六話 糾弾と祝勝会
領主はぽつりぽつりと悔しそうにしながら話し始めた。
森人を全て奴隷にする計画自体はかなり前からあった。人間が戦争を始める前、奴隷として価値がある者全員に人間から声を掛けて回っていた。そこで森人の領主は、自分がどうにか生き残る事、地位を維持する事を考えてその人間と取引をする事にした。提示されたのは、自分のコルトランドでの領地保有。それと、食うに困らない財産だ。これを聞いて、この計画を企てた。
最初は順調だったが、シュエリの存在が邪魔になった。改革を行おうとした最初の人物だったから。それで、街から追い出したら、今度は俺が来た。俺が来た事は誤算だったが、計画自体に支障はないと踏んで決行した。後に、シュエリが庇った事で時間を稼げて、俺の到着が間に合い、今に至る。
「なるほど…それは本当に魅力的だったのか?」
「なんじゃと?」
「だって、人間至上主義の中で森人一人で生きるのか?」
領主は苦痛に顔を歪ませた。少し考えれば分かる事なのに、作戦を決行してしまったがためにここに居場所は無い。更に、コルトランドにも居場所は無い訳だ。どこにも行けないこの老骨はどうするんだろうな。
「まぁ…俺が裁く訳じゃ無いけど」
「んな?!誰が裁くと言うんじゃ?」
「はい?領民に決まってるだろ?」
領民を見れば、全員が領主を睨みつけている。実際、弱らせる事に成功していたのは事実だったけど。今は回復した訳だし、狩もかなり出来るようになっているだろう。領主が食い物を巻き上げるみたいな事をしていたみたいだし…。まぁ、どうなるかはお察しの通りだろうな。
「民よ…儂を見捨てるのか?!」
「先に見捨てたのはあんただろう?」
「そうだ、もうお前は領主でもなんでもない!」
森人たちが、一人の森人を糾弾している。恐怖で支配しなくてもこんなになるんだなぁ…。シュエリも…なんかごみを見るような目で見ている。仲間を一番に思っていたのはシュエリだった訳で…領主では無かったと。
「はぁ…あまり見ていて気分がいいものじゃない」
「どうされますか?目を覆って差し上げましょうか?」
「うん?どんな感じで?」
「こうです!」
ミヤビが竜の形態になって、俺の事を翼で多い隠す。あぁ、これは良い。何も聞こえないし、何も見えない。本当は争いごとを持ち込みたかった訳じゃ無いんだ。平和に暮らしてほしかった…でも俺がした事は本当に正しい事だったのか?いや、正しい…と思いたい。
「大丈夫ですよ、健一さんの行っている事は正しいです!」
「そう思う?」
「ええ、だって他の人が奴隷にされてしまうんですよ?数百人の奴隷と一人の悪領主ですからね?」
「はは、物は考えよう、か。」
「ええ、そうです!所で…メェルさんも入られますか?」
ミヤビがそう問いかけると、隣からごそごそと音が聞こえる。メェルが潜り込んできているみたいだ。暗いから見えないけれど、隣に温もりを感じた。あぁ…なんだか落ち着いてきたなぁ。ダメだ、怒りに身を任せていてはダメなんだ…。
「しかし…誰かの為に怒れるのもまた才能ではありませんか?」
「ぐは…全て聞こえているんだった…。」
「怒れるのは…才能です…良い事じゃ…ないですか…?」
「うん、説明するのは難しいけど…罪、大罪だ。」
怒りは全てを飲み込んで、人間から理性すら奪い取ってしまう。獣になって、何かをしでかした時。最後に残るのは…後悔だ。あの時、怒りに支配されなければ…コントロール出来ていれば…なんて思ってしまうだろう。自分を責めて、いじめて、終いには…命すら投げ出すかもしれない。不幸の連鎖の始まりだ。
「後悔をした時には…もう遅いんだ、先に後悔が立つ事は無いからね」
「そうでしたか…。では、そろそろ良い物をお見せ致しますか?」
「うん?それは…眩し?!」
視界が開ける。覆われていた卵の殻から出ていく亀はこんな気分なのかもしれない。目の前に広がっているのは、森人たちが喜んでいる姿。祝勝会とでもいうべきだろうか。酒を飲んで、食べて…。集会場の意味をちゃんと為している。あぁ…いい景色じゃないか。俺も自分で分かっていたけど、後悔していたのか。怒りはやっぱり罪な訳だ。
「本当に、良かったね」
「うん、健一君たちのおかげだ、ありがとう、僕の王子様」
「お姫…うん?なんて?なんか違う言葉が聞こえた気がした?」
「はは、気のせいさ!行こうか、君たちが主役なんだ!」
シュエリがニコニコしながら俺の手を引く。皆は驚く程歓迎してくれている。領主の判決はどうなったかは後で聞くとして…今はご相伴にあずかろうかな。ていうか、いつの間にこんなに料理を出したんだ?肉の香草焼き、サラダ、スープ…それに、酒?これは…何の酒なんだ?
「さぁ、コップを持ったかい?」
「あぁ…ところで…」
「この領地の未来に、乾杯!」
「乾杯!!」
皆がそれぞれ、木のコップを持って”乾杯!”と言いあっている。まぁ、いいや。聞きたい事は後で聞けば。それより、今はこの幸せを一緒に分かち合いたい。




