プロローグ:スキル選び
初めての作品です。
「うーん…」
僕は現在、自室のパソコンの画面を睨みつけていた。
僕が今見ているのは、最近話題の『Arms・Create・Online』通称『ACO』というVRMMORPGの攻略サイトである。1ヶ月前に募集された二千人のβテストの抽選は漏れてしまったが、先日行われた初期発売一万人の抽選に何とか当選し、ソフトと、専用のヘッドセットを購入することが出来たのである。
この、『ACO』の世界は、分かり易く言うなら【剣と魔法のファンタジー】という、テンプレの世界観だが、数多のスキルによるプレイスタイルの自由度の高さが話題になっている。
βテスターが作ったこの攻略サイトによると、このゲームはレベル無しのスキル性で、スキルに関係する行動をすることで経験値が入り、スキルレベルが上がると自分のキャラクターのステータスも上昇していくという仕組みだ。
また、このスキルのレベルを上げると、『アーツ』と呼ばれる任意発動の技や、『アビリティ』と呼ばれる、常時発動の能力を覚えることができる。
このスキルには、大きく分けて「武器スキル」「魔法スキル」に、それ以外の「サポートスキル」の3つに分かれるらしい。
そして、この「武器スキル」が、このゲーム、『ACO』の名前の由来となっている。このゲームでは、自分の武器は自分で作るのだ。つまり、武器を創造する。しかもプレイヤーは、自分の作った武器しか使用できないようになっているので、このゲームに「武器職人」というのは存在しない。
次に「魔法スキル」だが、スキルの中でこれが一番自由度が高いと言えるだろう。まず、この魔法スキルで覚えられるのは、「アビリティ」のみである。それは何故か、どうやらこの『ACO』に決まった魔法というのは無いらしい。
ではどうするのか、要するに、これも作るのである。魔法によって起こる現象と結果をイメージすると、どういった原理なのかは不明だが、ヘッドギアがそれを脳波として読み込み、それがシステムによって認められると、消費MPや魔法の威力、範囲などが設定され、『アーツ』として使えるようになるのである。
最後に「サポートスキル」だが、これは文字通り数え切れないほどの数が存在し、その種類も多岐にわたる。たとえば、防具やアイテム等の生産系、釣りや採掘等の採取系、状態異常の耐性に、水泳や体術などの、行動にシステム的なアシストが入るものなどがある。これらは、スキルによって「アーツ」が無かったり、スキルそのものが「アビリティ」のような扱いを受けている物など、スキルによって様々である。
これらのスキルを活用して、敵である「魔物」を倒し、広大なマップを探索、攻略し、世界を開拓していくことが、この『ACO』の一番大きな目標である。
そして、この『ACO』の正式サービスが、明日の正午から開始されるのだ。
なので僕は今、自分のプレイスタイルを決めるために、攻略サイトに載っている数多のスキルを一つ一つ吟味しているのである。が、
「武器スキル、何にしようかな~…」
まだ、何一つ決まっていなかった。
ゲーム開始時に取得できるスキルは10個である。これは、一度に有効化できるスキルの最大数である。これ以上のスキルは、ゲーム内でゲーム内通貨を使用したり、課金をしたりして入手するそうだ。
僕は、基本的にソロプレイをする予定なので、武器スキルを2個、魔法スキルを3個、サポートスキルを5個という構成にするつもりでいる。やはり、一種類の武器しか装備できないというのは多種多様な魔物のいる世界で、ソロで冒険するには問題があると思う。また、魔法についても同様である。
しかし、この武器スキル、本当に数が多いのである。「剣」「槍」「弓」… 等とカテゴリーごとに分けられ、見易くなっているが、それでも、各カテゴリーに最低でも3つや、多いものでは10近くと、合計で100近くの種類があるのである。
「うーん…やっぱりメインは遠距離武器が良いな~」
遠距離系の武器のカテゴリーは「投擲武器」「弓」「銃」があった。
「銃!?」
剣と魔法のファンタジー世界に銃とは…運営も思いきったことをしたものである。
しかし、気になったので、どんなものがあるのか見てみると、「拳銃」「狙撃銃」「散弾銃」「機関銃」etc.etc…
「うわっ…」
若干引くくらい充実していた。
そして、20近くある銃スキルのなかに、一つ気になるものを見つけた。
「銃」
全種類の銃を使用、作成することができる。……
