「城下町の市場調査-巡礼編ⅩⅤ 家政婦体験篇Ⅲー」
「閉門──」
低く、重い声が響き渡り、背後で鉄の扉が重々しく閉ざされる音が再び鳴り渡った。
私は荷台でその光景を、しっかりと見届ける。
(本当に閉まったな……。
ここが、アヴェーラの屋敷──。)
自分自身の意志と好奇心だけで、ナーレの家政婦体験にねじ込んでもらった──。
私は視線を下に落とし、思考を巡らせる。
いや──?
最初から、すべてはアヴェーラの計算ずくの舞台装置だったのかもしれない。
そう結論付けると、私は荷台の中を見渡した。
すると──
先ほどはいなかった、独りの乗客がいることに気づく。
【やぁ──? 君は独りだね? そうだね?
フィーネ──いつも、こうなのかい?】
その男は──
そう、私に問いかけてきた。
──フィーネなら、
きっとこうして静かに見守ってしまうだろう。
「あんた……何が目的なの?
ただ、そうやって眺めてるだけなのか?」
「そうやって……?」
眉をひそめ、声にわずかに苛立ちを滲ませる。
「『そう』って、いったいどれのことを指してるんだ?」
その瞳を見据え、相手は軽く肩をすくめた。
「どれって、『アレ』に決まってる!」
私は声を荒げた。胸の奥の熱が、言葉となって飛び出す。
男は微かに笑みを浮かべ、
中指を立てて私に向かって左右に振る。
挑発的なその仕草に、思わず視線が釘付けになる。
【『アレ』とはどっちのことかね?】
言葉は静かに、しかし鋭く突き刺さる。
視線と指先が交錯し、空気が張り詰める――
怒りと嘲りの間で、二人の距離はわずかに縮まったまま止まった。
【それとも――?
『どれらか』、そう尋ねているのか?】
男はゆっくりと中指を折りたたみ、
人差し指だけを立てる。
その指を、まるで私の反応を計るかのように、
左右にゆっくり、ゆっくりと揺らす。
そして、小刻みに止める。
挑発の速度が意図的で、
時間が引き延ばされるように感じられた。
私の胸は焦れ、心臓の鼓動が耳にまで届く。
言葉は静かだが、刃のように鋭い――
問いは私を捕らえ、動けぬように絡みつく。
「全部だよ。 あんださ?
そうやって――」
その言葉に、男の視線がぴたりと止まる。
【また、『そう』と言ったね?
君はどうしたい?】
指先の揺れは止まり、
空気は一瞬で鋭利になる。
言葉の端々に挑発と計算が潜み、
私の心臓は思わず跳ね上がる。
「どうしたい?」――問いは単なる確認ではなく、
私を試す刃のようだ。
私はその視線に押され、言葉を飲み込みかける。
同時に、逆らうべきか、受け入れるべきか――
微妙な均衡が、瞬間の間に生まれる。
【ほら──。君はまだ決めきれてない。】
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、視界が一瞬揺れる。
【どっちでも、どれらでも、
それでもない、あれでもない。】
男は指を折り、切り替えて、中空を指さした。
指先が中空に固定される。
思わず息を止め、
視線がその指先を追った。
男の声は低く、
しかし確固たるリズムを持って空気に刻まれる。
言葉のひとつひとつが、
私の胸の内を正確に見抜いているかのように刺さる。
視線の先にあるのは、嘲る笑みでも、期待でもない――
ただ、鋭く試す刃のような静かな圧力。
息がわずかに詰まる。
決めなければ、でも決められない。
その揺らぎを、
男は余すところなく楽しんでいるかのようだ。
【君は尋ねてきたね?
この私に?、『何が目的なの?
ただ、そうやって眺めてるだけなのか?』】
言葉は静かに響くが、その奥に圧倒的な力が潜んでいる。
問いはただの質問ではない――
相手の内面を試し、揺さぶる刃のようだ。
【逆に尋ねてやろう?
