森と魔法と原生生物
場面は切り替わり、青年サイド
彼らは今、森の中をひたすらに歩いていた
「………なぁ、トリテン。」
青年がサボテンキメラ改め、トリテンに話しかける
「なんや?ご主人。」
先導しているトリテンが、青年のほうへ振り向く
「もう体感6時間ぐらい歩いてる気がするんだけど……」
おぼつかない足取りで、くたびれた様子の青年がそう確認する
「正確には4時間46分28秒やけどなこの正確な体内時計も、女神様から授かったんやで!」
足を止めずにそう答えるトリテン
「はえ〜すっごい……じゃなくて!いつになったら着くんだよ!」
一瞬感心するも、それは怒りに変わってトリテンにぶつける
「後30分ぐらいや!もうすぐやから気張っていこうで!」
疲れ切った青年とは対称的に、まだまだ元気なトリテン
「ぐへぇ〜〜もう疲れたってぇ……」
青年は歩みを止め、遂にはその場に座り込んでしまった
「弱音吐いてる場合じゃないで!原住民が友好的とは限らん!そん時は最悪戦闘や!ご主人!逃げる体力残しときよ!」
座り込んだ青年を無理矢理立たせる
「こ、これ以上歩くのは勘弁……」
これで何度目かの弱音を吐こうとする青年、しかし
「………?」
なにかを感じ取ったのか、急に黙り、辺りを見回す
「ん?なんや、ご主人、まだ家がある所まで来てへんで」
そんな青年を不思議に思ったトリテンは、青年に話しかける
「……な、なぁトリテン………何か聞こえなかったか……?」
そう言われ、トリテンは青年と共に耳を澄ます
四方から茂みが掻き分けられる音とズシン…ズシン…と足音も聞こえる
「あー……………囲まれたで…こりゃ…」
青年とトリテン、お互いに背中を合わせるように立ち周囲を警戒する
「も、もしかしてそれって、原住民に…!!?」
冷や汗をダバダバかきながら、震えた声でそういう
「落ち着け!どうやら原生生物のようやな……6匹……いや、8匹や…!」
そんな青年をなだめ、足音の数に集中するトリテン
「2、3匹ならワイがなんとかできそうやったが……正直、こんだけ数が多いと、ご主人を守りきれるか怪しいで…」
苦しい表情を浮かべながらも、首位の警戒は怠らない
「えぇええぇぇ……絶対絶命……!?」
ガタガタと奥歯を震わせ、更には目に涙を浮かべる青年、そんな青年の顔を見て、トリテンは覚悟を決めたように落ち着いた声で
「……ワイが原生生物の注意を引く、そのうちにご主人はあっちの方角に向けて走るんや……!」
と、行くべき方向を指し示しながらそういった、しかし、それに対し青年は
「………!でもっ!トリテン……お前はどうするんだよ!」
と、心配の声をあげる
「ご主人守って壊されるんなら本望や、それにワイはご主人の中で生き続けるで…!」
青年の方見て、満面の笑みを浮かべる
「トリテン……!」
それに相反するように、焦燥の表情を浮かべる青年
「隙が出来たらすぐ逃げるんやで……!ご主人……」
安心させようと、出来るだけ優しい声で話すトリテンしかし、青年の表情が和らぐ事は無く…
「トリテン!!」
トリテンの体を掴みながら、青年が大声でトリテンの名を呼ぶ
「………これしかないんや…わかってくれ…ご主人…!」
青年の声を聞いて、笑みが崩れ、苦しそうな顔がこぼれる
「そうじゃなくて!」
トリテンの体を掴んで後ろを向かせる
「ん?」
「アイツら足止めは無理だろ!!」
トリテンの目の前には、ライオンの体にフラミンゴの顔をくっつけた様な見た目をした、クソデカい生物だった
「Oh……思ったよりデカいやん……」
予想外の体格に、流石のトリテンも傍観状態
「ボーっとしてんじゃねぇよ!どうすんだこれ!」