全種類、これはかなり魅力的である。使える武器が多いということは、特定の武器しか装備できないこのゲームにおいて、かなりのアドバンテージがあると考えて良いだろう。しかし、スキルの説明文には続きがあった。
「銃」
全種類の銃を使用、作成することができる。レベルアップで、『アーツ』を覚えることができない。
どうやら、このスキルはレベルアップしても、覚える『アーツ』が無いらしい。これのによるデメリットはかなりの大きい。『アーツ』は通常攻撃より威力が高いだけでなく、攻撃時の動きを、システムがアシストしてくれると言うものがある。例えば、アクロバティックな連続攻撃ができたり、投擲武器にホーミング能力が付いたりと様々である。これらは戦闘において、かなり重要であると言える。
「アーツと武器の種類かー…悩むな~。取り敢えず保留にして、他のスキルも見てみるかー」
「魔法スキル」については、魔法の属性を選ぶだけのようである。後は頑張れということなのだろう。魔法の属性は「火」「水」「風」「土」「光」「闇」の定番である6属性に加え、「空間」「召喚」「結界」「影」「付与」「呪い」という、特殊魔法と呼ばれる魔法があった。
「最初の6つは分かるけど……特殊魔法…?って何だ?」
「空間」はどうやら、よく小説とかで見るような使い方をするらしい。ワープや、収納何かができる便利魔法だそうだ。
「召喚」は、契約した魔物を召喚して戦うらしい。この契約の方法というのが、結構曖昧らしい。魔物を倒したら勝手に契約したり、クエストで知性ある魔物を助けたりすると契約できたりと様々で、それを探すのも、βテストでは楽しみかたの一つとなっていたそうだ。また、倒したボスモンスターの力の一部を召喚出来たりもするらしい。
「結界」というのは、自分、または対象となるモノの周りに、様々な特殊効果を持った空間を展開するという魔法らしい。魔法や物理攻撃からの防御といったものから、人払いや隠密といった少々特殊なものまで作る事が出来たらしい。また、結界の範囲や、持続時間も設定できるそうだ。しかし、結界を展開している間は常時MPを消費するという欠点があるので、便利な半面、使い所が難しい魔法でもある。
次に「影」魔法だが、これは人によって色々な使い方がされていたようだ。βテストでは隠密や、アイテムの収納、短距離の移転や、「影人形」と呼ばれる戦闘ユニットの作成、影を使った拘束や攻撃等々様々な魔法が作られたらしい。
「付加」は、その名の通り味方に支援効果を付けたり、武器に属性を持たせたりすることが出来るらしい。この支援効果も様々な種類が作られていて、「敵を攻撃したときに蛙の鳴き声がする」なんてのもあるらしい。一体何の役に立つのだろうか…。
「呪い」は「付加」の逆と言える魔法で、敵に、弱体化させるステータス異常をかけたり、武器に「毒」や「麻痺」、「睡眠」などの状態異常属性を付加したりなんて言うのも作られたそうだ。
また、これらの魔法には「火」「水」「風」「土」「光」「闇」にある「上位スキル」が無いらしい。
「上位スキル」とは、先ほど述べた6つの魔法スキルと、幾つかの「サポートスキル」にある、これらのスキルの上位互換にあたるスキルのことである。これらは、特定の条件(レベルや、行動)を満たすことによりスキルを「進化」させることで入手することができる。βテストでは、テスト期間の問題で、この上位スキルについては存在が確認されているだけで、詳しいことはあまり分かっていない。しかし、初期に得られる『アーツ』や『アビリティ』だけでも下位のものより、優秀らしい。
やはり、ライトノベルやマンガを大量に読んでいる僕としては、「空間」魔法というのにはかなり惹かれるが…この魔法の攻撃に関する記述が無いことが気になる。とはいっても、この世界で魔法とは作るモノであるので、ここでの魔法の内容に関する記述はあまり気にしなくても良いのだが、他の魔法にはしっかりと記述があるので、少し引っかかる。が…
「やっぱり、ゲームだしな!ロマンを求めていこう!」
というわけで、まず一つ、僕は「空間魔法」を取得することにした。
「後は……回復系が要るな」
回復系の魔法が使えるのは、「水」と「光」の魔法である。「水魔法」の回復魔法は、解毒などの、状態異常の回復魔法が作成できるのが特徴である。
「光魔法」は、状態異常の回復が出来ない代わりに、範囲回復魔法が作れるそうだ。
しかし、この範囲回復魔法は「水魔法」上位スキル「氷魔法」だと覚えることが可能である。
また、「光魔法」の上位スキル「神聖魔法」では、デバフを解除する「解呪」と呼ばれる魔法が作れるのだとか。また、βテスター達は、レベルが上がればさらに増えるのではと考えているらしく、上位になった時にどうなるかは、詳しく分かっていないと記述されたいた。
