(1)
身支度を済ませて屋敷を出る準備をする。ここから先…テント一つじゃあ、どうしようも無いよなぁ。俺が玄関でうろうろして居たら、メイドの一人が声を掛けて来る。”どうかされましたか?”と言われて、”なんでもないです”と答えたら訝しそうに見つめられた。
「何をウロチョロしているのだ?」
「マルカ、テント一つじゃ足りない気がしてさ」
「それを仰ってくれれば良かったのです、用意して参りますので少々お待ちください」
「スウ!任せたのだ~!」
スウと呼ばれたメイドさんは俺らの傍に毎回居てくれた黒長髪のメイドだった。あのメイド、スウっていう名前なんだ?後ろ姿を見つめながらそんな事を考えていたら、これまた後ろ姿をじっと見つめられていた、シュエリとメェルに。二人は眉をきゅっと寄せて嫌そうな顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ?僕は何にも思ってないよ?」
「私も…です…何も…感じません…!」
二人は俺から視線を外して、そっぽを向いている。するとマルカが横から現れて”スウは渡さないのだ”と言った。貰うなんて言ってないし、物みたいに言わない!!印象がすごい悪い!奴隷商じゃないし、これ以上女性を増やすのは…精神衛生上良くない!俺は頭を抱えた。
しばらく玄関で待っていると、ミヤビに次いでスウが姿を現す。スウは持っていた真っ白い布切れみたいなのを渡して”ご主人様とあなたはこれでよろしいかと”と言った。え?これいじめ?俺らはこの布で寝るの?嘘じゃん。俺がマルカを素早く見ると、マルカは”ありがとうなのだ!”と言っていた。主人、しっかりしてくれ!
「とりあえず…行くね?」
「留守は任せたのだ!スウ!」
「行ってらっしゃいませ」
なんの感情もなしに、スウが頭を下げると、他のメイドも見送ってくれていた。ここから鬼人族の領地までは…時間が掛るなぁ。
屋敷を出て、魔王の領地を出て、南西に向かう。道中で出た魔物を見て、マルカが騒ぎ立てていた。”バイラビットなのだ!”とか”メルトコーンなのだ!”とか色々訳の分からない魔物の名前を叫んでいる。俺とマルカが見守る中、皆は颯爽と魔物を狩っていく。
「いやぁ…本当に、強いパーティだ」
「やっぱり奴隷にしているのだ?」
「いや、違うんだけどね?血の気が多いんだよ、俺の仲間達は…。」
メェルなんて普段あんなにびくびくしているのに、戦いの場になれば先陣切って駆けていく。解体も請け負っているのに、体力がすごい。シュエリはバフを掛けつつ、状況を見て…殴ってる。魔物の顔に鈍器を叩きこむ。ミヤビは…言わずもがな、素手で殴りつけている。
「う~ん…俺は不要だ。」
「何を言っているのだ?これだけの戦力を集める事が出来たのは健一が居たからなのだ!」
「マルカ…ありがとう!」
俺らが”ひしっ”と抱き合うと先頭から”男性が好きなのかもしれません”とか”男…でしたか…ならば…なります…!”とか”健一君は生物誑しだ”とか散々聞こえてくる。この世界だけでも…仲間に愛されて生きていたい!
「所で…印を集めて魔王に会うってシステムはどこから始まったの?」
「む?知らないのだ?」
戦闘を終えて休憩に入った時、ふと思ったことを聞いてみた。実際、どうしてこうなったかが知りたい。いや、戦力を集められたら大変とか、簡単に誰でも魔王に会えたら魔王じゃない、とかそういう理由なんだと思っていたけど…どうなんだろう?魔人族としてはどんな理由を聞いているんだろう?
「印を全て集められる者となら会ってもいい、と言ったのが始まりなのだ!」
「え?何それ?」
「きっと何か事情があるのだろうね?僕らが推察しても分からないかもしれないよ?」
「そうかもね、じゃあ…理由は分からないんだ?」
「分からないのだ、とりあえず魔王様はそう言ったのだ!」
マルカはパッと顔を上げてそう答えた。一応理由にはなっているけど…他の意図がきっとあるだろうな。今までの感じで言えば…領主の印を集める事は簡単な事ではない。俺はたまたま問題に駆けつけて、解決して、印を貰っているだけだ。
「そうなのだ!コルトランド現国王はどうなのだ?」
「あれ?話さなかったっけ?」
「簡単に聞いただけのだ!」
「あれはね…人間の皮を被った化け物だよ。」
俺の言葉にミヤビ以外は首を傾げていた。ミヤビだけは”その言葉は適切な気がいたします”と頷いていた。会った事は無いだろうけど、視たんだな、俺の記憶とか。人間がしていい行動じゃない。戦争を軽々しく口にしちゃいけない。
「健一さんは戦争を重く考えてますよね?」
「当たり前だよ?戦争は全てを奪い去るからね、何も残りはしないんだ。」
「私の…領地は…大丈夫…でしょうか…?」
「大丈夫、そう思っておけば大丈夫なんだよ?」
メェルの震える肩にそっと手を置けば、震えは自然と収まった。獣人は簡単にやられはしないはず。それに、すぐにでも仕掛けると言って何も仕掛けてきていない…はずだ。