『君は何が目的』なのか?、
『ただ、そうやって眺めてるだけ』なの?】
声がゆっくりと、
しかし確実に私の胸を締め付ける。
問いは跳ね返され、
同じ形で返ってくる――
鏡のように、私の心の揺れを映し出す。
視線が絡み合い、空気は静かな戦場となる。
私は一瞬、言葉を探すよりも先に、
存在そのものを試されている感覚にとらわれた。
【相手に尋ねて良い時は、
応えられる時にのみ赦される。
君はそれを、学び得たのだ。】
その言葉には、軽い諭しの響きと、
揺るぎない優位性が同居している。
静かに、確実に、胸の奥に刻まれる刃のような真理。
視線は逃げ場のない深淵を示し、
私の心は思わず硬直する。
問いかけることの重み――応えることの責任――
すべてを、知らず知らず内面で咀嚼させられる感覚。
【君が望むことを肖って、着飾ってあげよう。
それが、君が望んでいることだ。
そうなんだろ?
だから、『付いて着た』んだ】
言葉のひとつひとつが、
まるで私の内面を正確に穿つかのように響く。
微かに揺れる声のリズムに、
挑発と皮肉、そして計算された優越感が混ざり合う。
視線は私を試す獣の目のようで、
逃れようとしてもすぐに捕らえられそうな圧迫感。
私は思わず言葉を探す前に、
胸の奥で自分の欲望や期待が露わにされるのを感じた。
その言葉はまるで私の選択を先取りして笑うかのように、
ゆっくり、確実に心の奥底まで届く――
私が『付いて着た』理由を、
逃げ場なく突きつけるように。
「あんたは……そうやって」
喉が詰まる。言葉を吐き出しかけて、思わず噤む。
(また……同じ轍……踏みそうになった……)
胸の奥で、苛立ちと焦り、
ほんのわずかな恐怖が絡み合う。
思考は瞬間的に鋭く回転し、
口に出せば自分を破滅させるかもしれないと警告する。
言葉を飲み込み、息を整える。
視線は相手に向いているのに、
心は逃げ場のない迷路の中に囚われたままだった。
【だから『そう』やって、君は此処に来た。】
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、思わず息を吐く。
【『そう』謝ることはない。君は『正しい』】
その言葉に、視界がわずかに緩み、心の奥に光が差すようだった。
言葉は静かだが、深く確かな重みを帯びている。
その響きに、胸の奥で固まっていた緊張がわずかに緩むのを感じた。
「正しい」――たった一言が、苛立ちや迷いで揺れていた心を揺さぶり、
ほんの少し光を差し込む。
視線は変わらず鋭いままだが、そこに苛立ちではなく、理解と承認の影が宿る。
私は言葉を受け止めながら、自分がこの瞬間、確かにここに居る理由を理解する――
逃げても、抗ってもなく、ただ『此処に来た』という事実そのものが、正しさの証であることを。
言葉は静かだが、深く確かな重みを帯びている。
その響きに、胸の奥で固まっていた緊張がわずかに緩むのを感じた。
「あんたは何処に導くんだ?」
胸がぎゅっと締め付けられ、視界がわずかに揺れる。
「何処に行かせる気だ……?」
指先が中空を揺れ、視線が絡みつく。逃げ場のない感覚が胸に重くのしかかる。
言葉は純粋で、焦りや怒りの混じらない、
ただの問いかけだった。
胸の奥から自然に湧き上がる疑問が、
声となって男に届く。
【『何処』に?、『行く』とは?、『導く』とは?】
男の声は静かに、
巧妙に言葉を裂くように返ってくる。
問いは鏡のように跳ね返され、
意味の輪郭を揺らされる。
空気は微妙にねじれ、
私の心は一瞬、混乱と好奇心に捕らえられた。
言葉の正体、意図、そして真実――それを掴もうと手を伸ばすたび、指先は虚空を切るだけだった。
男はまた中指を立て、私の額に向けて指を差した。
動きは緩慢で、計算された正確さが胸に重くのしかかる。
【──。】
曇りなき、光のない相貌がじっと私を注視する。
息が詰まり、視界の端がわずかに揺れた。
視線は重く、圧迫感を伴い、
