8
「それにしたって……」
「いや、タキオカさんを交えての男子会は、先週やりました」トミタさんがビールに口をつけつつ言った。「今日はキレイどころをお呼びしての、第二弾です」
「その第二弾とやらに彼は呼ばれなかったの?」
キレイどころと言われて、アタシは満更でもなかった。
「タキオカさんがきたら、たいへんですよ。エロ・トーク満載ですよ?」
オオカワが満面の笑みで言った。こんなに楽しそうな彼は見たことがない。まあ、これまで数回しか会ったことがないし、話題も彼の問題ばかりだったから、仕方ないか。
「あなたたち、飲むとそんな話ばっかしてるんでしょう」
『タキオカさんです』
ふたりは声をそろえて言った。いいコンビである。
焼き鳥はどれも美味しかった。阿波尾鶏とかいう鶏を使っているらしい、よくわからないが。
最初にでてきた、ささみの串焼きがやたら美味しかった。ささみ肉って、パサパサしたイメージがあるが、これは柔らかくジューシーだった。上に乗ったわさびがまた、いい主張をしていた。
飲み放題のコースだったので、品数はそれほど多くなかったが、これで充分だった。アタシもオオカワも酒豪なので、飲み放題でなければトミタさんの支払いが可哀相だ。
「オオカワさんて、以前ウチの会社で営業やってらしたとか」
「ふはは、昔の話です」
オオカワは照れ笑いした。
「師匠のインパクトは凄かったですよ」
「やめてよトミタさん。オレの営業成績聞いたら、びっくりしちゃうよ?」
「凄かったんですか」アタシは訊いた。
「悪い意味でね」
たしかオオカワが営業をやっていたのは、一年たらずだとトミタさんは言っていた。成績が振るわなければ営業職を続けるのは難しい。
「それで派遣される側へまわったんですか」
「まあ、すぐにではないんスけどね。先輩に誘われてベンチャーとか、かじったりしてみたけど、やっぱりそれもダメで。で、作家でも目指そうかなーって考えていたところ、マンパラさんに仕事を紹介してもらったんです」
「あれ、師匠の最初の現場って何でしたっけ?」
「半導体、新横浜の」
「ああ、はいはい!」
トミタさんは懐かしそうに笑った。
「それで、あのあとトミタさんも辞めたんだよね?」
「そう。実家に帰らなくちゃいけなくて」
「なんでまた、東京に出てきたの?」
「まあまあ師匠、そのへんはイイじゃないですか」
お酒が入ることで、ふだん聞けないような話が聞けて面白い。ふと、オオカワがアタシのほうを見た。
「剛流さんは、マンパラは長いんですか」
「まる五年です。オオカワさんのシステム・イーの(派遣期間の)ほうが長いですよ」
「あ、そうなんだ。……スミマセン、あの現場ではご迷惑ばかりおかけして」
アタシは慌てた。べつに責めるつもりで言ったのではない。でもまあ、せっかくだから訊きたいことを訊いてしまえ。
「ちょっと興味があったんですけど、どうしてまた、オペレータを辞めてオペレータを?」
「おっと、直球できましたね師匠」トミタさんがニヤニヤする。
「オレはたぶん、派遣が好きなんです」