17、アレックスは光に会う
ここ最近、私、アレックスの親友であるレナルドは二人の令嬢に夢中なようだ。
セラフィーナ・ガーネット侯爵令嬢とシェリル・パーミュラー男爵令嬢。
レナルドがその二人と交流を持つようになったきっかけはある噂からだった。
レナルドは曲がったことが大嫌いな正義感が強い男である。
そんな彼はガーネット嬢がパーミュラー嬢に酷いことをしているという噂を耳にして本人に確認しに行った。
面と向かって悪い噂は本当かと聞かれて、本当だったとしても素直に答える人間などいないと思うのだが、彼のそういった真っ直ぐすぎるところを私は嫌いではないため止めはしない。
私はいつも彼の行動を離れたところから見守るようにしており、問題が起これば手を貸すようにしている。
レナルドはガーネット嬢が放課後にサロンで開催している茶会に参加し、噂の真偽を確かめたらしい。
ガーネット嬢はパーミュラー嬢を守るためにわざと悪い噂が立つような発言をしたそうで、二人の仲の良さは本物だという。
事実確認をした後もレナルドは茶会に参加し続けている。
ガーネット嬢とパーミュラー嬢とはすっかり友人関係になったようだ。
騎士団長を父に持ち、彼自身も騎士見習いとして励んでいるレナルドが、交友を目的として異性と関わるようになったのはこれが初めてだ。
彼にもようやく気になる女の子ができたのだと思っていた。
しかし彼の興味は私が想像するずいぶん斜め上のところにあったようだ。
「昨日はセラフィーナさんが男子生徒の格好をしてシェリルさんのダンスの相手をしていたんですが、二人があまりにお似合いで何度叫びそうになったことか」
「……そう、それは大変だったね」
今は昼休み。私とレナルドはいつも二人で左右を壁に仕切られた窓際のテーブル席でとっているが、ここ最近の彼の話はもっぱら二人の令嬢のことである。
最初はどちらかに恋をしたのだろうと思っていたが、話を聞いているとどうやら違う。
レナルド曰く、二人には異性として興味を持っていないが、二人揃うととたんに輝きを放って尊さが爆発するのだとか。
よく分からない。
しかし私の親友は何かに目覚めてしまったのだということだけは理解できた。
レナルドは私の親友であると同時に、学園内では王子である私の護衛のように振る舞ってもらっている。
真面目な彼らしく支える主人には誠実でありたいと思っているようだが、胸の内を何でもかんでも晒してくるのは困ったものだ。
親友の性癖など知りたくなかった。
それはさておき、こう毎日のように話を聞いていると、私もその茶会に参加してみたいと思うようになった。
あのガーネット嬢と仲良くしている男爵令嬢だなんて興味を持たずにいられない。
「いつも本当に楽しそうだね。私も一度参加させてもらいたいくらいだよ」
「それは是非。アレックス殿下にもあの感覚を味わってもらいたいです」
「君と同じ感覚を共有できる自信はないが、せっかくだから今度ガーネット嬢たちに伺いを立ててもらえるかい」
「任せてください」
レナルドは胸に手を当てて頼もしく答えた。
そして食事を終えて教室に戻ると、彼はさっそくガーネット嬢が座る席に向かった。
そうしてすぐに今日の放課後の茶会に私が参加させてもらえることが決まったようで、私に報告してきた。
さすがに早すぎではないだろうかと思い、レナルドに仲介を頼むことなく自らガーネット嬢と対話することにした。
「さすがに今日のつもりではなかったのだが。急すぎてパーミュラー嬢も困るだろう」
「いいえ、人数が増えるとシェリルも喜ぶでしょう。殿下がいらっしゃったらシェリルはどんな顔をするでしょうね、ふふ」
ガーネット嬢は口元に手を当てて笑った。
今までずっとあまり人間味のない人だと思っていたが、友人を驚かせる状況になることを心から楽しんでいるように見える。
案外普通の感覚を持っているようで親近感を覚えた。
「それではお言葉に甘えさせてもらうよ」
「喜んで」
放課後になると、私はガーネット嬢とレナルドと一緒にサロンに向かった。
