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来世でも実況したいと願ったら"スキル実況"を獲得しました  作者: 鳶雫
一章 人間の領土~首都コルトランド~
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(1)

「英次!!」

 俺は飛び起きて回りを見回す。だけども、英次の姿はないし、朝になった森の中だった。本当に…お前はどこまでも優しい奴なんだな。俺の”実況”でお前を笑わせてやるよ。お前にだけ届くんでもいい、いや、それでいい。お前が笑顔で過ごせるように。

 焚火の日を消して、身支度を済ませる。気づけば地面に寝ていた事もあって、起きたら体はバキバキに固まっている。腕を回して、首を回して、軽くストレッチをして、整える。準備は出来た、とりあえずどこが最初の目標になるか分からないけど、行けるところまでは行ってみよう。

「で……本当にどこなんだよここ。」

 迷った。地図もなしに森の中を歩いているから本当に目的地が見えない。地図があっても、スマホに慣れ切った生活をしていた事もあってきっと迷っていただろうな。はぁ……。人間嫌い、とか言いながらさ。人間が開発した物に頼っていた訳だ。俺は何がしたいんだろうな。

 森の中を彷徨い続けて、そろそろもう一度日が暮れそうになる。森に生えている木々が色を変えている事に気づく。なんだか不気味な色をしている、黒だったり…というか顔みたいな物まで見えてくる。シュミラクラ現象なんだろうけど。それと、ここは地面がぬかるんでいるような。

「あの…?」

「なんだ?!」

 横から声を掛けられて、驚きのあまり少しだけ飛びのいてしまう。声の主は簡素な服を身にまとった人間だった。ただ、よく見れば獣の耳などが生えている。あれ、もしかして?王城で見た獣人なのでは?

「はい、どうしました?」

「いえ、ここに人が迷い込むなんて珍しくて」

「ここ?」

「そうです、ここはホラーウッドと言われる森でして」

「そうなんですか?」

「ええ、ですので危ないですよ?」

「そうですか、どう行けばこの領地を抜けられますか?」

 獣人が手招きしてくれて、案内を買って出てくれる。本当にありがたい、こんなに親切だとは…。というか、この人もここで何をしているんだろう?”ホラーウッド”なんて聞くからにやばそうな森の中を、こんな軽装備で歩くなんて…。

「ここです、我らの村ですよ?」

 目の前には、木の柵で覆われた簡素な村があった。入口の傍では子供たちが遊んでいて、色々な種族の人々が生活しているという事が一目見て分かる。平和な世界というのは、こういう事なんだろうな、という感じの村だ。

「ああ、ここは地図で言うとどこに位置しているんです?」

「ここは地図で言うと亜人の領地でそのまま亜人の村と言われる所ですね」

 ここが亜人の村…。という事は、二日ぐらい歩けば中間まで来れるのか。遠いようで近いんだな。いや、待てよ?という事は…俺は人間の領地を抜けて殆ど魔王国側まで来れた、という事か。

俺が村人と話をしていると、”あっ!”という声と共に、何かがすごい勢いでこちらに迫ってくる。それも大多数で。一瞬、日本で受けた記者達の待ち伏せがフラッシュバックして、立ち眩みを起こしてしまう。ここまでトラウマになっているとは思ってもいなかった。

「兄ちゃん?大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」

「遊んでよ、兄ちゃん!」

「そろそろ日が暮れるから、中に入らないと危ないぞ?」

 立ち上がりながら子供を抱きかかえる。この体なら、子供の二人ぐらいは平気で抱きかかえる事が出来る。子供は”うわぁ!”とか”すげぇ!”とか口々に言っている。横から”ずるい!”とか聞こえるけど、今は勘弁してほしい。

「ここで泊れる場所はありますか?」

「ここら辺ではないですね、我が家に泊りますか?」

「いや、そんな迷惑ですよね?!」

「いえいえ、何か事情があってここまで来てくれたのでしょう?歓迎しないと我々の気がすみませんよ」

 村人はニコニコしている。そう、この笑顔が見たかったんだ。誰かに対して、慈しみ、歓迎してもてなしてくれるような…太陽のような笑顔。ここで断ってしまってはこの笑顔が消えてしまうかもしれない。

「では…お願いしてもいいですか?」

「ええ、任せてください!」

 村人は再度手招きをして、自分の家へと案内してくれる。なんだろう、人の温かさに触れたのは久しぶりの事かもしれない。なんだか、これだけで涙が出そうなぐらい嬉しい。ただ、申し訳ないけど、警戒だけはしなくては。追手とつながっている可能性もなくはないから。

 村人の家は木造平屋の一軒家。王都の物と比べてしまうと見劣りしてしまうかもしれないが、風情があって温かい家、という印象を受けた。家の前で抱えていた子供を降ろして、去っていく子供たちに手を振り、家の中に案内されるままに入って行った。

「何もないですが…お掛けください」

 そう言われて、目の前に見えた木でできた椅子に腰を下ろした。正直、野宿が二日連続になるかもしれない覚悟を決めていたから嬉しかった。屋根があって、壁がある。それだけで安心感が全然違ってくる。

「ふぅ…助かりました。」

「いえいえ…先ほどから何か込み入った感じがしていましたが、どうされたのですか?」

「ええ、実は…。」

 俺はここに来るまでの事情を説明した。異世界から来た事を省いて。村人は真剣に頷きながら聞いてくれている。俺が話し終えると、村人は溜息を吐いた。なんの溜息なのか分からなかった、がすぐに分かる事になった。

「先代の国王様とは…やはり、そこまで状況が違うのですね」

「先代の国王様ですか?」

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