七話 四天王と酒造り
「そういえば、倒れている二人を放置していて大丈夫ですか?」
「あぁ?問題ねぇな。すぐに起き上がって来るだろうよ?」
シデンの言葉通り、二人はすぐに気が付いて立ち上がった。オキビもレイロウも自分の体を隅々まで確認して一安心しているようだ。そんなに強くやってしまったかな?でも、木刀での突きって…危なくはあるよな。鬼人族や竜人族以外にやってしまえば絶命の危険性もある。
「まさか…負けるとは思わなかったっす」
「あたいもですわ、不甲斐ないばかりですわ」
「良いんだ、あいつは特別だからな」
シデンは俺を指さして笑った。俺もミヤビの事が心配だ、この敗戦を気にしていなければいいのだが…。ミヤビはまだ若いとは言え、竜人族だ。他の種族にいい様にされた事なんて無いだろうから。ていうか、レイロウって冷静だとお嬢様みたいに喋るんだ?俺は鬼人三人を置き去りにしてミヤビの元に向かった。
ミヤビは仲間の皆に囲まれて励まされている所だった。皆は心の中でダサいとか屈辱だなとか思わないだろうから大丈夫か、俺も別に思わない。この敗戦がきっかけで、研鑽出来るようになれればいいと思うけど…対人戦で鬼人以上の相手と戦うとも思えないしね。
「ミヤビ?見事な戦いだったよ?」
「健一さん、流石でございました。」
「ミヤビもね?」
ミヤビは首を横に振って”わたくしは違います”と言った。まぁ…想定外だったよね。だって、全力をぶつけて相手が粉々にならなかったし…。それにきっと、相手が全力じゃない事を知っているのだろうな。この敗戦はミヤビに技術を教えてくれるのを祈るのみだな。
「ミヤビさん…元気を…出して…ください…!」
「そうだよ?すごい戦いだったじゃないかい?」
「うむ!いいデータが取れたのだ!やはりパワーだけなら一、二を争うのだ!」
「皆さん…。あぁ、仲間とはいいですね!」
「そうだよ、いいでしょ?」
ミヤビは頷いて、元気を取り戻した。俺は皆にシデンから依頼された事を伝える。酒造りは…マルカが詳しいと思うんだけど、どうだろうか?俺もある程度は詳しいつもりだったけど、実際に自分で酒を造るのは違法だった…?この世界では違法じゃない?と言う事は…自分の飲みたい酒を自分で造れる?!
「マルカ、どう思う?」
「うむ?材料さえ取れれば出来るのだ!この領地には…見た所、良い材料が山ほどあるのだ!」
「なるほど、じゃあ取り掛かってみる?」
マルカが頷いたからシデンにそれを伝える。シデンは俺のことを叩いて”この領地にある物は全て好きに使え”と言ってくれた。叩かれた肩は…くそ痛い。本当に馬鹿力…いや、鬼力だ。闘技場から外に出て、畑に育っている作物を見る事にした。
どれもこれも品質は高そうだ。特に…稲穂、まさかの米を育てているんだ。この世界でももう一度出会えるとは思っていなかった。米をベースに酒を造ることが出来るのではないか?ライススピリッツはかなり有名だったはず。そこから香り付けをして…再蒸留。この流れが一番ベストだろうか?
「マルカ、これさ米をベースにジンを造れないかな?」
「米なのだ?この硬そうなやつなのだ?」
マルカは一束の稲穂を掴んで、じっと見つめて精査する。米はかなり酒に向いている植物の一つだと思う。日本酒、焼酎…なんでも行ける。芋なんかでもいいんだけど、サツマイモは見当たらないし。あ、でもあそこにトウモロコシみたいなのは生えてる。あれも使えそうだけどな。
「米は甘味もあるから糖がアルコールになると思うんだ」
「なんでそんな事知って…ああ、元の世界にあったのだ?」
「そうだね、日本酒と米焼酎、それにライススピリッツと呼ばれる物だね」
「相当な酒好きなのだな?!」
「まぁね、当時は…浴びるように飲んでいたかも?」
この世界に来てから、嗜好品の意味をようやく理解した気がする。きっと日本に居た時は…ストレスを緩和したくて飲んでいたと思う。まぁ…この世界に来てもストレスの現況は間違いなく人間なのは変わりないんだけど。俺は溜息を吐いたがすぐに稲穂に視線を戻した。
「健一さんの居た世界の味をわたくしは知りたいです!」
「あれ?!着いてきたの?!」
振り返ればミヤビだけが居た。ミヤビの後ろの方に注目すると、遠くでシュエリとメェルが二人で何かを話しているのが見えた。そうか、ミヤビは酒が好きだもんな。流石はハヤテの娘だ。
「発酵の工程とか日数とか、蒸留にかかる日数なんかも…俺は分からないけど。」
「そこら辺は此方に任せて欲しいのだ!最高の酒を造りあげるのだ!」
「そういえば…どうやって造るの?」
「健一さん!マルカさんは蒸留の第一人者ですよ?」
「はい?!そんなの聞いてないけど?!」
「うむ、言ってないのだ!」
「そういうのは先に言ってよ?!」
「聞かれてないのだ!」
そうか、聞かなかった俺が悪いか。それにしても、蒸留の第一人者なのか…。マルカは凄いな。




