1話目
「キャー!人殺しよー!誰かー!」
・・・遠くで叫び声が聞こえる。おそらく女性だ。
目を開くと当然ぼやけているが、瞳に映っているのは空だとはっきりわかった。
太陽がまぶしく、つい目を細めてしまう。
それより何故自分は倒れているんだ。
さっきまでの記憶がほとんど無い。俺の名前は・・・空井翼。24歳で独身。
そういう記憶ははっきりと覚えてるが・・・どうしてさっきまでの記憶が無いんだ。
よっと起き上がるのと目のピントが合うのは同時だった。
「・・・!?」
目の前には小さい女の子だったであろう肉が横たわってある。
まだ5歳といったところだろうか。いや、5歳だった・・・か。
それにしてもおかしい。
この娘はおそらく誰かに殺されたんだろう。
・・・何故近くに倒れていた俺を殺さなかったのか?
むしろ俺を倒したのはこの娘を殺した本人だろう。
・・・まさか。
ふと辺りを見渡すと知らない公園だった。その小さな公園の周りに野次馬らしい人間がいくつか。
「誰か警察を呼んでー!殺人よー!」
さきほども聞いた女性の声を右耳で受け取った。
振り向くと中年のおばさんが買い物袋を提げて必死に叫んでいる。
そうか、やはり。
「オ・・・オヴォ・・・」
自分の置かれた状況を把握するまでさほど時間はかからなかった。
それと同時に普通ではない、尋常な吐き気に襲われた。
「・・・ウ・・・ウゥ」
少しうずくまって吐き気を殺すと改めて自分の手から順に胸、腹、足を眺めた。
真っ赤だ。
「ウイィィィィイイイン」
サイレンのように。
そのとき、俺の本能が俺の意識に潜り込み、こう呟いた。
「逃 げ ろ」
偉大なる本能に服従する。
肉壁が薄いところに突進し、後ろを振り向かずにかけだした。