表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥遊びのつもりが救国の魔軍将軍?〜執着王女に囲い込まれる引きこもり戦記〜  作者: タルタロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/32

第29話:泥団子の警告と「生きた肥料」

**引きこもり領主 テラ視点**


 地上へのリフトが到着すると、そこはもう夕闇に包まれていた。

 荒涼とした岩場に、冷たい風が吹き抜けていく。


「さむっ! 早く設置して戻ろう」


 私はバケツの中の『ハニ・スライム』――アメーバ状に加工した特製粘着泥を、入り口である岩壁の周辺や、足元の地面にたっぷりと塗りたくった。

 一見するとただの泥溜まりに見えるけど、踏んだり触れたりしたが最後、強力な粘着力で捕らえ、そのまま硬化して動けなくする。

 まさに『対大型ネズミ用・自動捕獲シート』だ。


「よし、これでオッケー。あとは警告文も置いておこう」


 私はミーナさんに描いてもらったリアルなドクロマークの看板を、岩壁の目立つところに突き刺した。

 そして、その下に注意書きを添える。


『ここは私有地です。入る者、泥団子となるべし』


 うん、これで完璧。

 知能のあるネズミなら、これを見て引き返すかもしれないし、強引に入ろうとすれば泥の餌食だ。

 どっちに転んでも、私の安眠は守られる。


「頼んだよ、ハニ・スライムたち。……おやすみなさーい」


 私は満足げに頷くと、さっさとリフトに乗って地下の暖炉の前へと戻っていった。

 外の寒空の下で待つなんて、引きこもりの私にはありえないからね。


          ***


**メルビル侯爵家私兵団「黒犬」隊長 ガリウス視点**


 完全に日が落ち、月明かりだけが頼りの刻限。

 俺たち「黒犬」部隊三十名は、クレイ高原の国境付近にある岩場に到着した。


「へっ、ここが『黄金のカボチャ』の産地だと? 笑わせるぜ」


 俺は馬上で唾を吐き捨てた。

 見渡す限りの不毛の大地。草木一本生えていない。

 だが、オットー商会の馬車がここへ消えていくのは確認済みだ。

 答えは一つ。地下に隠れているのだ。


「隊長。……あれを見てください」


 部下が松明で照らした先に、巨大な岩壁があった。

 不自然なほど滑らかなその岩肌の前に、一枚の看板が立っている。


 俺たちは馬を近づけ、その看板を見上げた。

 禍々しい赤色で描かれた、驚くほど精巧なドクロマーク。

 そしてその下には、子供のような丸っこい文字。


『ここは私有地です。入る者、泥団子となるべし』


「……ぶっ」


 俺は吹き出した。

 部下たちも顔を見合わせ、下卑た笑い声を上げる。


「ギャハハハ! 『泥団子となるべし』だとよ!」

「ガキの落書きか? ここを縄張りにしてる子供がいるのか?」

「ビビらせようとして滑ってやがるぜ」


 緊張感が一気に緩む。

 侯爵様は慎重になれと言っていたが、相手は世間知らずの田舎者のようだ。

 俺は剣を抜き、高らかに宣言した。


「おい、この岩壁の裏が入り口だ。魔導師部隊、こんなふざけた看板ごと吹き飛ばしてしまえ!」


「へい! お任せを!」


 部下の魔導師たちが一斉に詠唱を始める。

 中級土魔法『岩砕撃ロック・ブラスト』。城門さえも粉砕する威力だ。


「放てェッ!!」


 ドゴォォォォン!!


