(2)
レッドドラゴンは瞬殺だった。正直…目の前で何が起こったか分かってない。苦しむ間も与えずに、何かで死んでしまった。何だか…おんぶにだっこな感じがする。このままではまずい!俺も何か…何かしなければ。ミヤビはそんな俺の様子を見てクスクス笑って”そのままが良いのです、健一さんはもう強いのですよ?”と言ってくれた。
俺は言葉の意味を考えていたが、結局分からずに領地まで戻ってきてしまった。俺は、強いか。最近では特に活躍を見せていないような気がするんだが…。悩んでいたら、俺はシデンにぶつかっていた。シデンは”なんだ?何考えてんだ?”と言って覗き込んできた。
「今夜の…寝床ですかね?」
「あん?何はぐらかしてんだ?正直に言えよ?」
「まぁ、良いじゃないですか。寝床問題は困ってますよ?」
誰かに聞いて答えを出してもらうのは違うし…それが答えとも限らない。多分、俺はここでシデンに聞いてしまえばこの先もこの問題に悩むことになってしまいそうだと直感で分かっているんだ。シデンは”家に寝ればいいだろ?部屋なんか山ほどある”と言って、屋敷を指さしていた。じゃあ…お言葉に甘えるか。
狩をして、寝て、様子を見る。これを何日か続けた。次第に酒の様子は変わって行って、ついに完成する。目の前にあるのは、その試作品。透明で綺麗な水の様な酒だ。香りは…どこか微かに甘く、アルコール臭がきつい。マルカは”良い酒が出来たのだ!”と自慢げだった。
「じゃあ、持って行こうか」
「なのだ!」
蒸留をしていた畑の前から、シデンの居る屋敷まで酒を運ぶ。綺麗にした樽に詰め込んだから、運ぶのは楽だが…重い。途中でミヤビに持ってもらう事にして、いざ、お披露目をする。シデンは家の庭にある縁側でくつろいでいた。俺らが持っている物を見て”お?完成したか!”と目を輝かせながら近づいて来た。
「ええ、完成しました」
「そうか!今すぐに領民を呼ぶか、耳を塞げ」
言われるがままに耳を塞ぐ。俺以外の全員も耳を塞いだ、直後。大きな破裂音の様なシデンの声は俺らの手を貫通して耳に届く。すぐに収まったが、地響きと共に、庭にたくさんの領民が集合した。シデンは”酒だ、祝うぞ!”と言って樽を掲げていた。領民は”うぉぉぉぉぉ!”と声を上げて喜んだ。
すぐに机やら椅子やらが用意されて、なんだかバーベキュー会場みたいになってしまった。領民たちはどこからか持ってきた魚や肉を焼いている。手元を覗いてみると、川魚が塩を振った状態で焼かれている。皮がパリッとはじけて、中から脂が染み出て来る。魚の焼ける匂いは…正直酒が進む。
「所で…こんなので良かったんですか?」
縁側ででひっそりと酒を飲んでいたシデンに近づいて話しかける。シデンは俺の方を見て”あぁ?どういう意味だ?”と答えた。実際、鬼人の問題は一つは解決出来たと思う、酒はね。腕試しなんかは俺らが居なくなれば…また解決しなくなる。
「あぁ、これでいいんだよ。大体お前が負かせたのは四天王だ」
「え?四天王?」
「お前知らないのか?俺が頂点であり、俺も四天王だが…基本的に鬼人は会話する程の知能を持たない」
「え?それじゃあ…」
「あぁ、俺らは稀有な存在って事だな。だから四天王だ」
レイロウ、オキビ、シデン…あと一人が居るはずだが、四天王か。あぁ、強すぎて腕試しすら出来なかったという事か?だから、俺らが来て腕試しが出来ればそれでよかった、と?シデンは俺の様子を見て頷いている。なんで皆心の中を読めるんだろうな?
「だから良いんだ、それに四天王の最後は戦闘狂じゃねぇ」
「はぁ…そうなんですね?」
「あぁ、だからお前には感謝してるぞ」
「え?何でです?」
「だから、四天王を負かせたからだ。強すぎるが故に慢心して死ぬ、よくある話だ。」
シデンは空を見上げて酒を飲む。シデンの向いた方には月が出ていて…満月だった。それはそうだ、慢心は死を招く。どんな状態だったとしても。何かの熟達者でさえ、一瞬でも気を抜けば死ぬかもしれない。自分よりも弱いと思っている者が突然牙を剥いて暴走する事だってあるのだから。
俺は樽を取り出す。ワインを飲みたくなったからだ。樽の上を叩き壊して、コップに注ぐ。シデンは不思議そうに見つめていたけれど、お構いなしに注いだ物を呷る。
「なんだそれは?」
「ハヤテがくれた万年ワインですよ」
「ほぉ?それは俺にはくれねぇのか?」
「要りますか?」
シデンはコップを差し出してくる。そこにワインを注いでコップを返した。すると、シデンも何故か一気に呷る。俺が先に呷ったから仕方ない事だけど…勿体ない気がしてきた。
「お前は強いな」
「なんです?急に…」
「きっと心が強いんだ、何かの壁を乗り越えて来たんだろう?」
「う~ん…なんでしょうね」
俺は…何かを乗り越えられた実感はない。やりたい事をやってきて、気づけば乗り越えていた事の方が多かった。だから…実況が出来なくなれば、終わりだ。強くなんかない、寧ろ…弱いんだ。何かに依存している状態なんだから。




