第11話 「密着距離」
ぐい、と腕が引かれた。
「……リリア、ちょっと近い」
「気のせいです」
即答だった。
だが明らかに気のせいではない。
腕に押し当てられる柔らかさが、妙に意識を持ってくる。
しかも。
反対側。
「では、こちらも」
エルミナが静かに近づき、アレンのもう片方の腕に指を添えた。
すっと絡むような感触。
冷たい指先と、微かな体温。
「これでバランスが取れました」
「いや取れてない」
「取れてます」
「取れてないって」
結果。
アレンは左右から挟まれていた。
しかも二人とも距離を詰めてくる。
「……歩きにくい」
「慣れてください」
「慣れるか」
リリアは楽しそうに笑う。
エルミナは余裕のある微笑み。
だがその目は、わずかに競うような光を帯びていた。
(なんだこの状況……)
アレンは内心でため息をついた。
⸻
森を進むことしばらく。
空気が変わる。
静かすぎる。
「……来たな」
アレンの視界に情報が浮かぶ。
⸻
【古代封印領域】
価値:SSS
侵入制限:魔力共鳴
内部状態:不明(高危険)
⸻
「この辺り一帯が遺跡だ」
「もう分かるんですか?」
エルミナが驚いた声を出す。
「なんとなくじゃなくて、完全に」
「はい」
アレンは頷いた。
「入口はあそこ」
指差す。
ただの岩壁。
だが。
「鑑定」
魔力を流す。
空間が歪む。
波紋のように揺れて――
巨大な石門が姿を現した。
古代文字。
重厚な気配。
そして圧倒的な存在感。
「……」
エルミナが息を呑む。
「本当に……見抜いた……」
リリアはドヤ顔だった。
「でしょ?」
「私のパートナーですから」
「だから俺の能力」
「私のです」
「違う」
軽く言い合う。
だが。
その時。
アレンの鑑定がさらに反応した。
⸻
【封印機構】
構造:三層式
解除条件:三者魔力同期
失敗時:防衛機構起動
⸻
「……これ、やばいな」
「何がですか?」
「三人必要」
「え?」
「この門、単独じゃ開かない」
リリアとエルミナが顔を見合わせた。
「三人で?」
「魔力を合わせる必要がある」
「なるほど……」
エルミナが頷く。
「ではどうすれば?」
アレンは少し考えた。
「多分……接触」
「接触?」
「物理的に触れて魔力流す感じ」
「……」
沈黙。
リリアがじっとアレンを見る。
エルミナも少しだけ考える。
そして。
「では」
エルミナが一歩近づいた。
「こうでしょうか」
アレンの手を取る。
指と指が重なる。
そのまま、しっかり握られる。
柔らかくて、少し冷たい。
同時に。
リリアがもう片方の手を取った。
「……仕方ないですね」
だがその力は強い。
ぎゅっと握る。
しかも。
体も寄せてくる。
「ちょっと」
「文句あります?」
「ないけど近い」
「必要です」
完全に言い訳だった。
だが。
三人の距離が一気に縮まる。
呼吸が混ざる距離。
体温が伝わる距離。
妙に意識してしまう。
「……集中しろ」
アレンは小さく言った。
魔力を流す。
二人も同時に。
瞬間。
共鳴が起きた。
ビリッとした感覚。
そして。
門が光る。
低い音が響く。
ゴゴゴゴ……。
石門がゆっくりと開いた。
⸻
同時に。
足元が崩れた。
「っ!?」
バランスを崩す。
咄嗟に。
アレンはエルミナの腰を引き寄せた。
「きゃっ」
軽い。
そのまま体勢が崩れる。
ドサッ。
倒れ込む。
さらに。
「きゃ!?」
リリアも巻き込まれる。
結果。
三人が重なる。
「……」
「……」
「……」
無言。
だが。
完全に密着していた。
腕の中にエルミナ。
上からリリア。
柔らかさが重なる。
距離がゼロ。
「……アレン」
リリアの声が低い。
「はい」
「どこ触ってます?」
「分からない」
「最低です」
「事故だって」
一方。
エルミナは顔を真っ赤にしていた。
「す、すみません……」
「いや大丈夫」
「いえ私が……」
顔が近い。
視線が合う。
その瞬間。
ぐいっ。
リリアが間に割り込む。
「はいそこまでです」
「え」
「これ以上は禁止です」
「何のルール」
「私ルールです」
明らかに拗ねている。
だがその頬は赤い。
小さく呟く。
「……私の方が先なんですけど」
「聞こえてる」
「聞こえなくていいです」
立ち上がる。
そして門の奥を見る。
「行きますよ」
少し強引に話を戻した。
だが。
空気は変わっていた。
ただのパーティではない。
微妙な距離感。
妙な緊張。
そして――
少しだけ甘い空気。
アレンは苦笑する。
(本当に……ややこしくなってきたな)
だが。
悪くない。
むしろ。
どこか心地いい。
「行こう」
アレンが言う。
二人が頷く。
そして三人は。
未発見の遺跡へと踏み込んだ。
その奥に待つもの。
そして。
三人の関係の変化を――
まだ誰も知らない。
⸻
――第11話 完




