表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥遊びのつもりが救国の魔軍将軍?〜執着王女に囲い込まれる引きこもり戦記〜  作者: タルタロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

第18話:王女、泥の報告を聞く

 **女王 シルヴィア視点**


 アステリア王国、王都クリスタルパレス。

 その中心に聳え立つ王城の最奥、『白百合の間』は、豪奢な装飾とは裏腹に、澱んだ空気に満ちていた。 

 窓の外には美しい王宮庭園が広がっているが、私の目には灰色の石壁にしか映らない。

 玉座に深く沈み込み、私は溜息をついた。


「……退屈ね」


 私の呟きに、控えていた侍従たちがビクリと肩を震わせる。

 無理もない。今の私は、機嫌が最悪だ。


 私、シルヴィア・フォン・アステリア。

 この国の第一王女であり、病床の父王に代わって政務を執る摂政。

 そして、伝説の聖剣『エクスカリバー』に選ばれた、救国の乙女。

 

 ……聞こえはいいわ。

 でも実態は、腐敗した貴族たちの利権争いと、東のガイスト帝国からの圧力に挟まれた、籠の中の鳥よ。

 毎日毎日、あがってくるのは暗い報告ばかり。

 『北部のマナ鉱脈が枯渇しました』『帝国軍が国境付近で演習を強化しています』。


 うんざりする。

 いっそ、この腰の聖剣で、鬱陶しい書類も貴族も全部両断してしまえば、少しは清々するかもしれないけれど。


「シルヴィア殿下。……緊急の報告がございます」


 重苦しい扉が開き、王室諜報部の長官が入ってきた。

 いつもは能面のように感情を見せない古狸が、今日は珍しく、額に脂汗を浮かべている。

 足取りも重い。まるで、死神の宣告でも持ってきたかのような顔だ。


「あら、どうしたの? またどこかの男爵が税をごまかしたとか、そんな話なら後になさい」


「いいえ、殿下。……事態は、もっと深刻かつ不可解です」


 長官は震える手で、一枚の羊皮紙と、魔導写真を私の前のテーブルに置いた。


「東部国境、クレイ高原にて……帝国軍の斥候部隊が『消失』しました」


「消失? 撤退したのではなく?」


「はい。……文字通り、消えました。通信記録によれば、彼らは何者かと交戦し、わずか数分で全滅した模様です」


 私は眉をひそめた。

 ガイスト帝国の機械化歩兵。

 マナを動力源とする蒸気機関マギ・スチームで武装した、大陸最強の精鋭たち。

 彼らの進軍は「鉄の津波」と恐れられ、我が国の誇る魔法騎士団でさえ、正面からぶつかれば無事では済まない。


 それが、全滅?

 しかも、たった数分で?


「帝国の自作自演? それとも、伝説級の魔獣ベヒーモスでも目覚めたのかしら」


「そ、それが……。救援に向かった帝国の偵察機が撮影した映像を、我が国の『鷹の目』が傍受しました。……これをご覧ください」


 私はテーブルの上の写真を手に取った。

 不鮮明なモノクロの画像。

 上空から撮影された、クレイ高原の一角だ。


 そこに写っていた光景を見た瞬間、私の思考が凍りついた。


「……何、これ」


 荒涼とした大地に、無数のわだちが刻まれている。

 帝国軍の重装甲車が通った跡だ。

 しかし、その轍は、ある一点でプツリと途切れていた。


 まるで、神隠しにでも遭ったかのように。


 爆発の跡もなければ、車両の残骸もない。

 ただ、轍が消えたその先の地面が、不自然なほど滑らかに「整地」されているだけ。

 

「……飲み込まれた、というの?」


 背筋に冷たいものが走った。

 これは、破壊ではない。

 「捕食」だ。

 大地そのものが口を開け、鉄の軍隊を咀嚼し、飲み込んで、何事もなかったかのように口を閉ざした。

 そんな、圧倒的な大質量の変動を感じさせる。


「報告では……現場周辺には高濃度の『土属性マナ』が残留しています。それも、既存の魔法体系とは全く異なる、異常なほど緻密で強力な術式です」


「土魔法……?」


 私は鼻で笑った。

 土魔法といえば、農民が畑を耕したり、工兵が壁を作ったりするための地味な魔法だ。

 戦闘においては、動作が遅く、火力も低い「最弱属性」というのが定説である。


 それが、鉄の鎧を纏った帝国兵を一方的に蹂躙し、証拠隠滅までやってのけたというのか。


「……面白い」


 ドクン。

 退屈で死にかけていた私の心臓が、早鐘を打った。

 冷え切っていた血が、熱く脈打ち始める。


 帝国の鼻を明かした正体不明の『土の使い手』。

 もし、その力が本物なら。

 衰退する一方のアステリア王国にとって、起死回生の切り札になるかもしれない。

 いいえ、そんな政治的な打算はどうでもいい。


 私は、会ってみたいのだ。

 この退屈な世界に風穴を開けた、その「誰か」に。


「長官。……私の『白銀の天馬ペガサス』を用意なさい」


 私は立ち上がった。

 ドレスの裾を翻し、呆然とする長官を見下ろす。


「なっ、殿下ご自身が!? 危険すぎます! 相手は帝国軍を消し去るような化け物ですぞ!?」


「化け物? 結構じゃない」


 私は唇の端を吊り上げた。

 鏡を見なくてもわかる。今の私は、きっと「慈悲深い王女」の顔なんてしていない。

 獲物の匂いを嗅ぎつけた、肉食獣の顔だ。


「毒を以て毒を制すのが私のやり方よ。……それに、最近剣の稽古相手がいなくて体が鈍っていたところなの」


 私は腰の聖剣の柄を撫でた。

 

