(2)
翌朝、指定通りの場所に向かうと既に双子の領主はその場所で待っていた。俺らの方に気づくと”来たかの?それでは向かうとするかね?”と言って、二人して路地に入って行った。街道から一本奥に入った路地、そこを進んでいく。どんどん街から離れて行き、終いにはポツンと一軒しか建物が無い場所に来てしまった。
その建物は他の木造平屋とは全然違って、縦に細長くて二階建てだ。なんだろう、違和感が凄いある。案内を終えたのか、タチマチヅキは俺らの方を振り返り”わが家へようこそなのじゃ”と歓迎してくれた。引き戸を引いて中に入れば、一回は玄関のみで、二階に続く階段が目の前にある。靴を脱ぐらしく、久しぶりに靴を脱いで玄関を跨いで、二階の部屋へ入った。
「ここは…鬼人の領地に似ていますね」
「そうじゃな?伝えたら真似っこされてしまったのじゃよ…」
タチマチヅキは少しばかり悲しそうな真似をしてから、湯飲みを持ってくる。湯飲み…本当にここは日本か?中には緑色の液体…きっと緑茶なのだろう。座布団を人数分出してくれて、その上にに座る。すると、タチマチヅキが話し始めた。
モチヅキは過去に主が何人も居た事がある。しかし、誰一人として扱う事が出来なくてそのまま捨てられる事が続いてしまった。モチヅキは武器に思い入れなんか無い事を知ってしまったのだ。全員が全員、思い入れがあるか?と言われればそんな事は無いなんて分かる事ではある。しかし、当時のモチヅキには相当堪えたのだった。
モチヅキがたらいまわしにされた理由は他にもある。その武器への思い入れが相当強くなければ具現化しない事が要因の一つだ。モチヅキを使いこなす事が出来れば強くなる事は可能だし、具現化の制度が増していく。いわば、本人にフィットしていくように出来る事が強さの秘訣なのだ。だからこそ、たらいまわしを受ける事になった。
「確かに、それはお辛いですね」
「分かるか?我の思いが、お前様如きに?」
「分かりますね、俺は思い入れしかないもので…」
ヘッドセット、あれは本当にすごかった。マイクを握っていた事もあったけれど、ヘッドセットなら、どんなに小さい音でも拾ってくれる、口元にマイクがあるのだから。当時はずっと使っていた、毎日毎日…丁寧に扱っていた。仕事が無くなったら…使わなくなってしまったけれど。
「じゃあ、具現化して見せろ」
「やってみましょうか?」
俺はどうすればいいか分かっていなかったけれど、モチヅキは隣に来て手を握った。皆の顔がへの字になって困惑していたけれど、俺には感情が流れ込んでくる。あぁ、捨てられる気持ちって…本当に悲しいんだな。まだ頑張れる、まだやれる、そんな事を思っていても、無情で捨てていく。俺は…絶対にしない。
気づけば、俺の頭にヘッドセットが付いていた。俺もびっくりして何回もぺたぺたと触る。あぁ…懐かしい感覚だ。これでこそ完全形態の実況者なのではないか?感動して言葉に出来なかった。
「そちら様…出来ておる…ではないか?!」
「出来ました、では…このまま楽しませて見せましょうか?」
「な?!どうするつもりじゃ?」
「狩にでも出て見ますか!」
伝わる、伝わる。我に健一の思いが。思い入れのある道具と別れなければならない痛み、苦しみ。もがいて、あがいて、どうしようも無くて。ついには世界を追われた。我と同じ……。いや、健一の方が辛いのかもしれない。我は…出会ってしまったのかもしれない。
お前様は…どうしてここまで続けようと思うのか。好きだから、好きだから、と言って簡単に続けられる程甘くは無かろう?どんな時でも実況?とやらに一筋で…それでも、つらい思いなんて何度も何度もして…。この世界に来てもなお続けている…。
「どうして…」
「そうですね、好きだからでしょうね?好きこそものの上手なれ!ですからね」
笑って…なんで笑える、どうして笑える?あぁ…そうなのか、本当に好きと言う事か。我は武器であることを忘れていたのか。
「いや、忘れていないんですよ。出会ってなかったんです」
「出会ってなかった…?」
「そう、本当に心の底から何かを好きだと言える誰かに。」
そうか、楽しいか。伝わる感情は…楽しい、嬉しい…。そうだ、我も最初は…こうだった。見せてくれるか、お前様の…いや、ご主人の戦い方を。我はついて行く。どこまでも。
場所を変えて、平原に来た。でもなぁ…俺が戦う訳じゃ無いんだよな。みんなが戦っているところを見るだけなんだけど…。おっと、来た来た!皆で迎撃してみるか?いや、試しに…俺が出陣するのも悪くない!
よし来た!気合が入りまして!私の魂であるヘッドセットが届きました!この世界にもありました、きっとネット便でしょう!え?ネットが繋がって無いって?そんな事はもはやどうでも良いのです!目の前に居ますのは、体長が五メートル程の怒り狂った猫の魔物!さぁ、ご覧に入れましょう!ヘッドセットの偉大な力…ではなくて、私の実況の力!
猫の魔物はこちらを目掛けて高速移動!爪で切り裂き、大暴れ!しかし、オーキチ選手は難なく躱し、なんなら肉球をぷにぷに遊んでいる!魔物は冷静になって冷や汗だらり!オーキチ選手は剣を抜く!魔物は…おっと?!威嚇の構え!さぁ、ここから真剣勝負!見あって見あって…三…二……一!今です、ここでステップからの切り上げ!!!!決まったぁぁぁぁぁ!!!何が起きたか分かっていない猫ちゃん、本当は愛でてあげたかったオーキチ選手!
「おぉ、凄いな!」
「我は…何もしていない!」
「いやぁ…ここまで思考が整理されるなんてすごいよ!」




