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「いいな!長生きしているとこういう事があるからなぁ?」
「喜んでもらえたなら良かったです」
「おい、オキビ!この竜人は腕っぷしが強いらしい」
シデンの声掛けに応えたのか、障子をスパンと開けて赤いショートで程よいくせっ毛の、モデルの様な身長をした鬼人が姿を現した。さっきから髪の色は派手だけど、和名な気がするんだよな。紫電とか熾火とか。実際ハヤテとかも漢字の颯に聞こえる。俺以外の日本人とかこの世界に来たのだろうか?
「まさかハヤテの娘と腕試しが出来るなんてな?」
「そうっすね…まさかっすよ、しかもあちきが戦うすっか?」
「あぁ、戦ってやれよ」
「何故貴方では無いのですか?わたくしには戦う理由が貴方にしかないのですが?」
ミヤビはシデンを睨みつけて啖呵を切る。あぁあぁ…ぐちゃぐちゃだ。オキビはミヤビを睨みつけてミヤビはシデンを睨みつけて…。それで?何でシデンは俺を見ているんだ?もう眼中に無いって事?そんなに竜人は弱いかね?特にミヤビなんか結構化け物だけど…。ミヤビは一瞬俺の方を”なん事を言うんですか?”と言う目で見る。ごめん、可愛い…バケモン?でいい?
「あちきを差し置いてシデン様と戦うっすか?無理っすよ?」
「だから戦う理由が無いでしょう?何故わたくしに啖呵を切るのです?啖呵を切る相手を間違えておいでですよ?」
「なんだか馬鹿にされてるっすね?今すぐに叩き壊してもいいっすよ?」
「わたくしを…叩き壊す?無理な事は仰らない方が宜しいですよ?」
ミヤビとオキビは両者で睨み合っている。そんな様子を見て、シデンは愉快そうに笑っている。これが…この領地の日常茶飯事って事?俺、もう帰りたくなってきた。隣に居たメェルは無言でじっと俺を見つめている。なんだ?いつになく動かない……?!失神してる…。
「ここではなんだ、場所は裏でやれ!」
「承知っす!行くっすよ、竜人さん?」
「受けて立ちましょう、健一さん!しっかり見ていてくださいね?」
「あ、あぁ。」
「おうおう?余裕ぶっこいてるな?流石はハヤテの娘だ!」
シデンは豪快に笑ってミヤビとオキビに着いて行く。うん、こっちの方が蛮族だ。この前盗賊と戦ったけど…盗賊よりよほど蛮族だった。さて…落としどころとしてはどこがいいんだろうか?多分…ミヤビは怒りに身を任せて制御出来ないだろうな。それにしても…ミヤビは俺の事以外で挑発に乗ることがあるんだな。
オキビの案内でそのまま裏庭まで出ていく。渡り廊下を歩いて行くと、そっちは闘技場の様な形になっていた。土俵があって…まるで相撲のセットだ。盛り土はされていないけれど、壁は…鉄?!嘘だろ?!もしかして、この領地の壁と同じ素材で出来ているのか?力が強いってのは…本当なんだな。
「勝手に開始しな!俺はここで見てるからよ?」
「健一さん全力を出しますので見ていていただけますか?」
「なんなんすか?男にアピールっすか?あんな男のどこがいいんすか?」
「あんな…男ですって?!」
まずい…ミヤビが本気を出そうとしている?!あぁ…ここなら壊れないだろうし良いか。多分だけど…相手も死なないだろう。シュエリも居るし、一応ヒールは出来る。ヒールできる範囲の傷で収まってくれればだけど…。お互いが好き勝手するよりは…俺が実況した方が楽しそうだ!
東~ミヤビの山、西~オキビの里、選手の入場は済んでおりまして。さぁ、見あって見あって!はっけよい…のこったのこった!!激しくぶつかる肉体同士!なんという事でしょう?!ミヤビ選手の渾身の一撃、寄り切りを受けてなお、土俵に立ち続ける事が出来るなどあって良いのでしょうか?!
「おほぉ?!すごいっすね?!」
「んな?!今までこれを受けて立って居られた者など居りません!」
「それはそれは…光栄っすねぇ!」
オキビ選手は仕掛けます!何やら手を前に出し、腰を低くして…これは?!本物の…よ、寄り切りです!!ミヤビ選手は押されまして…何とかギリギリ土俵の上で耐えております!まさか…相撲を見る事になるとは思いませんでした!着物を着ているのにどうやってあのような動きをしているのでしょうか?!
「すごいっすね!ここまで出来るなんて…嬉しいっす!」
「厄介な相手ですよ…どうすればいいでしょうか。」
「さぁ、ここで終いっす!」
んな?!土俵際すれすれで!!オキビ選手はすくい投げをチョイスした様子です!何とかミヤビ選手も耐えて耐えて…粘っておりますが、投げられてしまったぁぁぁぁ?!試合終了!!まさかの、腕試しは相撲でした!
「わたくしが…負けた。」
「初めての負けっすか?それにしてはなかなか手ごわかったっすよ」
ミヤビは顔を歪めて悔しそうにしている。起き上がったミヤビは俺に近づいて来て一言”負けました”とだけ言った。しょうがないね、腕試しって事は要は相手が満足すればそれでいい。しかし…オキビは俺を指さす。まるで、次はお前だ、と挑発しているみたいに。