まるで私の内面の一つひとつを測るかのようだ。
息をするのも忘れそうな静寂の中、
指先と目が交差する。
目には感情の揺らぎがなく、ただ静かに、
逃れられない確かさで私を捕えていた。
【『此処』さ──】
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、
呼吸が一瞬止まる。
【分かっているんだろう?】
視線が絡みつき、
逃れようのない重圧が私を押し潰す。
【『そう』やって君は──。】
言葉はそこで途切れ、
胸の高鳴りだけが響く。
【本当に不器用だな──。】
その刃のような観察に、
私は息を飲み、動くこともできなかった。
声は静かだが、針のように胸に刺さる。
言葉の端々に、男の観察眼と、ほんのりと混じる嘲りが滲む。
視線は逃れられず、私の心の動きひとつひとつを正確に捕えているかのようだ。
「不器用」――
その一言が、まるで私の内面を看破された証のように響く。
男はその堅苦しさのローブを脱ぎ捨て、
肩の力を抜いた破顔一笑を見せた。
その笑みに、威圧や試しの影はなく、
むしろ柔らかな光が差し込むようだった。
【そう。そうなのだ。君は『只々、正しい』。
あながち過っていない】
「どういう意味なんだ。はっきりしてろよ?」
男は手をフラフラと左右に振ったまま、言葉も残さず、霧のように――
まるで存在ごと空気に溶けるかのように──
消えた。
視界には何もなく、ただ薄く揺れる空気と、
かすかな冷気が残るだけ。
だが、その不在が逆に、圧迫を増幅させる。
耳に残るのは、彼の声の残響――
『只々、正し』という言葉が、胸の奥を突き刺し、じわじわと重くのしかかる。
指先で触れられたような感覚、
視線に焼かれたような感覚――
実際には誰もいないのに、存在の残像が私の周囲に張り付き、逃れられない牢獄のように感じられる。
その余韻のせいで、心はまだ揺れ、
思考は静かに渦巻く。
あの言葉の意味を、どう受け止めるべきなのか――
答えは霧の中で、私だけに問いかけてきた。
馬車はアヴェーラの屋敷の前、
広場の中央にある花壇の隅に静かに止められた。
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アヴェーラはずっと、父の手に委ねられた馬車のゆっくりとした歩みに
まるで自分の足のリズムを合わせるかのように、そっと付いてきた。
「おじさま……。わざわざ──。
お越しになる必要は、ございませんのに」
そんなアヴェーラの言葉に、
父は少し困った顔を浮かべながら答えた。
「アヴェーラ嬢、これは私の矜持のため。
私の意向──愚かしいことに、どうか目を瞑ってほしい」
父はずっと、アヴェーラを立たせ続けていた。
「なぁ……もう、先に進ませてくれ。
荷台だと、何が起きるのか、まるで分からない」
その声に振り返ると、
フィーネが荷台の横から、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「あら、フィーネもご一緒ですのね?」
アヴェーラは少し微笑みを浮かべ、フィーネに顔を向けた。
「お前が催促したんだろう。
その……あら? 私、存じませんことよ」
フィーネは思わず肩をすくめた。
「……やめてくれ」
言葉のあと、少しの沈黙が空に落ちる。
馬車の軋みと、遠くで揺れる木々の音だけが耳に残った。
「嬉しいことではあるんだけどな……」
フィーネの声が、柔らかく宙を滑る。
「そう、勿体ぶらなくても」
アヴェーラは静かに微笑み、言葉にはしない理解を返す。
沈黙の間に、ほんのわずかに温かい空気が流れた。
「やぁ……ナーレ君。
ご無沙汰だね」
どうやら、主賓がわざわざ足を運んでくれたらしい。
その存在だけで、空間の空気がひそやかに揺れた。
場にいた全員が、自然と声に視線を向ける。
フィンリーさんは、いつもの和やかな笑みを浮かべ、そっと立っていた。
