表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コール・マイ・ネーム  作者: 大原英一
第1章 現実と連日
4/29

4

 知らなかった。オオカワエイジがかつて、ウチの正社員だったなんて。

「二〇〇一年から一年くらい、いたのかな。その後、いろいろあったみたいで……」

 トミタさんはニヤニヤしながら話す。とても愉快そうだ。あのオオカワが愉快な人物とは、アタシにはとても思えないのだが。

「ちょっと自由すぎやしませんか、あのオオカワって人」

 アタシはそう言って腕を組んだ。少しくらい不愉快感を露わにしても、いいところだ。部下であるアライ君の手前もあるし。

「そうですね」とトミタさん。


 終わりっ? あなたも自由肯定派ですかトミタさん。ワイルドだわー、惚れてまうやろ!

「で、ですね。ちょっとお願いがあるんですけど。オオカワ師匠に声をかけさせてもらっても、いいですか」

「はあっ?」

 フロア内の全員が振り向くほどの大声を出してしまった。アタシは真っ赤になって口をおさえた。意味がわからない。

「いちおう訊きますが、それは彼に仕事を紹介するということですか」

「ええ」トミタさんは笑った。

「だってあの人、メチャクチャですよ? 昨日もアライ君とふたりで、お客さんに謝りに行ったところですよ?」

 トミタさんはただ、クスクスと笑うばかりだ。

 たしかにオオカワエイジは、いまフリーな状態にある。だが、前の現場で始末書を出すほどの問題を起こし一発退場の処分を食らった彼に、この期におよんで仕事を紹介するなど、とても正気の沙汰とは思えない。

「まあ、それでしたら、ご自由にどうぞ」

 アタシは素っ気なく言った。正直、あの男に興味はなかった。それよりトミタさんがこれから何をやろうとしているかが、気になった。


 ひと月があっという間に経ち、また定例会議の日となった。トミタさんが嬉しそうな顔でやってきた。

「おかげさまで、オオカワ師匠の就業が決まりましたよ。新規顧客の現場です」

「へ?」

 思わず声が裏返った。恥ずかしいったら、ありゃしない。

 寝耳に水とはこのことだ。オオカワのことなど、正直忘れていた。横浜支社のほうで(案件の)動きがあったとは、とくに聞いていなかったのだが。

「それが、師匠を連れて二社くらい面談に行ったんですが、なかなかいい返事がもらえなくて」

「それはやはり、人物的なところでNGが?」

 アタシはちょっと皮肉をこめて訊いてみた。

「いや、たまたまタイミングが合わなかったみたいです、お客さんのほうで」

「ふうん」とアタシ。

「で、すっかり諦めていたんですが、三週間以上経ってから、お客さんから『やっぱりオオカワさんでお願いします』みたいなメールがきたんです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