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第73話 「越えられない線」

 “壁”は、そこにあった。


 目には見えない。


 触れることもできない。


 だが――


 確実に。


 “それ以上進めない”という感覚だけが、世界に残った。



 境界。



 あの場所に、再び彼らは集まっていた。


 だが。


 今までとは違う。


 空気が、重い。


「……完全に気づきましたね」


 リリアが小さく呟く。


 エルミナが静かに頷く。


「ええ」


「限界の存在に」


 セリスが低く言う。


「……到達不能領域」


 ノアが笑う。


「名前つけちゃったね」


 アレンは、黙ってそれを見ていた。



 疑う者たち。



 彼らは、すぐに動いた。


 止まらない。


 止まれない。



 試す。



 同じ条件。


 同じ動き。


 同じ配置。


 だが――


 届かない。



 何度でも。



 繰り返す。



「……しつこいですね」


 リリアが苦笑する。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「ですが、正しい行動です」


 セリスが低く言う。


「……原因を特定しようとしている」


 ノアが笑う。


「これが科学だね」



 やがて。



 一体の個体が。


 動きを止める。



 考える。


 見る。


 測る。


 そして――



 “変える”。



「……?」


 リリアが首をかしげる。


 その個体。


 位置をずらす。


 角度を変える。


 タイミングを遅らせる。


「……条件変更」


 エルミナが言う。


 セリスが低く言う。


「……仮説の修正」


 ノアが笑う。


「いいね」



 試す。



 変える。



 試す。



 変える。



 その繰り返し。



 だが。



 届かない。



「……」


 リリアが小さく言う。


「……無理じゃないですか?」


 アレンは答えない。



 一方で。



 信じる者たち。



 こちらもまた。


 変わっていた。



 静かに。


 だが確実に。



「……なんか」


「雰囲気違くないですか?」


 リリアが言う。


 エルミナが頷く。


「ええ」


「以前よりも……」


 セリスが低く言う。


「……重い」


 ノアが笑う。


「来たね」



 中央。


 リーダーが立つ。



 だが。


 以前のように。


 手を伸ばさない。



 代わりに。



 地面に触れる。



「……?」


 リリアが呟く。


 エルミナが静かに言う。


「……下を見ています」


 セリスが低く言う。


「……内側」


 ノアが笑う。


「方向変えたね」



 リーダーが、声を発する。



 だが。



 その内容は――



 “外”ではない。



 “内”。



「……」


「……意味変わってる?」


 リリアが言う。


 エルミナが頷く。


「ええ」


「“神に届く”ではなく」


「“神に近づく在り方”」


 セリスが低く言う。


「……自己変化」


 ノアが笑う。


「いいね」



 彼らは。



 理解し始めていた。



 届かないなら。



 “変わる”。



 そうすれば。



 届くかもしれない。



「……」


 アレンが小さく呟く。


「……そっち行くか」



 そして。



 再び。



 両者が集まる。



 疑う者。


 信じる者。



 だが。



 今回は。



 ぶつからない。



 同時に。



 “試す”。



 疑う側が、外を変える。


 信じる側が、内を変える。



 方向は違う。



 だが。



 目的は同じ。



「……」


 空気が、揺れる。



 以前とは違う。



 “質”が変わっている。



「……っ」


 リリアが息を呑む。


「なんか……」


「違う……!」


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「これは……」


 セリスが低く言う。


「……干渉の形が変わっている」


 ノアが笑う。


「やばいね」



 アレンは。


 感じていた。



 “触れ方”が違う。



 直接ではない。


 だが。



 “近い”。



「……」


 小さく呟く。


「……まずいな」



 壁は。



 壊されていない。



 だが。



 “回り込まれ始めている”。



「……」


 リリアが言う。


「アレン……」


 エルミナが続ける。


「……どうします?」


 セリスが低く言う。


「……このままでは」


 ノアが静かに言う。


「越えるよ」



 沈黙。



 アレンは、目を閉じる。



 考える。



 止めるか。


 許すか。



 だが。



 その時。



 一つの答えが浮かぶ。



「……」


 目を開く。



「……いい」



「……え?」


 リリアが驚く。


 エルミナが目を見開く。


 セリスが低く言う。


「……許容するのか」


 ノアが笑う。


「来たね」



 アレンが言う。



「……越えられるなら」



「……越えてみろ」



 それは。



 初めての。



 “挑戦の受諾”。



 下では。



 個体たちが。



 変わり続ける。



 外を。


 内を。



 同時に。



 世界が。



 “次の形”へと。



 進もうとしていた。



 アレンが空を見る。


「……」



 壁は。



 もう。



 絶対ではない。



――第73話 完


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