「少女の目覚め」
ここは、「アウローラ神聖国」の片隅にある、ごくふつうの農村。
朝露に濡れた麦の穂、男たちの農作業のかけ声、
掘り出した石を運ぶ山車の音。
そして、ときおり山から吹き下ろしてくる風に、風車がくるくる回り出す。
金色の絨毯みたいな畑が、どこまでも広がっていて――
その風車が、まるで踊るように回っては、
砂金のような恵みをそっと与えてくれるの。
そんな場所で、私たち家族三人は暮らしている。
ここが、私の――居場所。
たしかに、うちは少し“特別”かもしれない。
でも、自分がしたわけでもないことでからかわれるのは――やっぱり、納得いかない。
(みんな、私が“裕福”だって言うけど……私自身はよく分からないの)
たしかにお父さんは、このあたりの土地を持っている。
正確には、もっと昔――曾祖父の代からずっと続いている土地らしい。
お父さんに聞いたことはあるけど、話がややこしすぎて、正直よく分からなかった。
どうやら曾祖父は「かつての王国の分家」にあたる人だった、らしい。
でもそれも、祖父から聞いたってだけで、確かな証拠はないんだって。
結局、家の中でもただの昔話みたいな扱いで、
薪を囲みながら「曾祖父はお金持ちだった」とか「モテてた」とか、
「とんでもなく自由な人だった」とか、そんな話ばかり。
最後には、自分の身分に悩んで、とうとう捨ててしまったらしい。
三十七歳のときに、伝統も何もかもかなぐり捨てて、土地の権利書だけ持って家を飛び出した。
一族は大騒ぎで探し回ったけれど、曾祖父も権利書も見つからなかった。
そして――本家そのものが、時代の流れの中で消えていった。
残ったのは、曾祖父と、その土地の権利書だけ。
曾祖父はその権利書を手に、この土地に住み着き、
なんと農家になることを選んだ。
……正直、私にもよく分からない。変な話よね。
それから、お父さんは農業の管理をする仕事をしていて、お母さんと出会った。
お父さんは今でも「金色の天使だ」って、照れもせずに言うの。
お母さんは農家の娘で、小麦を束ねていた姿に、お父さんは一目惚れ。
毎日アプローチして、ようやく振り向いてもらえたんだって。
そして私は、そのふたりの間に生まれた。
私のことも紹介した方がいいのかしら?
でも、これといって特別なところはないのよ。
みんなが「裕福」だって言うけど、それは私じゃなくて、お父さんのこと。
この土地と、二台の粉挽き風車を持っているのは、全部お父さん。
私は……ただそこにいるだけ。
「私が裕福なんじゃなくて、お父さんが裕福なのよ」って言っても、
みんなはあきれたような顔をする。
きっと――私のことを“裕福”って言っておけば、
自分がみじめじゃないって思いたいだけなんだろうな。
……そんなふうにしか、思えない。
みんなを見返してやりたい気もするけど、そんなことしたら、もっと面倒なことになる。
それだけは絶対イヤ。
私にも、あの曾祖父の血が流れてるのかな。
お父さんの娘だから、ありえるかもしれない。
――私はナーレ。
「ここ」にいるナーレよ。




