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コール・マイ・ネーム  作者: 大原英一
第1章 現実と連日
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6

 派遣会社には、じつにいろんなタイプの人が登録にくる。切羽つまった人、アルバイト感覚の人、ハケン慣れした人などなど。

 タキオカというかたがどういう人物か、いまの時点ではわからない。年齢は三六歳らしい。

 彼はどの案件が目当てでくるのだろうか。案件とは一言でいえば、現在募集中のお仕事情報である。アタシはタキオカ氏の希望欄を見た。


【オペレーション業務】

【勤務地:品川】

【担当:トミタ】

 

 こ、これは……。思いあたって、アタシは速攻でトミタさんに電話した。

「あ、お疲れ様です、本社の剛流です。いま、お電話よろしいですか」

 アタシはオペレーション業務案件で登録にくるスタッフがいる、と彼に伝えた。

「ご想像のとおり、ここ、オオカワ師匠が五月から入った現場ですよ。師匠の目ざましい活躍が認められて、たった二週間で増員の要請がきました」

 電話のむこうのトミタさんは、ちょっと誇らしげだった。

 アタシにも経験がある。トミタさんは「当たり」のお客さんを引いたのだ。

 たまたまウチから新規でスタッフを派遣した現場が、スタッフおよびウチの会社を気に入ってくれて、芋づる式に増員(追加発注)してくれるという黄金パターンだ。派遣営業の醍醐味と言っていい。

 そう、たしかに、オオカワが一発退場になった現場(システム・イー社)は、あまりいいお客さんではなかった。

 年数だけは長くオオカワを使ってくれたが、増員要請はまったくなかった。これには会社同士のしがらみとかフィーリングとか、いろいろなファクターが絡むので、いちがいにオオカワの働きが悪かったとも言えない。

 いや、オオカワは基本的に仕事はできるのだ。ただ態度がよろしくない。責任を追及されたときにバックレたのが、一番いけない(笑)

 なんだかアタシまで楽しくなってきた。

 もはや彼に対して悪い感情は、ない。あたらしい現場で頑張ってもらうのみだ。もしここでも問題を起こされたらトミタさんが困るわけだし、ウチの会社にとってもいいコトは何もない。

 アタシは裏方のひとりとして、なるべく優れたスタッフを採用してあげたいと思う。オオカワの後輩となるスタッフを。


 勇んで自社の面接ブースへと足を運んだアタシだが、いきなり出鼻を挫かれることになった。

 いや、それほど大げさなことではないのだが、初対面のタキオカ氏のルックスが面白すぎた。

 スキンヘッドに黒縁のメガネ。頭頂部とオデコのあいだには、ふつうじゃないサイズの絆創膏が貼ってある。三つ目サード・アイでも隠しているのか。

 まあ、いい。この程度で怯むアタシではない。

「額のそれ、すごいですね。どうされたんです?」

「ちょっと怪我しちゃいまして」

 タキオカ氏は絆創膏を撫でつつ言った。

 そりゃそうだろう。ここはボケるところだろう。でも、額を触る感じが中小企業の社長っぽく、可愛いかったので許す。

「今回、オペレーション業務を希望ということですが、ご経験は?」

「あります……たぶん」

 たぶん、と彼は言った。すると少しは経験があるか、似たような経験をしているということだ。ありません、という回答より百倍いい。

「直近まで、どんなお仕事をされてました?」

「短期の派遣で、ヘルプデスク的なことを」

 おお、いいね! オペレータとヘルプデスクは姉妹のようなものだ。

 と、そこでアタシはあらためて彼の履歴書を見て、

「仕事をされていた期間に、けっこうブランクがあるようですが」

「あの、実は」タキオカ氏は頭をかいた。「これまで、いろいろやりすぎて、全部はおぼえていないんです」

 アタシは笑顔のまま訊いた。

「えっと、では、今まで一番長くされていたお仕事は?」

「ケータイの販売ですね」

 なるほど、彼のこの人当たりの良さは、接客業からきているのか。

 合格だ……タキオカ!     

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