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コール・マイ・ネーム  作者: 大原英一
第1章 現実と連日
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7

 六月のある曇った蒸し暑い夕刻、不意にアタシのスマホが鳴った。発信者を見るとトミタさんだった。

「もしもし」

「あ、剛流さんですか、トミタです。急なんですけど、今日の夜って空いてます?」

 おいおいマジか……デートのお誘いか?

「あ、空いてますけどーぉ?」

 ダメだ、声が不自然なトーンにしかならない。

「よかった。じゃあ、一九時に新橋のX番出口で待ってます。なにかあったら、ケータイに連絡ください」

 新橋か、おっさんの聖地だな。もしかしてトミタさん、アタシのこと、おっさん扱いしてないよね?

「了解しました」アタシはつとめて冷静に答えた。


 電車に揺られながら、どこか釈然としない気持ちでいた。いくらなんでも、こんな急にデートに誘うということは、あり得ないだろう。

 なんだろう、悩みごとでもあって相談したいのだろうか。まさか恋の悩み? やめてよアタシ、仁鶴師匠くらいのアドバイスしかできないよ?

 考えあぐねているうちに新橋に着いてしまった。神田からだと、すぐだ。

 

 X番出口で、すぐにトミタさんのノッポなシルエットが見つかった。それでアタシは、その傍らにいた小さな人影に最初気づかなかった。

「あれっ、オオカワさん?」

 スーツ姿のオオカワがそこにいた。彼がスーツを着ているのを、はじめて見た。

「どうもっす。おひさしぶりです」

 彼はぺこり、と頭を下げた。

「今日はどういう……」アタシはトミタさんに視線を投げた。

「今日はタキオカさんの歓迎会です。タキオカさん抜きの」

 トミタさんはそう言って爆笑した。

「なにか食べたいもの、あります? ご馳走しますよ」

「アタシに訊くんですか。これってタキオカさんの会じゃあ……」

「いいんです、貴女の好きなもので」

「じゃあ……焼き鳥が食べたいです」

 しまった、正直過ぎた。でも本当だから仕方ない。あとビールが飲みたい。おっさんか。


 六月の頭から、タキオカがオオカワと同じ現場に入っていた。担当はもちろんトミタさんだ。

 そっか、それで新橋か。彼らの現場がある品川と、アタシがいる神田本社と、ここは同じくらいの距離だ。さすがトミタさん、気配りがハンパない。

 さらに彼は、焼き鳥というファンキーで庶民的な食い物を所望したアタシを、そこそこ小じゃれた感じの店に連れて行ってくれた。あ、オオカワのことも忘れてないよ。

「じゃあ、タキオカさんの就業を祝して、かんぱーい」

 三人でビール・グラスを合わせた。不思議な感じだ。

「あの、ものすごい根本的な質問なんですけど、なぜ主役のタキオカさんが不在なの?」

 アタシの問いに答えたのはオオカワだった。

「彼はお酒が飲めないんだそうです。一滴も」

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