その微かな佇まいだけで、場の空気が少しだけ柔らかくなる。
「どうも、娘が意地の悪いことをしてしまったようだ。
謹んで、謝らせて欲しい」
フィンリーさんの言葉は、静かに場に落ちた。
その丁寧な謝意は、言葉以上に確かに伝わってくる。
その視線は、ただ静かに、相手の誠意を受け取るように揺れた。
場の空気は一瞬だけ微かに緩み、
誰もが言葉を重ねずに、その瞬間の温度を感じていた。
「それで──。貴方が、ナーレの──」
声は途切れ、空気がひそやかに揺れた。
「はい。父の、アレフです」
その答えに、場は一瞬静止したかのようだった。
アヴェーラの指先がわずかに動き、微かな呼吸を知らせる。
フィンリーさんは笑みを浮かべたまま、わずかに眉を上げる。
他の者たちも、それぞれの表情で沈黙を破らず、ただ視線だけを交わした。
微かな気配が空間を漂い、
まるで息づくように、緊張と好奇の温度が混ざり合う。
そして、その場全体が言葉を待つ静けさに包まれた。
お父さんはゆっくりと口を開いた。
「本日は、不躾ながらも──贖いのため、ナーレと共に参上した次第です」
フィンリーさんは、その言葉を受けてか、まるで視線で舐めるようにお父さんを見つめた。
微かな沈黙が場に広がり、誰もが息を潜める。
視線の交錯の中、言葉にならない緊張と好奇の空気が漂った。
「成程──。ナーレさん……
『例』の物は、持参してくれましたか?」
フィンリーさんは、そう言うとさりげなく話題を変えてきた。
その変化に、場の空気が一瞬だけぴりりと張りつめる。
「はい、フィンリーさん。持参致しました。
父からも、この件についてお話があります。
詳細は、父からお尋ねください」
私は静かに息を整え、視線を僅かに揺らした。
心の奥で緊張が波立つのを感じつつも、表情は硬く引き締めて、微かな覚悟を漂わせる。
父の肩越しに、アヴェーラの視線を意識する。
彼女の瞳にわずかに安堵の色が混じるのを見て、
私はほっとするような、しかし完全には崩せない緊張感を抱いた。
場の空気は言葉の重みに従い、微細に揺れた。
誰もが呼吸を潜め、視線と視線が交錯する。
沈黙の一瞬一瞬が、心理の波をひそやかに震わせていた。
フィンリーさんは改めて視線を父に合わせる。
「アレフさん……よくここまで足を運ばれた。
……歓迎致します」
父は黙って十字を切った。
「蒸留酒の壺は荷台に乗せております。
よろしければ、ご賞味ください」
その言葉に、フィンリーはわずかに表情を変えた。
「……それでは、ご案内致します」
お父さんとフィンリーさんは屋敷に向かていく。
「それで……アヴェーラ、
『保護者会』について、説明してくれよ。幹事だろ?」
フィーネはそう言って、アヴェーラに軽く突っかかった。
言葉の端に含まれる挑発に、場の空気が微かにざわめく。
アヴェーラは一瞬視線を落とし、口元に微かな笑みを浮かべた。
それは戸惑いではなく、むしろ冷静に相手の意図を受け止めた微妙な間合いの印だった。
「そうですわ……フィーネでも。
その先は、確認しておきたくありませんこと?
あのままでは、『私たち』の苦労と賛辞が、おじさまだけのものになってしまいます。
それは、歯がゆいことですわ」
フィーネは、一瞬だけ考え込んだ。
「分かったぜ……第一保護者様。
ちょっくら物見遊山としゃれこもう。
ハブリにされるのは、しゃれにならないよな?」
フィーネはそう呟き、
そう呟き、私に視線を向けて意見を求めた。
その視線の微かな揺れに、アヴェーラは瞬きひとつで応えた。
口元に微かな笑みを残しつつも、瞳の奥には緊張と計算が潜む。
私はその二人のやり取りを静かに見守る。
眉根をわずかに寄せ、心の奥で緊張の波を感じながらも、
表情には冷静さを保ち、瞬間ごとの間合いを慎重に読む。
「ちょっと……二人とも、保護者なのかしら。
娘の気分になってくれないと?」
私は、少し茶化すように声を漏らした。
