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知らなかった。オオカワエイジがかつて、ウチの正社員だったなんて。
「二〇〇一年から一年くらい、いたのかな。その後、いろいろあったみたいで……」
トミタさんはニヤニヤしながら話す。とても愉快そうだ。あのオオカワが愉快な人物とは、アタシにはとても思えないのだが。
「ちょっと自由すぎやしませんか、あのオオカワって人」
アタシはそう言って腕を組んだ。少しくらい不愉快感を露わにしても、いいところだ。部下であるアライ君の手前もあるし。
「そうですね」とトミタさん。
終わりっ? あなたも自由肯定派ですかトミタさん。ワイルドだわー、惚れてまうやろ!
「で、ですね。ちょっとお願いがあるんですけど。オオカワ師匠に声をかけさせてもらっても、いいですか」
「はあっ?」
フロア内の全員が振り向くほどの大声を出してしまった。アタシは真っ赤になって口をおさえた。意味がわからない。
「いちおう訊きますが、それは彼に仕事を紹介するということですか」
「ええ」トミタさんは笑った。
「だってあの人、メチャクチャですよ? 昨日もアライ君とふたりで、お客さんに謝りに行ったところですよ?」
トミタさんはただ、クスクスと笑うばかりだ。
たしかにオオカワエイジは、いまフリーな状態にある。だが、前の現場で始末書を出すほどの問題を起こし一発退場の処分を食らった彼に、この期におよんで仕事を紹介するなど、とても正気の沙汰とは思えない。
「まあ、それでしたら、ご自由にどうぞ」
アタシは素っ気なく言った。正直、あの男に興味はなかった。それよりトミタさんがこれから何をやろうとしているかが、気になった。
ひと月があっという間に経ち、また定例会議の日となった。トミタさんが嬉しそうな顔でやってきた。
「おかげさまで、オオカワ師匠の就業が決まりましたよ。新規顧客の現場です」
「へ?」
思わず声が裏返った。恥ずかしいったら、ありゃしない。
寝耳に水とはこのことだ。オオカワのことなど、正直忘れていた。横浜支社のほうで(案件の)動きがあったとは、とくに聞いていなかったのだが。
「それが、師匠を連れて二社くらい面談に行ったんですが、なかなかいい返事がもらえなくて」
「それはやはり、人物的なところでNGが?」
アタシはちょっと皮肉をこめて訊いてみた。
「いや、たまたまタイミングが合わなかったみたいです、お客さんのほうで」
「ふうん」とアタシ。
「で、すっかり諦めていたんですが、三週間以上経ってから、お客さんから『やっぱりオオカワさんでお願いします』みたいなメールがきたんです」