしてから、僕の意識が最初に捉えたのは、そんな無機質な機械音声と淡く輝くウィンドウに表示された、「自分」だった。


 『ACO』を含め、全てのVRゲームにおいて、容姿や、体格の大幅な改変は禁止されている。詳しいことは知らないが、体の変化に脳がついていけないそうだ。

 そして、今ウィンドウに表示されているのは、ヘッドセットとソフトを購入したときに、電気屋でスキャンし、ヘッドセットのデータベースに登録された、僕の体である。

 体の改変が禁止されているので、この、「アバター設定」で行えるのは、肌色、髪色、目の色の変更と髪形の選択のみである。


「髪と肌はこのままで良いか。」


 ということで、髪と肌の色は変えずに、目の色を変えることにした。


「やっぱり、青系がカッコいいかな~。あ、そうだ!オッドアイにしてみよう!」


 水色は黒の髪とは少々ミスマッチな気がしたので、左目の色を、少し暗めの青にし、右目は変えないことにした。


「髪形は……現実だと出来ないような髪形にしようかな」


 とはいっても、「モヒカン」や「アフロ」、「リーゼント」等の髪形は遠慮したかったので、背中の中程まである長い髪を、首の後ろで括った髪形にした。


「うん、これで良いかな」


 そして、決定ボタンを押し、出てきた確認画面でもう一度決定を押して、アバター設定を完了した。


『では、アバターの外見を、これで決定いたします。次に、ゲーム内で使用する名前を決めてください。』


「名前は……変えなくていいか」


 自分の体や顔が、現実に近いため、こういったVRゲームでの名前は本名を使う人も多いのだ。


 自分の名前を『タクト』で決定する


『はい、『タクト』様でよろしいですね?』


 名前の打ち間違いも無いようなので、これで決定する


『それでは最後に、スキルの選択をしていただきます。10種類まで選択していただけます。』


 スキルの選択では、迷うことなく、昨夜決めた10個のスキルを取得した。


『以上で、初期設定を完了いたします。それでは、『ACO』の世界を存分にお楽しみください。』


 案外簡単に終わってしまった。まだ、サービス開始まで結構時間がある。それまでここで待つのだろうか?


『この、『アームズ・クリエイト・オンライン』には、チュートリアルは存在しません。自分だけのプレイ方法を探して楽しんでください。では、サービス開始まで、疑似睡眠状態に移行します。疑似睡眠状態が解除され次第、思考の加速を行います。倍率は二倍となっております。現実時間での一時間は、ゲーム内時間で二時間になります。また、ゲーム内の昼と夜のどちらもに楽しんでいただくため、ゲーム内の一日は36時間、現実時間で18時間です。』


 疑似睡眠とは、文字通り、脳からの、又は脳への信号を完全にカットし……とまあ、どうのこうのして、脳を休眠状態に近付けるというものらしい。

 そんなことを考えながら、僕の意識は再び闇に落ちた…。

 「瑠花」が「瑠奈」になっていましたので修正しました

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