その言葉に、私は眉根をわずかに上げ、視線を一瞬だけ迷わせた。
フィーネは目を細め、唇の端を引き上げて笑みを浮かべる。
軽い挑発を受け流しながらも、内心では密かに、どう返すか思案しているのが見て取れる。
「分かった。二人とも、同罪ってことね」
その声に、場全体の緊張がふっと緩む。
アヴェーラは静かに息を整え、微かな笑みを湛えながら視線を二人に巡らせる。
私もまた、彼女の瞳に一瞬だけ安堵の色を見て、肩の力をわずかに抜いた。
しかし場の空気は完全には解けず、言葉の余韻が微かに震え、心理の波が静かに残った。
「じゃ……これが必要ね?」
アヴェーラは、冷たく光る鍵を私に向けてそっと差し出した。
「何……これは」
「これは、お父様の商談室の鍵ですわ」
その声には、静かな断定と微かな含みがあった。
「おいおい……お嬢様がする手段じゃないぞ。
先回りってか?」
フィーネは眉をわずかにひそめ、思わず声に緊張を混ぜる。
視線の端でアヴェーラを追うと、彼女は微動だにせず、冷ややかにこちらを見据えていた。
場の空気は一瞬だけ張りつめ、微細に揺れる。
鍵の金属が光を反射し、視線と呼吸の間で、言葉にならない駆け引きが静かに流れていた。
「これで、先んじて部屋に入ることはできません。
商談室には、調印がありますから」
その言葉に、フィーネは思わず眉を上げ、口元に呆れを滲ませた。
「あっ……きれたぁ。
これが商家の娘がすることか?」
アヴェーラは微動だにせず、冷ややかに視線を返す。
その瞳には、挑発と冷静な計算が静かに宿っていた。
「フィーネ……欲しいものは、自分で掴むのです。
先んじて手に入れること──
それは、後から自然についてくるのですわ」
場の空気は、一瞬だけ張りつめ、微かに揺れた。
フィーネは視線を落としつつも、唇の端に笑みを浮かべ、納得と戸惑いが交錯する。
ナーレは二人のやり取りをじっと見つめ、眉根をわずかに寄せ、場の微細な心理の波を受け止めた。
「処世術か……?
私の周りには、処世術を使う魔法使いがいるんだな──
乗った!」
その言葉に、私はわずかに息を吐き、眉をひそめる。
「ちょっと……二人とも、決めないでって」
場の空気は再び微妙に揺れ、視線が交錯する。
誰もが呼吸を潜め、言葉にならない思惑が、沈黙の間にひそやかに波打っていた。
「珍しく……一番の駿馬が、二の足を踏んでおりますわ。
第二保護者様、どう思われます?」
「あぁ……!!
ナーレらしく、『ちょこちょこ』しろってことだな」
フィーネは視線をナーレに向け、口元に微かな笑みを浮かべる。
私は目の端でアヴェーラの反応をうかがう。
アヴェーラは冷ややかに視線を返すが、瞳の奥には淡い含みと、場を掌握する静かな自信が漂っていた。
場の空気は言葉の端に呼応し、微かに揺れる。
沈黙と笑いの余韻が、視線や呼吸の微細な波となって、静かに交錯していた。
「もう……!
どうなっても知らないわよ?」
私は、アヴェーラから冷たく光る鍵を受け取った。
「運命共同体……久しぶりだな、ナーレ?」
「あの時は……『処世術』があったけどね?」
フィーネは私を見やり、微かに肩をすくめて含み笑いを浮かべる。
「何ですの……?
それは、聞いておりませんわ。
また、フィーネと良いことをしていたのですわね?」
アヴェーラの声は冷ややかに響き、言葉の端に軽い苛立ちと含みを帯びていた。
私は一瞬視線をそらし、眉根をわずかに寄せて反応する。
「アヴェーラ、誤解だよ。
遅刻しそうだったから、メーテール学園の裏門から不法に侵入したのよ」
「そうそう!
なんにも良いことなんかなかった!」
私は視線をアヴェーラに向け、眉をわずかに上げつつ、必死に言い訳の真意を伝えようとする。
フィーネはその横で肩をすくめ、口元に微かな笑みを浮かべ、場の緊張を軽くほぐす。
フィーネはつい、余計なことを口走った。
「そうそう!
ふたりして、肩車しただけ!」
「ちょっと……!
やっぱり、良いことを!!