「やぁ、お邪魔させてもらっているよ」
後から部屋に入ってきたパーミュラー嬢に軽く声をかけると、彼女は固まった。
遠目から見ても可愛らしい子だと思っていたが、間近で見たパーミュラー嬢は、男子生徒からひっきりなしに誘いを受けているという噂には納得しかない可憐な少女だった。
「急にお邪魔することになったのだが、驚かせてすまないね。私はアレックス・ステアフォードだ。よろしく頼む」
固まっているパーミュラー嬢に挨拶をしてみたが、依然として返事がこない。驚かせすぎたみたいだ。
心の準備もなく王族と対面することになってしまったのだからそれも仕方ない。
どうしたものかとガーネット嬢に目をやると、彼女は口を押さえながら横を向いていた。
顔は見えないが小刻みに震えている様子から、サプライズが成功して笑いを堪えているといったところだろうか。
「レナルド、仲介を頼めるか」
「もちろんです」
現状で唯一頼れるレナルドに声をかけると、彼は椅子から立ち上がってパーミュラー嬢の前に移動した。
「シェリルさん、アレックス殿下は気さくな方だから緊張しなくても大丈夫だぞ」
「────っ、えっ、はいっ。あの、私っ」
レナルドの声かけにようやく動き出したパーミュラー嬢は、両手を宙にわたわたとさ迷わせてから深呼吸し、私に一歩近づいた。
「シェリル・パーミュラーと申します。お会いできて光栄です。殿下もセラフィーナ様の茶会に招待されたのでしょうか」
「あぁ、今日の昼休みに急遽決まってね。いきなりで悪いと思ったのだが、ガーネット嬢が君を驚かせたかったようだからサプライズに貢献させてもらうことにしたんだ」
「っえぇ、そんな……!」
パーミュラー嬢はガーネット嬢の方を向くと、なぜ教えてくれなかったのかと恨みを込めるようにじっと見つめた。
「ふふ、ごめんなさい。今度ハートリーカフェのスイーツバイキングに連れていってあげるから許してちょうだい」
「わぁ本当ですか! ありがとうございます」
パーミュラー嬢は一瞬で頬を紅潮させて、まるで光を放っているかのような輝く笑みを浮かべた。
切り替えがものすごく早い。
そしてこの一連のやり取りだけでもう、二人は本当に気心が知れた仲なのだと理解できた。
パーミュラー嬢が席に着くと、ガーネット嬢は部屋の隅に控えていたメイドに退室を促した。
パーミュラー嬢はトングを片手に持って私に向き合う。
ケーキスタンドから私の分を取り分けようとしているのだとすぐに察した。
「何をお取りしましょうか?」
「気にせずにいつものようにしてくれて構わないよ。ここでは自分が食べる分は自分で取り分けることになっているのだろう」
事前に聞いていたため、私も皆と同じようにここでのやり方に従うつもりでいる。
それでも王子である私にそんなことをさせるのは気が進まないだろう。
せめて今回だけでも取り分けたいと言われるだろうなと思っていた。
しかしパーミュラー嬢は『分かりました』と言い、さっさと自分の分を取り分けた。
「……シェリル、せめて殿下に先に選んでもらうべきだったと思うわ」
ガーネット嬢が静かに諭した。
ケーキスタンドにはいろんな種類のスイーツが並んでいるが、中には一つしかないものもある。
この中で一番身分が高い私が最初に選ぶべきだという考えは当然のものだろう。
「っ、すみません」
パーミュラー嬢は慌てて謝罪すると、ケーキを二つ載せた自分の皿を私に差し出すように持ち上げた。
「この中に狙っていたものがあったならすみません。どうぞお取りください」
上目遣いで申し訳なさそうに言う姿に、さすがに堪えきれなくなってしまった。
「っ、ふっ、ふふふ……いや、問題ないよ。この場では私のことはただの生徒の一人だと思ってくれて大丈夫だから、気遣ってもらう必要はないよ」
本心からそう伝えると、パーミュラー嬢はガーネット嬢に伺いを立てるように目で訴えかけた。
ガーネット嬢は少し悩んだ後、ゆっくり首を縦に振る。
