八話 自覚
「近いうちに、お前たちは他の領地に行くんだろ?」
「準備が出来次第ではありますけどね」
「なら…明日には渡してやる」
「え?何をですか?」
「あ?お前忘れたのか?領主の印に決まってるだろう?」
「あぁ!」
すっかり忘れていた、この旅の目的なのに。シデンは豪快に笑って”あぁ、明日俺の部屋に来い。案内は任せてある”とだけ言って、その場を立ち去った。何だか…全員に慰められて終わった気がする、この領地。俺の強さ…か。なんなんだろうな。俺は空を見上げて綺麗な満月を見つめる。この領地は涼しくて…金色の畑と金色の月。何だか、十五夜みたいだ。
翌朝、目が覚める。二日酔いが酷かった。まだまだ慣れない、か。俺は欠伸をして寝不足気味の目を擦る。次に瞼を開いたら、目の前に人影があって驚く。もう一回目を開いても目の前に居る。え、座敷童?それにしては…大きい。黄色と黒が混ざった耳を覆うぐらいのショートの髪は毛先だけカールしている。左目は黄色、右目は黒のオッドアイでハヤテを彷彿とさせる。
「貴方様、行くよ。」
「え…はい…?」
言われるがままについて行く。部屋を出て、真っすぐに歩く。中庭を抜けて、開けた場所には大きな障子が二枚あった。目の前の女の子は”連れて来た、シデン”と声を掛ける。え、もしかしてこの子が最後の四天王って事か?開けられた障子の奥で、シデンは座りながらこっちを見ていた。
「来たか、そこに座れ」
「はぁ…。」
言われるがままに座る。すると、目の前の机の上に領主の印が置かれた。
「これで良いか?」
「はい、ありがとうございます…所であの子は?」
「あぁ、ヒカゲ、こっちに来い」
呼ばれた女の子はシデンの隣にちょこんと正座をする。何、このお見合いみたいな雰囲気…。嫌だな、なんか。俺は二人の顔を交互に見つめるが、言葉は出てこない。余計に不気味になる、何をさせたいんだ?
「困惑してる」
「そうか、こいつはヒカゲから見てどうだ?」
「芯が強い、善の感情も。それに思いが強い。」
「だとよ?どうだ、お前に心当たりはあるか?」
「あ、俺ですか?」
シデンは”お前以外に誰が居るんだよ?”と訝し気に言った。善の感情…。考えた事も無かったけど…人間が道理から外れた事をしようとしているこの世界では…俺は人間の敵になっているのは間違いない。そうか…。善の感情か。
「時にお前は、修羅にもなる事があるな?」
「んな?!その概念って…」
「修羅はお前の強さではない」
修羅…激しい感情をの現れ、俺はそれを幾度となく戦闘で感じている。特に怒りに関してはこの世界では抑えが効かない。怒りを押し殺すとそこから黒い何かが上がってくるような…そういう感覚がある。あれは、俺の強さじゃなかったのか。でも、俺は冷静で居ながら戦える。怒りを味方につけることが出来る。
「違う、怒りを味方にしてなどいないだろ?」
「貴方様、それは仲間が居るから」
「仲間が居るから?」
「そう、仲間を守る意識が貴方様の強さ」
…あぁ、なるほど。怒りを味方につけていたんじゃなくて、仲間が居る事で冷静になっていただけだ、と。仲間が侮辱され、怒り、俺は強くなっていただけだと。仲間の為に本気で怒れる、俺はそうなれたのか。ヒカゲは俺を見つめて頷いた。
「俺は…言葉にしてないけど」
「感情、オーラが見える、伝わる」
「ヒカゲの能力を話すつもりは無かったんだがなぁ?」
「そういう事ですか、なるほど。」
「貴方様は善が強い。だから、うちが前に現れた」
「そうでしたか…」
「お前の強さを理解したか?」
「はい、ありがとうございます」
シデンとヒカゲは頷いていた。ここまでしてくれるのは…何か意味があるのだろうか。だって、この領地でしてあげられた事なんて…二つぐらいしかない。酒と腕試し。他の領地ではもっとたくさんの事をしてあげられたはずなのに。
「その二つが、困っていた事、だからうちが出た」
「そうだ、お前は理解が出来るようで出来ないな?」
「あはは、別に賢くは無いので…。」
「そうだな、賢そうで賢くないよなぁ?」
「んな?!どういう事ですか?!」
「そのままの意味だ」
「シデン、今のは否定する所だった」
「はは、こいつに否定なんざ要らねぇよ」
「くっ…合ってる気はしますけど、癪ですね!」
そうか、こういう時も別に本心から怒ってない。俺は…イトベリアの民を仲間だと思っているのか?たったこれだけの期間過ごしただけで…。すごいのは俺じゃなくて、イトベリアの民じゃないか。
「違う、行動に移せない、貴方様は行動できるから」
「ありがとう…。」
「何一丁前に照れてんだ?お前は本当にちょろい奴だな!」
シデンは豪快に笑っている。ヒカゲも笑っている。いい光景だ、この光景を何回でも守りたい、そう思える。俺は…このためにこの世界に来たのか。だから、魔王と対談して平和に向けた努力をしようとして…。じゃあ、青年と俺は同じ思想だったのか。
「そう、それが誰だか知らないけど、そういう事」
「ありがとうございます、これから旅立ちます。」
「あぁ、行ってこい」
俺は急いで荷物を纏めて全員を起こした。皆はまだ眠そうだけど、次の目的地は…隣の武人族の領地という事にしておこう。