先んじて!」
アヴェーラは数日ぶりに、そのぷくっと膨らんだ頬を見せた。
怒気と苛立ちの間に、微かな愛嬌が混じった表情だった。
私はそれを見て、思わず口元に笑みを滲ませる。
フィーネは肩をすくめ、悪戯っぽく目を細め、場の空気を軽く揺らす。
沈黙の間に、微細な心理の波が交錯する。
視線や呼吸の僅かな揺れが、言葉以上に場の温度を伝え、三人の間に静かな共鳴が生まれていた。
「今度は、私が肩車して貰いますわ。
フィーネばかり、そうはいきません」
アヴェーラは少し頬を上げ、ぷくっとした表情のまま言葉を紡ぐ。
その声には、軽い挑発と遊び心、そして微かな威厳が混ざっていた。
フィーネは目を丸くして口元に笑みを浮かべ、肩をすくめる。
「えっ……いや、ま、待ってくれよ!」
私は二人を見つめ、眉をわずかに寄せながらも、内心でほころびそうになる口元を必死に押さえる。
「今は、良いだろう?
今度な……ナーレも入れてやろう」
「あら、奇遇ですわ。
それで、手を打ちましょう」
「えっ……!?
私もするの?」
「当たり前だろ」
「当たり前です!」
不思議なことに、保護者両方から揃って確約を取られた。
私は目を丸くし、眉根をわずかに寄せる。
アヴェーラは冷ややかに視線を向けるが、瞳の奥には微かな含みと余裕が光る。
フィーネは肩をすくめ、口元に含み笑いを浮かべながら、場の空気を軽く揺らす。
場の空気は、言葉の端に呼応し、微細に震える。
沈黙の間、視線や呼吸の僅かな揺れが交錯し、言葉以上に心理の波がひそやかに広がった。
「じゃあ……
船頭は、私ですわね」
「そうだぞ。
先導してくれよ。こんなにデカいと、迷っちまう」
「アヴェーラ、フィンリーさんに、どう言い訳するつもりなの?」
アヴェーラは少し視線を落とし、口元に冷ややかな笑みを浮かべる。
「私がお友達と商談するつもりだったから、
鍵を持っていた、そうですわね?」
「──。そうですわね?
それで通るの?」
私は眉根をわずかに寄せ、言葉の端に潜む皮肉を読み取ろうとする。
フィーネは肩をすくめ、口元に軽い含み笑いを浮かべながら、場の緊張をそっと和らげる。
アヴェーラの視線は冷静だが、瞳の奥には微かに遊び心が光り、心理の駆け引きを静かに掌握していた。
場の空気は、言葉と視線の交錯で一瞬張りつめ、微細に揺れた。
呼吸と間合いの微かな重なりが、言葉以上に場の緊張感を伝え、心理の波がひそやかに広がる。
「ナーレ……?
貴女が『はい、そうです』と、お父様に言えば通りますわ」
アヴェーラは視線を私にしっかり向け、微かに眉を上げる。
その瞳には冷静さと計算された含みが漂い、場の空気をそっと掌握していた。
私は一瞬、息を呑む。
眉根がわずかに動き、口元には戸惑いと、抗いがたい納得が交錯する。
周囲の保護者たちも、言葉の端や視線の間に潜む駆け引きをじっと見守る。
≪また、お嬢様は無理難題をおっしゃる……
ナーレ、君の保護者たちは難関すぎるな≫
ヴァルも、影のようにその展開を楽しみ、口元にほのかな笑みを浮かべる。
(あぁ……!! もう!!)
胸の奥で声にならない叫びが弾ける。
どうやら私は、生まれつきこうなのだ。
一歩進めば思惑に絡め取られ、
気づけば人生そのものが、しっちゃかめっちゃかになる。
けれど不思議と、
その混沌の中でしか見えない景色があることも、
もう知ってしまっていた。
場の空気は、何事もなかったかのように静かに流れ、
私だけが、その渦の中心に立たされている。
運命とはきっと、
こうして半ば強引に、
こちらを巻き込んでくるものなのだろう。
「分かったわ……!
