第12話 「罠と距離」
遺跡の内部は、静まり返っていた。
足音だけが響く。
石の通路。
古代文字が刻まれた壁。
そして――
「……おかしい」
アレンは足を止めた。
「何がです?」
エルミナがすぐに反応する。
「静かすぎる」
鑑定を発動する。
⸻
【第一通路】
状態:罠多数
危険度:B
発動条件:重量・魔力感知
⸻
「……罠だらけ」
「やっぱり」
リリアが小さく笑う。
「来ると思ってました」
「いや楽しそうに言うな」
「アレンがいるので余裕です」
信頼が重い。
その時。
床の一部がわずかに沈んでいるのに気付いた。
「止まって」
二人がピタリと止まる。
「この先、一歩でも間違えたらアウト」
「そんなに?」
「矢の罠と落とし穴と……あと毒霧」
「フルコースですね」
リリアが笑う。
エルミナは真剣だった。
「どう突破します?」
「簡単」
アレンは言う。
「踏んでいい場所全部見えてる」
「……本当に便利ですね」
「自分でも思う」
そして。
一歩踏み出す。
「ここ」
次。
「ここ」
まるで道が見えているかのように進む。
リリアが後ろからついてくる。
だが。
「ちょっと待ってください」
エルミナが言った。
「距離が離れると危険では?」
「確かに」
その瞬間。
リリアが即座に動いた。
アレンの腕に絡みつく。
「これで大丈夫です」
「いや近い」
「安全優先です」
完全に言い訳だった。
そして。
エルミナも静かに近づく。
「では私も」
反対側から腕に触れる。
「三人で動けば、より安全かと」
「それはそうだけど」
結果。
再び密着状態。
しかも今回は歩く必要がある。
「……歩きづらい」
「我慢してください」
「我慢ポイント多くない?」
リリアがくすっと笑う。
「集中してください」
その声は少し楽しそうだ。
アレンは息を吐いた。
「行くぞ」
⸻
三人で密着したまま進む。
微妙に揺れる感触。
体温が近い。
どうしても意識してしまう。
(これトラップより危険じゃないか……?)
そんなことを思いながら。
一歩。
二歩。
進む。
その時。
ガコン。
「っ!?」
リリアの足元が沈んだ。
「しまっ――」
瞬間。
壁が開く。
無数の矢。
「伏せろ!」
アレンはリリアを引き寄せた。
そのまま押し倒す。
ドサッ。
矢が頭上を通過する。
カンカンカン!!
「……」
「……」
気付けば。
リリアの上にアレン。
完全に覆いかぶさる形。
顔が近い。
息がかかる距離。
「……アレン」
「はい」
「今のは?」
「防御」
「そういう意味じゃなくて」
リリアの頬が赤い。
だが。
少しだけ嬉しそうでもある。
「……助かりました」
「それならよかった」
その瞬間。
後ろから声。
「……こちらも忘れないでください」
エルミナだった。
少しだけ拗ねたような顔。
「私も危険だったのですが」
「ごめん」
「いえ」
だが。
視線がじっとアレンを見ている。
少しだけ距離が近い。
「次は私を優先してください」
「順番あるの?」
リリアが即座に反応する。
「ありません」
「あります」
「ありません」
「あります」
なぜか言い争いになる。
「今それやる?」
アレンがツッコむ。
だが。
二人とも譲らない。
その時。
アレンの鑑定が再び反応した。
⸻
【第二区画】
状態:守護機構待機
敵性存在:あり
⸻
「……来る」
「え?」
床が光る。
魔法陣。
次の瞬間。
石が動く。
ゴゴゴゴ……。
「またゴーレムか!」
現れたのは三体。
前回より小さいが、数が多い。
鑑定。
⸻
【古代守護兵(量産型)】
ランク:B
弱点:首部接合部
⸻
「弱点首!」
「了解!」
リリアが走る。
動きが速い。
エルミナも魔力を練る。
詠唱。
「――光刃」
光の刃が走る。
ゴーレムの動きが止まる。
「今!」
リリアの一撃。
首が飛ぶ。
ゴトン。
残り二体。
アレンが叫ぶ。
「右!」
「任せて!」
エルミナの魔法。
拘束。
動きを止める。
リリアが一瞬で斬る。
最後の一体。
アレンがナイフを投げた。
弱点へ。
パリン。
崩れる。
静寂。
「……終わった」
リリアが息を吐く。
エルミナも頷く。
「連携、悪くないですね」
「初めてにしては上出来」
リリアがニヤッと笑う。
そして。
アレンを見る。
「さすがです」
「いや二人も強い」
「当然です」
少し誇らしげ。
その時。
奥から光が漏れる。
アレンの視界が反応した。
⸻
【中枢区画】
価値:SSS
内容:高位神器反応
⸻
「……当たりだ」
「え?」
「この奥、でかいのある」
リリアが笑う。
「またSSSですか」
「多分」
エルミナが真剣な顔になる。
「本当にとんでもないですね……」
そして。
アレンの隣に立つ。
少しだけ近い距離。
「あなたの鑑定」
「想像以上です」
リリアも寄ってくる。
「当然です」
「私のパートナーですから」
「だから俺の能力」
「私のです」
「違う」
また始まる。
アレンはため息をついた。
だが。
悪くない。
この距離。
この関係。
そして。
この冒険。
「行くか」
アレンが言う。
二人が頷く。
そして三人は。
遺跡の核心へと進んだ。
その先に待つのは――
未知の力と。
さらに深まる関係だった。
⸻
――第12話 完




