(1)
集会場から三十分程離れた場所に皆を呼んだ。ここは一応魔物が生息している域だ。ここで、訓練をする。身体強化を女性陣が男性陣にも掛ける。男性陣は”なんでこれに気づかなかったんだ?””すごい…女性が居れば今までの問題は全て解決していたのに”と口々に言っていた。
女性陣も一応、弓を扱える事から、女性陣が木の上で待ち伏せ、男性陣が囮役を買っていた。身体強化の影響で女性陣でも弓を扱う事が出来るようになった。しかし…森人の男性は根性があってすごいな、囮役なんて…結構誰でも怖がるような事を簡単に買って出るなんて。女性を守ろうとする意識が強すぎるのと、領地の掟が女性を差別してしまったと言う事になったのだろうか。
「さぁ、ここからです!」
「来るぞ~!」
「さぁ!来い!」
遠くから、魔物を連れた男性陣が現れる。魔物は男性陣を追いかけて必死になっているが、手も足も出ない。何故なら、全く追い付いていないから。対して、男性陣は余裕そうに後ろを振り返りながら走って来る。男性陣が女性陣の待ち構えている所でサッと散開する。すると、魔物はぐるぐるとその場を探し回る。そこを、女性陣が一斉に射撃して…魔物を仕留める事が出来た。
「んな?!こんな簡単に…」
「ダメです、簡単だと思ってはいけません。それが慢心を呼び起こして、事故を産むんです」
「分かりました!」
ツリーハウスの時には半信半疑だったのに、気づけばすっかり聞いてくれるようになっている。警戒心も薄れているし、本当に良かった。これが、最初から聞く耳を持ってくれない、とかだとちょっと…大変と言うか、打つ手が無かったかな。
人数が…今の実践を見ていた人は二百ぐらいだけど、実践をやった人は男性が三人で女性が七人だった。男女比的に考えると…部隊を十は軽く作れそうだ。
「十部隊に分かれて狩を実践しましょう。ただ、狩尽くすみたいな事はしてはいけません!」
「分かっております、森が死んでしまわない程度に狩る、これが鉄則ですので!」
釈迦に説法か。森人の方が森に詳しいんだ、生態系なんかもかなり把握しているのだろう。であれば、俺は後は見ているだけでいいのかな?でも、領主のきな臭い行動をどうにか探らなくてはならないなぁ…。
「ミヤビ、どう思う?」
「わたくしとしましては、声が聞こえる範囲まで行ければ何とかなりますよ?」
「そっか、領主に呼ばれてるんだった!それでいいかな?」
「もちろん、わたくしは健一さんとご一緒いたします!」
「私も…行きます…!」
「僕は遠慮しようかな?」
シュエリが俯いて答えた。いや、シュエリも来た方がいい。この改革の立役者だ。実際、俺はシュエリに会わなければここまでの行動なんて起こせていなかっただろう。俺は俯いているシュエリの手を引いて領主の元に向かう。森人達には話をしてあるが、皆は口々に”やっつけてください”と言っていた。それは流石に…駄目だろ。
領主と最初に会った大木の根元にやって来る。どうやって呼び出すのがいいだろうか、仮にも相手は領主だし…。そんな事を考えていたら、向こうから胡散臭い笑顔をして会いに来た。”よくぞ来られました!”と。あんなに最初は警戒心むき出しで”要らない”なんて言ってきたのに。いや、ダメだ。俺の中の偏見なんだ、これは。
「挨拶が遅れて申し訳ないです」
「それは儂が行った事じゃ、許してほしいんじゃよ」
領主は頭を下げる。いやぁ…なんで一回胡散臭いと思うと行動すべてが胡散臭くなるんだろうな?それはさておき…何の用事で呼び出されたのだろうか?
「いえいえ、頭を上げてください!ところでどんな用事があったのですか?」
「そうじゃ!領主の印を用意しようと思っての?」
「んえ?何故急に?」
「そうじゃな、狩も、領民の問題も解決されたのでの?」
なんで知っているんだ?おかしいな、情報が早すぎるよな?それにしては…ツリーハウスを受け入れてないんじゃないか?領主はツリーハウスに住んでいないしな。
「ここに居るシュエリが手伝ってくれたので」
「そうじゃったか?なれば…褒美を出そう」
「僕は要らないかな?健一君が受け取っておくれ?」
「じゃあ、俺が受け取ります」
「そうか?なら渡そう、明日の昼頃に来ると良い!”良い物”が見れるじゃろう」
にやにやした目つきをしている領主は、そのまま去って行った。俺はミヤビに目で合図をすると首を横に振った。あぁ…黒か。全く…何のために領民を犠牲にして自分の懐を肥やしているんだか。俺は皆を連れて、シュエリの家に帰って行った。
「どうする?これ、何か絶対してくるじゃん」
「何をしてくるかは読み取れませんでしたが…シュエリさんを邪魔に思っているのだけは伝わりました」
「領主様が…そんな事を…許せません…!」
「明日の昼頃か、それにしても良い物が良い物とは思えないな。」
俺らが頭を悩ませていると、シュエリが飲み物を持ってきてくれる。一口含むと甘さが口いっぱいに広がって、疲れた頭を癒してくれた。なんだ?これは…蜂蜜か?
「これ、蜂蜜かな?」
「良く分かったね?そう、これは僕が採取している蜂蜜の飲み物さ」