もう、どうにでもなれ!」
その瞬間、場の空気が一気に震えた。
「おっ! その息だ、駿馬殿!」
「それでこそ、ナーレですわ!」
私は胸に決意を込め、視線をぐっと前に定める。
アヴェーラの瞳は光を帯び、微かな含みと期待を同時に映す。
フィーネは肩をすくめ、口元に笑みを浮かべ、場の緊張を軽やかに揺らす。
≪ナーレ……覚悟を決めろ≫
心の奥でヴァルの声が響く。
呼吸が重なり、言葉の余韻が空間に溶け、
三人の間に張りつめた緊張と、どこか楽しげな高揚が、静かに波打った。
「さぁ……こっちですわ」
アヴェーラを先導に、屋敷の玄関を抜ける。
大理石の床は、足音をわずかに反響させ、静寂をより重く感じさせる。
邸宅のエントランスホール──玄関正面の大階段前に立つと、その威容に一瞬息を呑む。
「一階の右手の通路を左折して、その奥の先に商談室の扉がありますの。
家政婦達が良く出歩きますから、注意が必要ですわ」
フィーネは眉を寄せ、慎重に周囲を見回す。
「いくらなんでも……不確定要素、多すぎんじゃないか?
どれくらい、出くわすんだ?」
アヴェーラは振り返らず、落ち着いた声で答える。
「家政婦達の母屋と直接、四阿を繋いでいるんですの……」
「お父様は商談の時、なるべく通すなと言うでしょうから」
私は声の強さと沈黙の間合いを読み取ろうと視線を泳がせる。
呼吸が少し早まり、足音を忍ばせる廊下の影に注意が向く。
私は少し声を荒げる。
「一寸、待って。私達行っても無駄じゃない?」
フィーネは肩をすくめ、視線を廊下の影に向けながら、
軽く笑みを滲ませる。
「だってさ……どうする?
ここまで来ちまった……」
ヴァルの声が、心の奥で静かに響く。
≪もし、先に着いたと仮定しよう。
ナーレ。先に陣取れば、先程の論証は通る。
しかし、同時だった場合……君たちは、隠れずに行動せねばならん。
その場合、手段は一つしかないぞ≫
(それは……何なの? ヴァル?)
心の奥で問いかける。
呼吸が一瞬止まり、頭の中に影のように思考が巡る。
≪隠れる場合は……その話、聴かせてもらっていたぞ!
待った!を掛けることだ≫
私の心拍がわずかに跳ね、瞳に決意の光が揺れる。
アヴェーラは背中をわずかに動かし、先導の歩みを変えず、冷静な余裕を漂わせる。
フィーネは肩越しにナーレを見やり、口元に軽い含み笑いを浮かべながら、静かに場の空気を観察する。
廊下の影と、遠くから聞こえる足音や微かな空気の揺れが、三人の呼吸と微細に呼応する。
沈黙の一瞬一瞬が、心理の波をそっと揺らし始める。
≪ナーレ……そう。そうなのだ。
あながち──。
つまり、そういうことだ≫
私は眉をひそめ、
口元にわずかに困惑を浮かべながら、
足音を忍ばせる廊下を見渡す。
言葉が途切れ、空気がわずかに揺れる。
要するに──出会ったとこ勝負。
いつもの通りの、緊張と駆け引きの舞台が、
今、静かに開かれた。
どうして……こうなったんだよ!?
書き進めてたら、気づいたらスニーキングミッション始まってるし。
いやいや待て待て、落ち着け俺!
今の状況、完全にステルスゲームじゃん。
操作キャラ俺一人、しかも五世紀。どうすんだこれ!?
(マジでこの時代、隠れる意味あるのか?……)
それにしても……中世五世紀だぞ!?
ソリトンレーダなんて、あるわけねぇだろ!
敵の位置とかマップとか、どこから情報出てんだよ!?
(いや、これは絶対バグだ。開発者に文句言うレベルだろ……)
おいおい、完全に見つかるパターンじゃん。
回避スキル? そんなもん存在しない。
しかも俺、パッドじゃなくてペン持ってるし。操作性最悪!
「メイリン……マジで助けてくれ。」
(いや、画面の向こうの君には責任ないけどな……)
あ、あれ? なんか影が……
敵? いや違う、ただのヤギか。
(中世あるある。敵も味方もヤギも、判定微妙すぎだろ……)
よし、気を取り直して……
今の揺らぎは……ステルス装備!? いや、走るしかねぇ!
(おーい! スネーク聞こえるか?
今すぐに段ボールが必要だから、取り寄せしてくれ、)




