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第53話 「最初の争い」

 世界は、加速していた。


 あの最初の命から。


 派生し。


 増え。


 広がり。


 今では、森の各所に小さな生命が息づいている。


「……増えましたね」


 リリアが木の上から見下ろす。


 枝の隙間から、いくつもの影が動いていた。


「うん」


 エルミナが頷く。


「個体数は安定して増加しています」


「……だが」


 セリスが低く言う。


「偏りが出てきた」


 ノアが指差す。


「ほら」


 森の一角。


 そこだけ、明らかに様子が違った。


「……あれ」


 リリアが目を細める。


「何か、変じゃないですか?」


 アレンも視る。


 流れ。


 関係性。


 そして――


「……始まったな」


 小さく呟く。



 そこでは。



 一体の生命が。


 別の個体を押し倒していた。



「……え?」


 リリアが固まる。


 押さえつける。


 奪う。


 そして――


 噛みつく。


「っ……」


 エルミナが息を呑む。


「……捕食……?」


 セリスが言う。


「……いや」


「まだ未成熟だ」


 ノアが静かに言う。


「これは」


「“取り合い”」


 地面に落ちていた、わずかな資源。


 それを巡って。


 争いが起きていた。


「……」


 静寂。


 リリアが小さく呟く。


「……これ」


「止めます?」


 エルミナが視線を落とす。


「……どうすべきでしょうか」


 セリスが言う。


「……介入すれば止まる」


「だが」


「それが正しいかは別だ」


 ノアは何も言わない。


 ただ、アレンを見る。


「……」


 少しだけ時間が流れる。


 争いは続く。


 一体が倒れ。


 もう一体がそれを押さえつける。


 弱い方は。


 ただ、耐えるしかない。


「……」


 アレンが口を開く。


「放置だ」


「……え?」


 リリアが驚く。


「いいんですか?」


「いい」


 短く言う。


「これは必要だ」


 エルミナが静かに聞く。


「……何のために?」


 アレンはその光景を見たまま答える。


「選択のためだ」


「……選択?」


 セリスが言う。


「……どういう意味だ」


 アレンが続ける。


「全部与えたら」


「全部決まる」


「でも」


「足りない状態なら」


「考える」


「選ぶ」


 リリアが眉をひそめる。


「……それが争いになるんですか?」


「なる」


 アレンが言う。


「でも」


「それだけじゃない」


 その時。


 別の個体が近づく。


 争っている二体を見て。


 少しだけ迷い。


 そして――


 弱い方に近づく。


「……?」


 エルミナが息を呑む。


「まさか……」


 その個体は。


 倒れている方を引き起こした。


 支える。


 助ける。


「……」


「……」


「……え?」


 リリアが呟く。


「今の……」


「助けた?」


 セリスが低く言う。


「……協力」


 ノアが小さく笑う。


「出たね」


 アレンが言う。


「これがもう一つだ」


「……」


「争いと」


「協力」


「どっちも生まれる」


 エルミナが静かに言う。


「……善と悪」


 アレンが頷く。


「そうだな」


 リリアが腕を組む。


「……難しいですね」


「どっちも必要ってことですか?」


「そうなる」


 セリスが言う。


「……排除すれば単純だが」


「それでは“選択”が消える」


 ノアが続ける。


「で」


「どうするの?」


 アレンは少しだけ考える。


 そして。


「……ルールだけ決める」


「……ルール?」


 エルミナが聞く。


「最低限の制限だ」


 手を伸ばす。


 世界へ。


「やりすぎは崩れる」


「だから」


「壊れない範囲だけ」



 定義を加える。



「……っ!」


「空気が変わった……!」


 リリアが言う。


 エルミナが頷く。


「過剰な干渉が抑制されています……」


 セリスが言う。


「……バランス調整か」


 ノアが笑う。


「いい感じじゃん」


 アレンが手を下ろす。


「これでいい」


「後は」


「勝手に回る」


 リリアがその光景を見る。


 争いはまだある。


 だが。


 助け合いも増えている。


「……面白いですね」


「だろ」


 エルミナが微笑む。


「ええ」


「観察する価値があります」


 セリスが一言。


「……記録する」


 ノアが呟く。


「……ほんと」


「ゲームみたい」


 アレンが笑う。


「まぁな」


「でも」


 その視線は少しだけ真剣だった。


「これは」


「ちゃんと生きてる」



 世界は。



 ただの箱庭ではない。



 “選択する存在”が生まれた。



 それは。



 もう、ただの創造物ではない。



――第53話 完


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