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聖女として召喚されました(※終了済)

1 聖女、願っただけで全部終わった件について

いや、モーゼじゃあるまいし。


――そう思った。


 


黒く濁った瘴気が一面に立ちこめる荒野。

人は数分と立っていられず、動植物すら死に絶えた土地。

その中心に立つ七海のまわりだけが、ぽっかりと空いていた。


 

「……臭い、って思っただけなんだけどな」



呟いたその声に応じるように、瘴気が音を立てて後退していく。

霧が晴れるように大気が澄み、土の色が戻っていく。

遠くでは木々が芽吹き、枯れた花が花弁を開いていた。



――わずか数分。

それだけで、この広大な“死の地帯”は完全に浄化された。


 

チート。


 

もはやその一言に尽きた。



――――――

 


七海がこの異世界に来たのは、ほんの数日前のことだった。


大学の講義を終え、帰り道にコンビニで買ったアイスを片手に、玄関の鍵を開けようとした瞬間、


目の前が、光に包まれる。


 

気がつけば、見知らぬ豪奢な広間の真ん中に立っていた。




「成功した……聖女様だ!」

「神託は真であったのだな……!」



金と緋色の装飾が施された空間。

その中心には荘厳な玉座があり、銀髪の壮年の男が立ち上がった。

 

「異邦の聖女よ、ようこそ我が国へ。我はこの国の王――ルクレティウス王国、第四十二代国王、グラウス・ルクレティウスである」


国王と名乗るその人物は、高圧的というよりも、驚きと感謝を湛えた表情を浮かべていた。

その隣に控える、穏やかな笑みをたたえた青年が一歩前に出る。


「そして、我が息子にして王太子。レオンハルト・ルクレティウスです。聖女殿、以後お見知りおきを」


「え、あ、どうも……」


ぽかんとしたまま、七海は頭を下げるしかなかった。


続いて、やや鋭い眼差しをした白髪の老人が前に出る。


「私は宰相、エルヴァイン・バルストリウスと申します。王政の補佐を務めております。聖女殿の身の安全、そしてこの国の秩序のために、全力を尽くす所存です」



最後に、厳かな雰囲気をまとった白衣の老神官が歩み出た。


「我は神殿長、大司教ミレウス・フォン=グラナ。女神よりの神託に従い、貴女をお呼びしました。この国の救済は、聖女様の力にかかっております」



(……情報量が多い)


ただでさえ混乱している頭の中に「聖女」「救済」「神託」といったワードが飛び交い、

七海の思考は完全にキャパオーバーしていた。


 


――――――


 


その後、用意された部屋に通され、簡単な説明がなされた。


ここは王城であり、このルクレティウス王国は長年「瘴気」と呼ばれる有毒な魔力汚染に悩まされている。

土地が腐り、作物が育たず、民は病み、国力は衰える一方。

隣国との争いを避けつつ、国内の病巣を食い止めるのがやっとの状態だった。


そしてついに、神殿に“聖女召喚”の神託が下されたのだという。


 

「……聖女っていうのは、その……何をすればいいんですか?」


七海の問いに、大司教が穏やかに答える。


「主に、“浄化”です。瘴気に覆われた土地を清め、人々を癒やし、国を癒す。それが聖女の役目です。女神は、そうした奇跡を起こす力を貴女に授けた」


「……そんなこと、私にできるんですか?」


「できるからこそ、呼ばれたのです」



淡々としたその言葉は、なぜか妙に説得力があった。


 


――――――


 


そして今日。


王都から離れた“瘴気の死地”へ向かい、試しに「臭いのやだな、綺麗になればいいのに」と願っただけで――


すべてが終わった。


 

(浄化って、もっとこう、ちょっとずつやるもんじゃないの……?)


まるでゲームのラスト技のような威力だった。

王国の重臣たちが口を開けて見守っていたのも、無理はない。


 

――――――


 


王城に戻ると、騎士たちは揃って平伏し、

大臣たちは蒼白な顔で敬語を連ね、

侍女たちは誰ひとり目を合わせようとしない。


 

七海は椅子の背にもたれ、

出されたお菓子に手をつけることもできず、ただ苦笑していた。


「これ、ありがたがられてるってより……怖がられてない?」


自身が言葉を発するだけで静けさが増す。

沈黙が、空気をさらに重くする。



 (……帰りたい)


ちなみに、召喚の術式は壊れており帰還の方法はない――

そう、宰相が断言していた。


 

「なるようにしか、ならないよね……」


そう呟いたものの、それは自分を納得させるための言い訳のようにも思えた。


 


彼女の座右の銘、“なるようになる”。


普段なら気楽さを象徴する言葉が、

今はひどく空虚に響いていた。


 


――――――



「七海様、殿下がお見えになります」


控えめなノックのあと、侍女が告げた。


 


国の未来を担う王太子であり、

若くして政務の一部を任される“実力者”と評されている。


周囲からは、優雅で穏やかな物腰で完璧な王太子として称えられている王子。


でも正直、私はそう簡単に信じられなかった。



(きっとあの偉いおじさんたちが、若い女が来たら「イケメンよこしとけば大人しくなるだろう」って判断して、あの人を差し出しただけなんだろうな)


 そう思うと、ますます素直に接する気になれなかった。



(……次はあの人と、庭園で話すことになってるんだよね……)


七海は静かに息を吐いた。

この先、どうなるのかまだ分からないままに。

 


処女作です。

お手柔らかにお願いします。

誤字脱字などありましたら優しく教えてください。


6/18 行間など細かいところを修正しました。

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