私の言葉通りにして大丈夫だと解釈したパーミュラー嬢は、『ありがとうございます』と言って幸せそうな顔でケーキを食べ始めた。
(……この子は目が離せないな)
数秒の間に表情が次々と変わる天真爛漫な少女。
常識がないわけでなく、できる限りきちんとしようと努めていることはしっかり伝わってくる。
目の前の少女はどこまでも素直で純粋で愛らしくて目が離せない。この子のことをもっと知りたいと思った。
***
数日後の午後。私は魔法実技の授業を野外演習場で受けていた。
人間は誰しも魔力を持って生まれるが、魔法を使えるようになるのは個人差がある。
自分が持つ属性を知る年齢も、それを使えるようになる年齢も個々で異なるため、魔法実技の授業を受ける生徒はクラスの半数ほどになる。
この授業にはレナルドとガーネット嬢も参加している。
ガーネット嬢は稀少な闇魔法の使い手だ。
闇魔法の使い手は異端だと恐れられ迫害対象になっていた過去が存在する。
しかしそれはもう百年以上昔のことで、今は他の属性と何ら変わらない一属性として認められている。
ただ使い手が少ないことで参考資料もあまりなく、どのような魔法なのかほとんど周知されていない。
絵本などでは悪役が使う恐ろしい魔法として描かれていることが多いこともあり、今でも忌避されがちな属性である。
ガーネット嬢の魔法の腕前は見事なものだった。
出現させたいくつもの黒い玉を自在に操り、数メートル先の的を全て同時に射貫いてしまった。
禍々しい黒さを持つ力も、凛とした美しい令嬢が扱えば恐ろしさよりも神秘さが勝るようで、クラスメイトたちは白魚のような手から漆黒が生み出される様にただただ見惚れていた。
放課後になると、私はレナルドと一緒にガーネット嬢が開く茶会に参加した。
前回は私が急遽参加することになり、ダンスの練習を取り止めたそうだ。
練習を見られなくて残念だと話したところ、気が向いたらいつでも茶会に参加して構わないとガーネット嬢が言ってくれた。
私はお言葉に甘えることにして参加したのだが、ガーネット嬢は私の期待を裏切らないようにと、今回は男子生徒の制服を着てくれていた。
「ははっ、すごいね。想像以上の格好よさで驚いたよ」
プラチナブロンドの髪を後ろで一纏めにしたガーネット嬢は想像以上の凛々しい美男子ぶりで、つい拍手しながら賛辞を送った。
どこかの国の王子が留学してきたと言えば誰もが信じ、たった一日で学園中の女生徒を虜にすることだろう。
「お褒めいただき光栄です」
胸に手を当てて感謝を口にする姿まで紳士的だ。
少し挑戦的な目を私に向けた気がしたが、男らしさを意識して演じているからだろう。
そんなガーネット嬢は男性役としてリードしながらパーミュラー嬢とダンスの練習を始めた。
かなり強引なリードだが、今はパーミュラー嬢に誰かと踊る感覚を覚えさせている最中らしい。
見苦しいものを見せることになると前置きされていたが、そんなことは決してなかった。
二人とも楽しそうで見ている側まで気分が上がるようなダンスだ。
レナルドはどうにか興奮を抑えているらしく、険しい顔で『最高だな』と呟いた。
彼の食い入るような視線には熱が込もっていて、まるで恋情を抱いているかのように見える。
彼から毎日のように『二人揃った時の尊さ』とやらを聞かされていなければ、どちらかに恋をしているのだろうと勘違いしていたことだろう。
パーミュラー嬢は心からガーネット嬢を信頼して慕っているようで、まるで想い人と踊っているかのような色気を帯びた表情を不意に見せ、その度に私の心臓は跳ね上がった。
二人が同性でなければ、私は複雑な感情を抱いてしまったことだろう。
ガーネット嬢は勝ち誇ったような視線を私に向けた。男役への入り込みぶりがすごい。
二人のダンスの練習が終わると、四人でテーブルを囲んでお茶の時間を再開した。
「セラフィーナさんの魔法は本当に精度がすごいと感心している。どうすればあそこまで正確に的を射貫けるものなんだ?」
レナルドは魔法実技の授業でのことを話しだした。
