天界の仲間たち
目が覚めた時、俺――天宮一矢は、ふかふかのソファに寝転がっていた。目の前には信じられない光景が広がっている。天井は高く、壁には煌めくステンドグラスが埋め込まれ、足元には雲のような床。遠くには雄大な空と、幾つもの世界が浮かんでいるのが見える。
「……本当に天界なんだな、ここ」
めんどくさそうに呟く俺の前に、豪快な笑い声が響いた。
「おう、お目覚めか、新入り!」
声の主は、屈強な身体に無精髭、陽気そうな笑顔の男。俺の直属の上司になるという【ガルド】だった。
「まぁ座れ。お前のことはヴェルグ様から聞いてる。魂の質がいいからってスカウトされたんだとさ。いいじゃねぇか、第二の人生、いや天使人生の始まりだ」
「まぁ、やるしかないっすね……はぁ」
ため息をつきながらも、ガルドの隣の席に腰を下ろす。どうやらこの天界は完全に職場らしく、俺もこれから天使として色んな世界の問題解決をするらしい。
すると、ガルドがニヤッと笑いながら指を指した。
「お、こいつらも紹介しとくか。同期や先輩になる連中だ」
まず目に入ったのは、一際クールな雰囲気の青年。銀髪を後ろでまとめ、鋭い眼光を持つ彼は、腕を組み静かに立っていた。
「こいつは【レイン】。クールで寡黙な仕事人だ。ミスはしねぇし、スピードも正確さもピカイチ。ただし人付き合いは基本冷たい」
「おい」
レインが静かに眉をひそめるが、ガルドは気にしない。
「次は――おっと」
後ろから不意に声が飛んだ。
「ちょっと、新入りの教育係は私でしょ?」
声の主は、長い赤髪をポニーテールにまとめた美女。鋭い吊り目に整った顔立ち、引き締まった肢体――まさに強気美女。
「【クロエ】だ。気の強い先輩で、怒るとちょー怖いけど実力は一級品。お前の最初の教育係はクロエだから、覚悟しとけよ」
クロエがキッと睨む。
「覚悟しなさいよ、カズヤ。一人前になるまでは鍛え倒すから」
「……よろしくお願いします……」
思わず言葉が小さくなった。
さらにガルドが肩をすくめながら続けた。
「んで、最後に紹介しとくのが、こいつ」
隣のソファに座っていた少女が、足を組んでこちらを見上げていた。美しい金髪に澄んだ青い瞳、幼くも可憐な容姿。だが、どこかツンとした雰囲気が漂っている。
「【リーナ】だ。見た目は若いが歴とした同僚の天使。性格はツンデレで最初はきつく当たってくるけど、実は面倒見がいいって噂だ」
「ふ、ふん。別に仲良くしようなんて思ってないわよ」
リーナがそっぽを向きながらも耳を赤く染めている。
(これは……面倒くさいタイプだな……)
そんな第一印象だった。
ガルドが両手を叩き、場の空気を締めた。
「まぁ、ざっくり言うと、お前は今日からこのメンバーの一員ってわけだ。慣れるまではクロエの下で鍛えられて、いずれは世界の案件を任される。もちろんヴェルグ様の無茶振りも覚悟しとけよ」
「あー……なんかいろいろ面倒そうだなぁ……」
思わず本音が漏れると、ガルドが大笑いし、クロエが苦笑いし、レインは目を閉じ、リーナは小さく「バカみたい」と呟いた。
こうして、俺の天使としての新しい生活が始まった。
次回からは本格的な地獄の訓練が待っているなんて、この時の俺は知る由もなかった。