(2)
「実験してみようか、俺らなら何か分かるかもしれないし。」
「はい、わたくしは賛成です!」
「私も…良いです…!」
「良いのかい?この領地のためにそこまで…」
「別に魔法を掛けられたって死にやしないしね!」
森人でも、男性と女性の差は、単純な身体能力の差ぐらいしかないとしたら。それを補うための魔法である可能性は高いと思う。もし、それを男性にも掛ける事が出来れば更に狩の効率が上がる事を意味する。男性と女性が手を取り合って狩をする…いいじゃないか。
「とりあえず今日は出来ないとして…ここで雑魚寝になってしまうのだけれど…大丈夫かい?」
シュエリがリビングの一角を指さして言った。そこには、簡易的なベッドがいくつかあって一時的に寝れるような仕組みになっている。ここまで用意してくれるのなら全然大丈夫だ、寧ろ家の中で眠れるのなら本当に嬉しい限り。野宿なんかとは比べ物にならないのだ。
「ありがとう、嬉しいよ」
俺らはお礼を言って、今日は眠る事にした。
翌朝、鳥の囀りと共に起床する。外を見れば、大自然を上から見下ろせる爽快感が心の中に広がる。いい生活を出来ているんだな、と思いながらシュエリの姿を探した。外に出て、階段を下ろうとしたときに横目でシュエリの姿を確認することが出来た。小さなウッドデッキに居て、本を読んでいた。
「おはよう、なんの本を読んでるの?」
「これかい?これはだね、森人の性質を現した本だよ」
「そんなのを纏めている人が居るんだ?」
「そうだね、確か…貴族のドリードマルカ?と言う人だったと思うんだ」
そう言って表紙を見せてくれる。文字だけしか書かれていないタイトルの下に、著者が簡素に書いてあった。なるほど、この世界でも一応本は流通しているのか。森人の性質…か。どんな内容なんだろうな?
「どういう内容なの?」
「簡単に言うと、どんな事が得意で、どんな事が苦手か、みたいなのを纏めてくれているんだ」
「それって…その魔法に関しては書いてないの?」
「そうなんだ、書かれていないんだ…読んでみるかい?」
シュエリから手渡された本を手に取る。俺はこの世界の文字を読むことが出来ないんだけどなぁ…。案の定、中に書かれている文字を読むことは出来なかった。ただ、一つだけ、気になる挿絵の部分を発見する。そこには、森人の絵が描かれていて、身体能力をアップする事を示唆するような事が書いてあった。身体強化…だろうな、やっぱり身体強化で間違いないと思う。
「うん、森人の女性が使える魔法が分かった気がするよ」
「んな?!僕は何回読み返しても何も分からなかったのにかい?!」
「これは…研究していても難しいよ。明確に表れないんだ、きっとね?」
「ほ…本当に分かったのかい…?」
シュエリはウルウルした泣きそうな目を俺に向けている。ずっと一人で研究していたし…ずっと頑張っていたんだろうな。俺には親友が居てくれたけれど…一人で何かを頑張る人にはそんな支えも無い。結果も出ていなくて…きっと焦りや不安と戦っていたんだろう。俺はシュエリの頭を撫でて”大丈夫だ、これで解決できるよ、ありがとう”と伝えた。シュエリは泣きながら頷いていた。
メェルとミヤビを起こして、魔法に付き合ってもらう。俺一人だけでは分からないかもしれないし、全員が違う種族だ。種族が違ったらかからないなんて事が無いようにするために。
「まず…今の状態で確認をしてみる」
「今の状態とは、普段通りの状態の事でしょうか?それであれば…わたくしは分かっておりますよ?」
「うん、そうだね。でも、今回はちょっと魔法の種類が特殊でね?」
身体強化なんてのは、どれぐらい強化されているかによって体感できるかどうかが変わる。極端な話1.1倍が掛っても、体の調子がちょっといいかも?で終わってしまうんだ。だから、今から自分の体の調子を入念に調べておく必要がある。俺らは皆で走ったり、力比べをしたりして調査を重ねた。
「ここからだ、シュエリ?お願いしてもいいかな?」
「分かっているよ!さぁ、これで掛ったんじゃないかな?」
「おぉ…お?」
普段と変わらないような…変わったような?俺は少しだけ走ってみる。いつもと変わらない速度を出すために…は?なんじゃこりゃ?!少しだけ足に力を込めたはずなのに、いつもよりも体が軽く、動ける速度が段違いに早い。マジか…こんなの気づかない方がおかしくないか?
俺は無様にも転がって止まった。こんなに速度が出るなら…力なんてどうなるんだ?森の中で転がっている岩を見て、持ち上げて見る。岩は両手で抱えるサイズ程だが、俺が普段両手で持ち上げないと持ち上がらない物に変わりはない。それが、今は片手で持ち上げる事が出来ている。
「これ…気づかないの?」
「健一君は…こんな力を秘めていたのかい?!」
「違うよ、これ身体強化のおかげだ」
「健一さん!見てください、わたくしもこのような力を発揮できるなんて!素晴らしいですよ!」
ミヤビが嬉しそうにこっちに岩……?!じゃない、あれは山だ!何を抱えて走ってきてるんだ!!!やめろ?!そんなの転びでもしたら俺らは死ぬ!!!嬉しそうなミヤビを背に、俺らは必死に家の方に走っていく。永遠に追い続けて来るミヤビはまるで…ホラー映画に出て来る悪役の様だ。