彼は騎士になるために毎日剣と魔法の腕を磨いているため、ガーネット嬢の見事な魔法にいつも舌を巻いているようだ。
「あれは魔力を小さなボール状にして、毎日のように操って慣れる必要があるのよ」
「どんな風にするのか今見せてもらって構わないか」
「ええ」
ガーネット嬢は上に向けた右の手のひらから1cm大の黒い玉を五つ出し、それら全てを同時に操ってみせた。
手のひらの上で飛び跳ねるもの、大きく横回転するもの、縦回転するものなど、五つとも違う動きをしている。
「まずは自分の手の近くで複数の魔力玉をそれぞれ操る感覚を身につけて、自在に動かせるようになったら少しずつ自分から遠ざけていくのよ」
「へぇ……面白そうだな」
ガーネット嬢の説明を受けてレナルドも手から水の玉を五つ出した。そこまでは平然と行っていたが、操ろうと力を入れたところで険しい表情になり、水の玉は針を刺された風船のように全てパチンとはじけた。
水しぶきは下に落ちる前にレナルドが消し去ったため、テーブルが濡れることはなかった。
「目の前で簡単にやってのけるものだから自分にもできそうだと思ったが、かなり難しいな」
「コツを掴むまでは大変だと思うから、まずは二、三個から始めたらいいと思うわ」
「あぁ、そうすることにする」
レナルドたちの会話に耳を傾けていた私は、黙々とケーキを食べていたパーミュラー嬢の方を向いた。
「君もああいったことができるのかい?」
「はい。できますよ」
パーミュラー嬢はさらりと答えると、手のひらから光の玉を五つ出し、先ほどのガーネット嬢と同じように操作してみせた。
「見事なものだね。ずいぶん訓練をしたのだろう」
「お褒めいただいて光栄です。セラフィーナ様と一緒に訓練させていただいたんです」
「そうか。それだけの腕前があれば王立魔法研究所の入所試験は余裕でクリアするだろうね」
私がそう言うと、パーミュラー嬢は困ったように苦笑いした。
彼女は珍しい光魔法の使い手だ。
闇魔法ほど稀少ではないがあまり使い手がいない。そしてかなり重宝されている属性である。
治癒ポーションは特別な薬草と特別な水に光魔法を注いで作られるものだ。
小瓶に一本分を作るだけで数日分の魔力を消費するため、治癒ポーションは高額で売られている。
優秀な光魔法の使い手は王立魔法研究所にかなりの厚待遇で入所できるため、パーミュラー嬢もそれを目指しているものだとばかり思っていた。
この国の魔法技術の発展を担う王立魔法研究所で働くことはかなり名誉なことだ。
「君は王立魔法研究所に勤めることを目標にしていると勝手に勘違いしていたが、そうではないのかな」
「……そう、ですね。実は将来のことはまだあまり考えていません」
パーミュラー嬢は気まずそうに眉尻を下げて笑った。
彼女は将来は王立魔法研究所で働くことを目標としていて、そのために力を磨いているのだと思っていた。
反応に若干の違和感を覚えつつ、目標もなしに魔法の腕を磨くことは特別おかしいことでもないため、深く追及しないことにした。
***
魔法実技の授業では、相変わらずガーネット嬢の持つ禍々しい黒い力に大勢の生徒が恐れと憧れが入り交じった目を向けている。
以前のガーネット嬢なら、どんな視線を向けられたとしてもただ柔らかな微笑みを浮かべていただろう。
今の彼女は何かが吹っ切れたような、何もかもを楽しもうとしているような、そんな風に感じられる。
自分に決して近づこうとせず、離れた場所から傍観している者たちに対して、ガーネット嬢はまるで下等生物を見下すかのように高圧的で冷ややかで、どこまでも美しい笑みを向けた。
途端に青ざめる者、ヒュッと息を呑む者、目を見開いて立ち尽くす者、『はうっ』と言いながら身を屈めて心臓を押さえる者、『イイ……』と呟いて震える自身の体を抱きながら頬を紅潮させる者など、それぞれ多様な反応を見せていた。
ちなみに後者の反応に近づくほどガーネット嬢への崇拝度と被虐心が強い傾向にあるように思う。