トリテンを抱きかかえ、全力疾走で原生生物から逃げ出す
「おーご主人以外速いやん、これなら逃げ切れるんちゃう?」
ぐんぐんと離れていく原生生物達を見ながら、トリテンは青年の足の速さに感心する
「いやっ……もうっ……現状っ…キッぃ………」
しかし、それは束の間、みるみるうちに距離が縮まっていく
青年のほうも呼吸が荒くなり、喋るのもやっとといった様子
「体力なさすぎやろ!普段から筋トレしとけや!」
鋭いツッコミをいれるトリテン
「おっしゃる通りですっ………」
その言葉を言うと同時に膝から崩れ落ちる、それに代わるように
「おっしゃ!選手交代や!」
と、トリテンが飛び出し、青年の体に食虫植物部分の茎を巻き付ける
「ちょっ…!トリテン!!?」
唐突に体に巻き付けられた茎に困惑している青年、しかし、トリテンは構うことなくクラウチングスタートの構えをとる
「すまんが我慢してや!鶏頭に食われるよりはマシだと思って!」
ロクな説明もせず、全速力で走り出す、超特急のその速さは、青年をまるで鯉のぼりの鯉のように、地面から完全に浮いた状態で安定させた
「おおぉぉおおお!!!ジェットコースターよりキッぃいぃいいい!!!」
あまりの風量と圧で、えげつない負荷を受けながらも、青年には叫ぶ気力があった
「忍者走り!初めてやけど割と出来るもんやな!女神様々やで!ほんまに!」
自身の力に驚くトリテン、原生生物との距離がグングン離れて行く
しかしここは森、原生生物はアイツらだけではなかった
上空には、体が鷹、頭がカジキの原生生物、それらもまた、青年達を狙っていたのだ
その原生生物は、遥か上空から急降下し、その鋭利な鼻先で青年達へ襲いかかる
「トリテンッ!上ッ!上ッ!避けてぇッ!」
その事にいち早く気付いた青年は、トリテンに回避するよう指示するが
「あー無理、避けたら感性でご主人が木に激突するわ」
「なッんでそんな冷静なんだよッ!」
「なんか、死を悟るとなにもかも諦めの感情に支配されるやな…」
「うおおぉぉおッ死を悟ッてるぅ!!」
地上を走る原生生物も勢いをあげてきて、絶対絶命
その時
「【電撃線〝ラインボルト〟】!」
どこからともなく現れた1つの細い稲妻が、まるで槍の様に上空の原生生物全ての体を貫く
「キギッギュウッア!」
上空の原生生物は、全身を酷く痙攣させ、地上の原生生物の方へと軌道を変えて墜落していく
「なんや!!?」
「ぶべべべべッ」
突然の出来事に思わず足を止めるトリテン、そのせいで地面へヘッドスライディングする青年
「あっすまん、ご主人」
「あのなぁ!」
トリテンを怒ろうとして顔をあげる青年
「………あれは…?」
そして目に入る、満月の夜、道の真ん中に堂々と立っている、水色のローブをかぶった人物
周りからは先程上空の原生生物を貫いた稲妻が伸びている
地上の原生生物が、上空から落ちてきた原生生物を避けようとするが
その際、数匹が避けきれずにその尖った頭を受け止めてしまい、切り傷が出来る
「【電染〝エレテーション〟】」
それを見計らったように、彼は呪文を呟く、すると、その原生生物から流れている血を伝線して、地上の原生生物にも電撃が流れる
「ギギュギャギュギギィッ!」
そして、上空の原生生物と同じように暫く痙攣した後、バタリと倒れてしまった
「す、すげぇ……」
前世のアニメや漫画でしか見たことのない光景に呆然とするしかなかった青年とトリテン
「大丈夫かい…?追いかけられてたようだけど」
そんな彼らに、ローブを纏った男が声をかける
「…私の名はシオウ、キミ…いや、キミ達は……一体何者なのかな…?」
シオウは2人を安心させるように微笑みかけながら、腰を抜かしている青年へと手を差し伸べた