第20話 「王の間」
王城の空気は、重かった。
広い。
高い天井。
静まり返る空間。
そして――
玉座。
「……ここまで来るとはな」
アレンは小さく呟いた。
「普通は来ませんよ」
リリアが横で言う。
だがその声は少し抑えめだ。
さすがに緊張しているらしい。
一方で。
「落ち着いてください」
エルミナが静かに言う。
「ここは私の庭のようなものです」
「庭レベル高すぎる」
軽くツッコむ。
だがそのやり取りが、少しだけ空気を和らげた。
その時。
扉が開いた。
重厚な音。
そして。
足音。
ゆっくりと現れたのは――
王だった。
年齢は四十代ほど。
だがその存在感は圧倒的だ。
「面を上げよ」
低く、響く声。
アレンたちは顔を上げる。
視線が交差する。
「……貴様がアレンか」
「そうです」
短く答える。
王はしばらく見つめた。
そして。
「報告は受けている」
「侵食核の制御」
「事実か」
「はい」
沈黙。
重い時間。
やがて。
王はゆっくり頷いた。
「……見事だ」
その一言で、空気が変わった。
周囲の騎士たちがざわつく。
王が直接認めた。
それはつまり――
「貴様を特別顧問として迎える」
「は?」
アレンは思わず声を漏らした。
「ちょっと待ってください」
「急すぎません?」
「状況が急だ」
王は淡々と言う。
「王都はすでに侵食されている」
「一刻の猶予もない」
その言葉に。
アレンは黙った。
確かに。
あの核は氷山の一角だ。
「……分かりました」
「受けます」
リリアがニヤッとする。
「決まりですね」
エルミナも微笑む。
「当然の選択です」
王が続ける。
「ただし」
「条件がある」
「条件?」
「護衛を付ける」
「いやもういるけど」
「追加だ」
その瞬間。
別の扉が開いた。
カツン。
足音。
現れたのは――
女性だった。
銀髪。
鋭い目。
騎士の鎧。
「王国騎士団、第一席」
「セリスだ」
静かな声。
だが圧がある。
「……強いな」
アレンは一瞬で理解した。
鑑定。
⸻
【セリス】
ランク:A
特性:近接特化・対魔戦闘
評価:極めて高い
⸻
「へぇ……」
リリアが少しだけ目を細める。
「いいですね」
「強そうです」
エルミナも頷く。
「頼もしいですね」
セリスはアレンを見る。
無表情。
「……貴様が例の鑑定士か」
「そうだけど」
「弱そうだな」
「いきなりそれ?」
空気が少し張り詰める。
リリアが一歩前に出る。
「取り消してください」
「事実を言っただけだ」
「じゃあ試します?」
「いいだろう」
ピリッとした空気。
だが。
その瞬間。
アレンの視界が歪んだ。
「……っ」
空間が揺れる。
嫌な感覚。
「全員離れろ!」
叫ぶ。
次の瞬間。
空間が裂けた。
黒。
歪み。
そして――
影ではない。
もっと濃い存在。
「……」
それは現れた。
人の形をしているが、人ではない。
目がない。
だが“視ている”。
「……これが」
エルミナが呟く。
「向こう側……」
アレンの鑑定が反応する。
⸻
【異界使者】
ランク:不明
性質:侵食・観測
危険度:極高
⸻
「……やばいな」
「今までで一番だ」
セリスが剣を抜く。
「戦闘態勢」
リリアも笑う。
「やっと本番ですね」
エルミナも魔力を高める。
「行きます」
アレンは一歩前に出た。
神器が光る。
「来い」
異界使者が動いた。
空気が裂ける。
戦いが始まる。
そして。
ここからが――
本当の戦いだ。
⸻
――第20話 完