一度でいいから彼女にいたぶられたいという願望を持つ者は増加の一途を辿る。
ガーネット嬢もパーミュラー嬢と同様に魔法の腕を鍛えていることにも私は違和感を覚えていた。
侯爵家の娘である彼女は、王子である私の婚約者候補の筆頭であり宰相の娘でもあるため、命を狙われることが多々あるようだ。
彼女自身が強くなることは、その命を守るための最善の手段ともいえるが、そのためだけではないように思えて仕方がない。
今日の放課後の茶会では、ダンスの練習は休みらしく、ガーネット嬢は普通に女生徒の制服を着ていた。
男子生徒の制服を着るガーネット嬢にパーミュラー嬢はいつも見惚れている。
その度に私は複雑な心境になっていたため、今日は普通の格好で良かったと心から安堵した。
テーブルの上には私が準備したチョコレートも並べてもらっている。
フルーツやナッツ、リキュールなど、色々な風味が楽しめるものだ。
「四角いものはリキュール入りだから、苦手なら避けてくれ」
注意を促すと、パーミュラー嬢があからさまに反応した。
食べたいとその輝く瞳が語っている。
「シェリル、リキュール入りのものは控えておきなさい」
「……はい」
ガーネット嬢の忠告にパーミュラー嬢は肩を落とした。
「苦手なのかい?」
「はい。アルコール入りのものを食べると頭がふわふわしてしまうんです……味はとても好きなのですが……」
心底残念そうに言う様子があまりに気の毒で、きちんと確認をしてから持ってこればよかったと少し後悔する。
それでもチョコレートやスイーツは他にも沢山あるため、パーミュラー嬢はそれらを食べながら歓談していた。
他のものを食べている間は幸せそうにしているが、やはりリキュール入りのものが気になるらしく、たまに憂いを帯びた表情で眺める。
そんな様子にガーネット嬢は小さく息を吐いた。
「シェリル、一つだけよ。それで我慢しなさい」
「っ、はいっ! ありがとうございます」
お許しが出たパーミュラー嬢は瞬時に顔を綻ばせて、四角いチョコレートを一つ取って口に放り込む。
この世のありとあらゆる幸せが凝縮されたものを味わっているかのような蕩ける表情に、私の鼓動は大きく跳ね上がった。
見惚れているうちにパーミュラー嬢の瞳はとろんとなる。
「ふふふ、美味しくてとっても幸せです」
楽しそうにふわふわしはじめるパーミュラー嬢。
いつも楽しそうにしているが、陽気さがいつもの数倍に感じられる。
これはガーネット嬢が止めるのも頷ける。
しかし可愛いな。
「もうダメよ」
「はーい」
パーミュラー嬢はきちんと返事をしたが、ガーネット嬢が紅茶を飲むタイミングに合わせてサッと手を動かした瞬間を私は見逃さなかった。
あっと思った頃には、四角いチョコレートはパーミュラー嬢の口に放り込まれていた。
「ふへへへ、甘くてとろけますね~」
先ほどよりもまた更にふわふわしだした様子に、パーミュラー嬢が何をしたか理解して呆れつつ心配するガーネット嬢。
「大丈夫?」
「らぁいじょーぶですよぉ~」
陽気に答えるパーミュラー嬢は全く大丈夫ではなさそうだ。
(……仕方ないな)
こんな状況になってしまった原因は私にある。
酔いを覚ましてもらうために、私は懐から治癒ポーションの瓶を取り出した。
怪我や毒に備えて常に所持しているものだ。
「これを────」
「えへへ、こうすれば大丈夫ですから~」
治癒ポーションを渡そうとする私の言葉に被せるように、パーミュラー嬢が陽気な声を出した。
「シェリル! 止めなさい」
珍しく焦った様子のガーネット嬢が声を荒らげた。
そうしてすぐに、目が眩むほどの強い光が部屋中を覆った。
光が収まってどうにか目を開けると、全身に淡い光を纏ったパーミュラー嬢がいた。
「ほら、これで大丈夫で────……」
きちんと焦点が合った澄んだ瞳になり、しっかりした口調で誇らしげに話すパーミュラー嬢は、言葉を途中で止めて途端に青ざめた。
私が目の前で見た光景。それは明らかに光魔法とは別の、もっと強力な魔法だった。




