二話 とある貴族
「な、なんなのだこれは?!」
研究室に此方が籠っている間に何が起こったと言うのだ?目の前に積み上げられた解体済みの綺麗な素材を見つめて額を拭う。今までにこんな事が起こった事なんて無かったのだ。しかもだ!よく見なくてもレアな素材があるのが分かるのだ、丁寧に解体されて、潰れている所がどこにも無いのだ。
「これは誰が持ってきたと言うのだ?!」
「マルカ様!それが…あちらの方たちです!」
指さした方には、竜人と獣人と森人、それに人間のパーティが居た。おかしい、人間がこんな所を歩いているのなんて、ここ数十年で久しぶりに見る。もし仮に、奴隷にこんな事をさせているのだとしたら…。しかし、この素材は勿体ないのだ。うん?服装は…綺麗に白と黒の…なんなのだ?見た事無い服装なのだ。それに…奴隷と同じ服装なのだ?
「引き留めなかったのはなんでなのだ?!」
「そ、それが…観光に行くと言ってまして…」
「か、観光?!なんなのだそれ?!」
観光?人間が?本当におかしい。人間がイトベリアに興味を持つなんて…それに、イトベリアに素材を売りに来る?目的は何なのだ?素材を触ってみるが、なんともない綺麗な素材。肉だってこんなにたくさんあれば…いろいろな所に卸すことが出来る。彼らを手放すわけには行かないのだ!
「ちょっと待つのだ?!」
ギルドを出て、魔王城を目指している最中。後ろから声が聞こえたような気がしたけど、そのまま歩みを進める。俺らがこんな所で呼び止められるはずがない。ミヤビが俺にこそっと耳打ちで”わたくし達に用事があるんですよ?あれは”と言った。マジか?何の用事だろう?
「俺らに何か用事がありますか?」
「そうだ!其方らに用事があるのだ!」
後ろを振り向けば、身長が子供ぐらいで黒色の綺麗な腰まで掛かるロングストレートを揺らした子が居た。身なりは…ぶかぶかの白衣を着ている。白衣?研究者か何かか?それにしても…こんなに小さな子供が?俺が首を傾げているとミヤビが”これでもわたくしよりも年上です”と言った。
「年上?!」
「な?!なんなのだ?」
「すみませんが年齢は…。」
「年齢?五百を超えた辺りで数えるのを辞めたから…五百から六百の間なのだ?」
目の前の小さな子供は首を傾げて指を折っている。そう、あれ一本が百単位。本当に長命種と話すと時間間隔がバグってしまう。俺の一生があの小さな指折り一つで数えられてしまうのだ。寿命問題…考えるだけ恐ろしい。所で、なんの用事なんだ?
「ごめんなさい、所でなんの用事でしたっけ?」
「先ほどの大量の素材と肉は其方らが用意したもので間違いないのだ?」
「あぁ…間違いないですね?」
「少し話を聞いて欲しいのだが…時間は良いだろうか?」
俺は視線を魔王城に向けて考える。魔王城を見てからでもいいかな?それとも、この人に聞いてから案内してもらった方が良いかな?研究員って事は…魔王城に入れたりして?!
「魔王城に入れたりしますか?」
「此方は入れるのだが…其方を連れては難しいのだ」
「そうですか」
俺は三人に目をやる。すると三人は頷いている。これは、着いて行くって事でいいのかな。別に害は無さそうだし…そもそも、この子一人でメェルやシュエリ、ミヤビを何とか出来るとは到底思えない。後…切羽詰まって困っている人の話は何となく聞いてあげたくなってしまう。
「良いですよ、行きましょうか」
「おお!有難いのだ!じゃぁ…此方の家に行くのだ!」
そう言うと、近寄ってきて俺の手を取る。目の前の研究者は俺を連れて、空を飛んだ?!みるみる内に、街を見渡せる程の高度に達する。それから、数秒でその人はとある地に降り立った。目の前には、立派なお屋敷が立って居て…ギルドの真裏だった。空飛んだ意味がどこにあったんだ?
「着いて来るのだ」
「あの…仲間が…」
「健一さん、居りますよ?後ろを飛んでいました!」
振り返ると皆はそこに居た。ミヤビ以外が困惑と驚きの顔をしている。あぁ、一緒に飛んだんだ、これ。俺だけが飛んでいたのかと思ったから皆は?!と思ったけど…全く予期しないタイミングで飛んだのか、それは怖かっただろうな…。俺は問答無用で引っ張られて、大きなお屋敷に足を踏み入れた。
「こんな大きなお屋敷に住んでいるなんて…。」
中は貴族が住んでいる屋敷みたいな感じだ。赤い絨毯が扉から目の前の二つある階段までつながっていて、メイドがたくさんいる。”お帰りなさいませ、いらっしゃいませ”と全員が同じタイミングで頭を下げる。皆女性だった事に驚いたけれど。
「挨拶がまだだったのだ?此方はドリードマルカ!ドリード家の家督を任されているのだ!」
「そうですか、俺は小田健一。それにミヤビとシュエリとメェルです…ってマルカ?」
「そうなのだ?何か不思議なのだ?」
マルカは服装を見て”これか?これは特注で作ってもらった物なのだ!”と言っている。違う…そこじゃない。シュエリの持っていた本の著者、食堂の経営者で研究者…。目の前に居る事が不思議でしょうがない。変な縁だな。