また、単体回復については回復力に違いは無く、「蘇生魔法」についてはどちらにも確認されていないそうだ。
「やっぱり、状態異常の回復は必須だよな~」
二つ目の魔法スキルは「水魔法」に決定した。
「後は…サポートスキルを見て決めようかな~」
「サポートスキル」は本当に大量のスキルがあった。
「大量だな~…とりあえず、目を付けていたスキルを見てみるか。」
やはり、この1000個弱スキルを一つ一つ見ていく時間は無いので、もともと目を付けていたスキルを確認していく。
まず一つ目は趣味スキルの一つ、「料理」である。『ACO』には「満腹度」というものがあり、魔物のドロップや、フィールドでの採取で入手できる食材系アイテムを食べることで回復する。また、この満腹度がゼロになると、アーツの使用が不可能になり、全ステータスが80%低下するのだそうだ。だが、この食材アイテムだが、そのまま食べても美味しくないものが多く、生で食べるとたまに中る、つまり毒状態ななってしまうことがあるそうだ。だが、この「料理」スキルで料理すると、失敗しなければ毒にかかる事がなくなるし、上手く料理すれば、食べると短時間だが様々なボーナスがつく料理を作る事も出来るらしい。それに、いくらゲームの中とは言え美味しいものを食べたいと思うのが人間だろう。
次は、体術系スキルの中から使えそうなものを探していく。
「使えそうなのはこの辺かな~」
その中から僕が目を付けたのは「軽業」と「蹴脚術」、「拳闘術」である。
まず、「軽業」だが、「ステップ」や「ジャンプ」といった体術系アーツや、俊敏性、回避率に補正のかかるアビリティを覚えることが出来る。また、上位スキルである「アクロバット」は、「2段ジャンプ」や「三角飛び」等という現実世界では出来ないようなことまで可能になるとか。
「蹴脚術」と「拳闘術」は、それぞれ、蹴りと殴打に補正がかかるそうだ。それだけでなく、これも幾つかのアーツを覚えることが出来るらしい
やはり、これらの体術系のスキルは必要だろう。遠距離武器を使用し、ソロプレイをする以上、近接戦闘の対策は必須である。なので、「軽業」と、手には武器を持つ予定なので、「蹴脚術」を取得することにした。
「徒手格闘はこれで良いとして、やっぱり、近接武器のサブウェポンは必要だよな~…」
何となく、サブウェポンと言えば短剣の類だろう。という勝手なイメージから、「剣」のカテゴリーを見ていくと、
「ん?これは…」
「忍者刀」
忍者刀を使用、作成できる。
「忍者刀!良いね~、カッコいい!」
サブウェポンにそんなにこだわりがあるわけではないので、直感で、「忍者刀」を取得することにした。
「となると、最後の魔法は「呪い」だな」
「影魔法」も考えたが、敵に接近されないと使わないサブウェポンなので、やはり、状態異常攻撃ができるようになる「呪い」の方が良いだろうと思ったからである。
「さてと…サポートスキルは、後二つか…」
採取系のスキルを見ていくと、下の方に「鑑定」というスキルを見つけた。
「これは使えそうだな」
「鑑定」
アイテムや、魔物の鑑定が出来る。
あまりにも適当な説明だが、これがこのスキルの全てなので仕方がない。『ACO』の世界では、アイテムの名前というのは初見では分からないようになっているらしい。一度鑑定すると分かるようになるが、この鑑定をNPCに頼むとそれなりのお金がかかってしまうそうだ。それに、魔物の鑑定ができるというのが大きい。どうやら、相手が毒をもっているかなどもわかるらしい。持っていると便利だろう。
「さて、サポートスキルは後一つか…」
何か良いものは無いだろうかと見ていくと、一番下の方に気になるスキルを発見した。
「武器アーツ作成」
武器を使ったアーツを作成することができる。作成以外で武器を使ったアーツを覚えることができない。作成可能アーツは、スキルレベル上昇と共に増えていく。
「これは……」
これがあれば、「銃」スキルを使っていけるのではないだろうか
「ん?」
その時、僕の頭に閃いたのはとあるゲームのPVだった。
「空間魔法」「銃」「武器アーツ作成」これらのスキルが、頭のなかで、パズルのように組み上がり、先ほど閃いたものが、出来上がっていく
「これは行けるぞ……!」
そして、僕は【銃】と【武器アーツ作成】を覚えることにして、パソコンの電源を切った。
今回は、プロローグという名の説明です。
βテストと初期発売の人数を追加。
「武器アーツ作成」の説明追記