 爆音と共に、魔法の衝撃波が岩壁に直撃した。

 凄まじい土煙が舞い上がり、看板が木っ端微塵になる。

 これで入り口は瓦礫の山――


「……あ?」


 煙が晴れた後、そこに広がっていた光景に、俺たちは絶句した。


 無傷。

 傷一つない。

 岩壁は魔法の直撃を受けたにも関わらず、ひび割れ一つ入っていなかった。

 それどころか、表面がうっすらと青白く発光している。


「ば、馬鹿な! 岩砕撃だぞ!?」

「硬すぎる! なんだこの岩は! ミスリルでも練り込んであるのか!?」


 部下たちが動揺する。

 俺も冷や汗が流れた。ただの岩に見えるが、要塞の装甲板よりも硬い。


「くそっ、魔法がダメなら物理だ! こじ開けるぞ! 全員で取り付け!」


 俺は馬を降り、岩壁に向かって走った。

 部下たちも続く。

 岩壁の隙間にツルハシを打ち込み、無理やりこじ開けてやる。


 そう思って、岩壁の前の地面に足を踏み入れた、その瞬間だった。


 グチュッ。


 嫌な音がした。

 足元が、妙に柔らかい。


「ん? なんだ、泥か……?」


 足を上げようとした。

 上がらない。


「なっ……?」


 見れば、地面にあった泥が、まるで生き物のように俺のブーツを飲み込み、足首まで這い上がってきていた。


「うわっ!? なんだこれ!」

「た、隊長! 俺の足も!」

「取れない! 粘り着いてくる!」


 部下たちの悲鳴が上がる。

 岩壁に近づいた者たちが次々と、地面の泥に捕らえられていく。

 さらに、岩壁に張り付いていた泥がボトボトと落ちてきて、俺たちの肩や頭に覆いかぶさってきた。


「泥スライム!? いや、ゴーレムか!?」


 俺は剣で泥を斬り払おうとした。

 だが、剣が泥に触れた瞬間、刃が飲み込まれ、そのまま腕まで拘束された。


「ぐおおおっ! 離せ! 離れろ!」


 もがけばもがくほど、泥は体中に広がり、絡みつく。

 そして何より恐ろしいのは、その泥が急速に熱を持ち、乾燥して硬くなり始めていることだ。


「か、固まる……? 体が、動かなく……」


 セメントのような強制硬化。

 指先一つ動かせない。声も出せない。

 数分もしないうちに、俺たち「黒犬」部隊三十名は、全員がその場でカチコチに固められた。

 岩壁の前で、無様に転がる三十個の泥の塊。

 

 薄れゆく意識の中で、俺はあの看板の文字を思い出していた。


『入る者、泥団子となるべし』


 あれは脅しじゃなかった。

 ただの事実マニュアルだったのだ。


          ***


**Side:引きこもり領主 テラ**


 翌朝。

 私は日課の収穫作業の前に、リフトで地上へ様子を見に来た。


「おー、かかってる、かかってる」


 岩壁の前には、芸術的なまでにカチコチになった「泥団子」が三十個ほど転がっていた。

 中には立派な鎧を着たネズミ(?)さんも入っているみたいだ。

 私の『ハニ・スライム』の性能テストとしては満点だね。


「チューチュー(助けてくれ)!」

「チュッ、チュウゥゥ(俺は人間だ)!」


 泥団子の中から、必死な鳴き声が聞こえる。

 生命力もバッチリ残ってるみたい。


「よしよし、大漁だね。ハニ・ワン、運んで!」


 私は後ろに控えていたハニ・ワン(アダマンタイト)に指示を出す。

 ハニ・ワンは泥団子を軽々と抱え上げ、地下へのリフトへと積み込んでいく。


「これだけ元気なら、いい肥料になりそう。さあ、地下の畑へご案内〜!」


          ***


 地下工房、カボチャ畑。

 発光苔が優しく照らすその一角に、新たな三十個の穴が掘られた。


 ハニワたちが、泥団子を丁寧に穴へ埋めていく。

 首から上だけを地面から出して、体はすっぽりと土の中へ。

 泥でガチガチに固められているから、彼らは身動き一つ取れない。


「殺さないよ〜。殺しちゃったら、マナの循環が止まっちゃうもん」


 私は恐怖に顔を引きつらせる彼らの頭を撫でながら、ニッコリと説明した。


「生きてるほうがマナを放出するから、いい肥料になるんだよ〜。特にあなたたちみたいに元気なネズミさんは、マナがいっぱい詰まってるからね!」


 彼らの頭の横に、新しいカボチャの苗を植える。

 彼らの体から漏れ出る生命力マナを吸って、苗がすくすくと育つように。

 これが私の考えた『究極の循環型農業』!


「ヒィィィィ!」

「ヤ、ヤメロォォォ!」


 彼らが何か叫んでいるけど、私には「水と土が気持ちいい!」という喜びの声にしか聞こえない。

 だって、美味しいお水を貰って嫌がる生き物なんていないもんね。


「水と発光苔の光をいっぱい浴びて、痩せ細るまで頑張ってね! 来年のカボチャは、きっと甘くて美味しくなるぞ〜!」


 私はジョウロで水をたっぷりかけてあげた。

 逃げ出さないように、土の上に出ている部分にも定期的に泥を塗り足せば完璧だ。

 畑に並んだ三十個の「生きた肥料」たちは、シュールだけど、どこか神聖な雰囲気すら漂わせている。


「うん、いい仕事した! シルヴィア様にも教えてあげなきゃ」


 私は満足げに頷くと、作業台に向かった。

 手紙を書こう。

 『害獣駆除もできて、最高の肥料が手に入りました。カボチャの収穫を楽しみにしていてください』と。


 地上の荒野から消えた三十人の男たち。

 彼らがその後どうなったのかを知る者は、この地下帝国以外には誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