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 2043/07/26 (日) 13:17

 横浜市内 『焼肉 炎煌(えんこう)』総本店


 探索者ギルドでのいざこざの聴取や、()()()()()()のことなどを話し終え、カイト、アカネ、ナナミンの三人は解放。少々時間はズレたものの、その店——関東を中心にチェーン展開している人気の焼肉店『焼肉 炎煌』の一号店であり、本店へとやってきたカイト、アカネ、ナナミン。その目的は、とある人物とのランチ。その、とある人物とは——


「——道理で、音沙汰なかったわけやな」

「ネットでも騒がれてたもんね、阿修羅はどこだー、さがせー、って——」


 糸目茶髪の優男、生天目 良悟。『月煌蝶(げっこうちょう)』のクランマスターである。その隣には女性の姿、カイトとアカネは初見である。


「ホンマそれやで!キミんことは、表でも水面下でも結構なお祭り騒ぎやったんや。実際、ウチも目付けとったし、ま、本人不在やけど♪しっかし、まさか——学生やったとはな」


 カイトとアカネは高校一年生、現役の学生である。現在、夏季休暇を満喫中。


「学生が階層主ボコるなんて夢にも思わんかったわ♪それに、藤堂先生のお孫さんっちゅうことは当然、リンガクやろ?」


 私立竜胆学園、通称リンガク。去年、渋谷に開校。世界初となる、特殊な教育課程を導入したことで知られている。カイトとアカネは新入生として、この春、入学している。


「あれ?リンガクって確か、新入生は秋までダンジョンに行けないとかじゃなかったっけ?」

「基本的にはそうですね。おじ……んっんっ、学園長からの許可があれば、新入生でも行けますけど——」

「爺ちゃん、厳しいもんねー」

「くっくっく、ええねんで、アカネちゃん。ワイもコイツも知っとるさかい」

「は、はい……」


 世界初となる教育プログラム——探索者及び傭兵としてダンジョンを攻略していくために必要な知識や技術を授業科目として体系化したもの——を導入した、攻略者を育成することを目的として設立された教育訓練施設。

 それが、私立竜胆学園——第三世代と呼ばれる者たちが育っている場所である。ちなみに、学園長は藤堂 源慈、理事長は竜胆 小梅である。


「——で、ひたすらサイレント注文して黙々とモグモグしとるナナミンは相変わらずやね」

「あ、お構いなく」

「あいよ。ナナミンはその調子で、ウチの売上に貢献しといてな!」


 リョウゴにサムズアップで応えるナナミンは、歴戦のフードファイターに勝るとも劣らないお肉限定爆食女子で、『焼肉 炎煌』の常連の中の常連。元アイドル時代から通っていたからこそ、リョウゴや隣の女性と仲良くなったともいえる。

 ここ、焼肉 炎煌は、月煌蝶が経営するお店。クリムゾン・オーダーが経営する山清楼の最高責任者が、花宮 加奈であるように。焼肉 炎煌は、リョウゴが最高責任者である。


「——総長、そろそろ本題に入ったら?」


 リョウゴを総長と呼ぶこの女性は、月煌蝶において、リョウゴに次ぐ立場にある者。そして、カナやリョウゴと同じく、EX級探索者の一人。

 月煌蝶副長、上原(ウエハラ) 風花(フウカ)。『シルフィード』の異名で知られている世界屈指の風使いであり、リョウゴと同じく、第二世代と呼ばれる者たちの一人である。


「せやせや、忘れるところやったわ!フウカから聞いたけど、カスマのとこの……なんやったっけ……ああ、そうそう『ブラックドッグ』や。今日、こっちのギルドに、ちょっかいかけに来たんやろ?」


 先程、探索者ギルド内で、カイトが阿修羅にならざるをえない程のバカなことをしでかしたのが、ブラックドッグという名の()()()()()の者たちだった。


「藤堂先生から聞いてるかわからんけど、今、横浜の裏側がバッチバチなんや。我らがグランドマスターのウメさんとか、クリムゾン・オーダーの主戦力であるカナちゃん()がこっち来てんのも、それが原因でな——」