 待っていなさい、正体不明の土魔法使い。

 貴方がこの国の救世主か、それとも滅ぼすべき魔王か。

 私のこの眼で、見極めてあげる。


 私は窓を開け放ち、東の空を見つめた。

 灰色の雲が垂れ込めるクレイ高原の方角。

 地上の誰もがまだ知らない、その「消失点」の地下に、何が潜んでいるのかを。


          ***


**引きこもり領主 テラ視点**


「~♪ カボチャのカ~ボちゃん、お水をごっく~ん♪」


 地下の工房に、私の間抜けな鼻歌が響き渡る。

 

 私は今、至福の時間ときを過ごしていた。

 目の前には、見渡す限りの緑。

 私の可愛いカボチャ畑だ。

 昨日の「大掃除(という名の帝国軍殲滅戦)」の後、ハニ・ツーが完璧に清掃と整地を行ってくれたおかげで、温室は以前よりも広くなり、カボチャたちも伸び伸びと葉を広げている。


 もちろん、天井の穴も綺麗に塞いだ。

 外から見れば、ただの荒野にしか見えないはずだ。

 完全犯罪……じゃなくて、完璧な隠蔽工作だね。


「うんうん、いい艶だねぇ」


 私はジョウロ(素材:帝国軍装甲車を溶かして作った魔導合金製)を傾け、たっぷりと水を撒く。

 この水もただの水じゃない。

 ハニ・ワンの魔力炉の余熱でお湯にし、ハニ・ツーがろ過したミネラルたっぷりの温水だ。


 そして何より、畑の栄養状態が最高だ。


 畑の隅っこ。

 新しく拡張したエリアには、奇妙なオブジェが並んでいる。

 地面から首だけ出した、数十人の男たち。

 昨日の戦闘で捕獲した、元・帝国軍第3斥候小隊の皆さんだ。


「はい、お水ですよ~。乾燥はお肌に悪いからね~」


 私が水をかけると、一人の兵士(たしか隊長さんだったかな?)が、うつろな目でこちらを見上げ、口をパクパクさせた。

 

『……こ、殺……せ……』


 おやおや、まだそんな物騒なことを言っている。

 ハニ・ツーの特製拘束粘土は、対象の意識レベルを低下させ、植物に近いトランス状態へと誘導する機能がある。

 痛みはないはずだし、栄養(私の特製スープの残り)も点滴のように粘土経由で供給している。

 彼らはただ、ここでじっとして、体温と微量なマナを土に還元してくれればいいのだ。


 これぞ、究極のエコシステム。

 SDGs(すごく・泥で・がっちり・システム)だ。


「感謝してね。普通なら侵入者は即座に肥料(物理)にするところを、こうして生かしてあげてるんだから」


 私は慈愛に満ちた笑顔で、隊長さんの頭に大きなカボチャの葉っぱを乗せてあげた。

 日除けだ。優しいでしょ?


『マスター。……収穫予想、前回比150%増』


 背後から、ハニ・ツーの冷静な報告が届く。

 彼は四本の腕を器用に使い、カボチャの実の下にわらを敷いている。


『ハニ・ワンの方はどう?』


『……快調。鉄屑の再利用、順調』


 工房の方からは、ハニ・ワンの頼もしい思念。

 昨日の戦闘で手に入れた大量の鉄屑(装甲車や武器の残骸)。

 それらは今、ハニ・ワンの炉で溶かされ、私の新しい「遊び道具」へと生まれ変わりつつある。


 帝国の鉄は質がいい。

 不純物が少なくて、魔力を通しやすい。

 おかげで、欲しかった道具が次々と完成している。


 例えば、これ。

 『自動追尾式・草むしりドローン(試作型)』。

 帝国軍の通信機に使われていた浮遊石と、ハニ・スリーの余ったパーツを組み合わせて作った、手のひらサイズの小さな円盤だ。

 雑草のマナパターンを感知して、ピンポイントで引っこ抜く優れもの。


「よし、テスト起動!」


 私が魔力を流すと、ドローンはプカプカと浮き上がり、畑の雑草に向かって突撃していった。

 ブチッ。

 見事に雑草を抜いて戻ってくる。

 可愛い。まるでペットだ。


「平和だなぁ……」


 私は温室の真ん中で、大きく伸びをした。

 

「さて今日の夕飯はどうしよう。カボチャのニョッキにするか、カボチャのリゾットにするか」


 オットーから貰った小麦粉とチーズがある。

 ニョッキなら、モチモチの食感が楽しめる。

 リゾットなら、お米にカボチャの甘みが染み込んで……ああ、選べない。


「ねえハニ・ワン、どっちがいいと思う?」


 工房の方角へ問いかけると、

『……両方』

 という、欲張りで素晴らしい回答が返ってきた。


「採用! さすが私の相棒!」


 私はスキップしながらキッチンへ向かった。

 ふと、足元の地面が微かに震えたような気がしたけれど、ハニ・ツーがまた地下で拡張工事でもしているのだろう。

 私は気にせず、鼻歌のボリュームを上げた。


 私の引きこもり生活。

 それは、今日も昨日と変わらず、皮肉なほど穏やかで、そして狂気的に満ち足りていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