 リョウゴ曰く、二ヶ月ほど前から、()()()()()()()()()()()()、探索者が何者かに襲われ始めた。既に死者も出ており、その中にはカイトやアカネと同じように、十五歳になったばかりのルーキーも含まれていたとのこと。


「異変に気づいたワイらが黙ってる訳もない。ルーキーらには必ずベテランがつくようにして、その逆に、ベテランは自らを囮にした。で、それが功を奏して犯人を捕まえたんや。そしたらそいつら、傭兵クランの奴らでな。その日からアイツら、襲撃を激しゅうさせよった。ただ、そのおかげで、ワイらは気づいた。暴れとる傭兵クランには共通点があった——ルミナス傘下の奴らだけが暴れとったんや。これが一か月前くらいの話やね」


 傭兵クラン『ルミナス』。新人探索者であるカイトからオーガヒーローの魔石を実質タダで奪おうとしたものの返り討ちにあった、ナルシストな銀髪男カルマがリーダーを務めるクランである。


「——で、今はもう、キミらがさっき見た通りの有り様やね。こっちのギルドにわざわざ来て、CとかDの奴らに絡んで、連れて行こうとすんねや。外で出待ちするのはもちろん、中ぁ入って掲示板見とるランクの低そうな奴らを取り囲んで、ってな具合やね。ワイらみたいな高ランク帯の奴らが、必ず、ギルドに詰めとるわけやない、そもそもダンジョン行くんが探索者やからな……まあ、ここまでが前提の話、本題はここからや……ここまでの話、聞いて、誰が悪もんやと思う?」

「カなんとかって人!」

「うんうん、そら、そう思うわな。あ、カスマって覚えとくとええで♪(アイツも難儀やな、自分の腕ぶった斬った阿修羅に、名前すら覚えられてへんとか……)」

「私も、カスマって方かと思ったんですが……もしかして、傭兵ギルドの偉い方ですかね?」

「確かに、それはあり得るわな。カスマも噛んでるとは思うとるが、あまりにもあからさま過ぎるやろ?自分のところの傘下の奴らにあんだけやらせといて、いくら自分のところはやってない言うたかで、疑われないわけあるかいな。いくらカスマがクズゆうても、そんくらいはわかるやろ?ほんなら、なんで、あないに疑われるようなことをカスマはしたんや?カスマの本意やなくて、裏に、カスマんこと操っとる奴がおる?ほんなら、そいつは誰や?傭兵クランの上言うたら傭兵ギルドや。なら、傭兵ギルドの誰かが今回の黒幕なんやろか……と、こんなふうに、アカネちゃんも思ったわけやろ?」


 こくこくと頷くアカネ、それを見たリョウゴは言葉を続ける。


「そら間違いやないけど、正解とは言い難いんや。知るべき前提が抜けとるのに、正解に辿り着けるわけあらへんやろ?」

「前提、ですか?」

「今も昔も、どんなとこでも、表がありゃあ裏がある。探索者ギルドや傭兵ギルドが表とすりゃ、そいつらは裏。てなわけで、本題いこか!月煌蝶総長、生天目 良悟から阿修羅に正式な依頼や——」

「ほえ?」


 いつもヘラヘラしているリョウゴが真剣な表情となり、細目がカッと開く。


「——今回の件に関わってる()()()()潰しに協力してほしいんや、頼めるやろか?いや、ちょっ、目開いたー、ちゃうねん、ホンマ頼むで——」


 ダンジョンの利権を奪い取るためなら、どんな手段でも——非合法で悪辣なやり方も厭わない、探索者や傭兵を名乗る人類の裏切り者たちが集まる組織。


 それが闇ギルド、ダンジョン攻略を阻む、獅子身中の虫の総称である。

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