二話 国の背景と強い野望
目の前に置かれたのは、三千枚の一万円札。金額の方にも驚くのだが、見るからに日本で使用していた紙幣と同じ。異世界ではなく、ここは日本を模して造られた空間だとでもいうのだろうか?だが、外に並んで立っている家々はまるで日本の物とは別物なのだが。
これは…価値はそのままだろうか?日本の物と同等であるならば、一回の討伐によって大金持ちになってしまったという事だよな。王都だと、東京と同じ…物価なのか?だと、宿泊する場合なんかは高価になりかねないけど。
「申し遅れました、私はギルドマスターで、ハイロンと申します。所で…ここからが本題なのですが。」
「私は…オーキチです、一応話は聞きましょう。」
本名を明かすのは少しリスキーかもしれない。どんな事情があるかを丁寧に汲み取る必要がある。大体、こんな感じで接待される時ってのは碌な事にならない、と俺は前世で感じていた。実況を使ってスポーツに関与する事で、スポーツの公平性を欠くような提案を受けた事もしばしばある。所謂八百長を隠すための物だったり、評価を著しく下げたり。実況はそれだけ、大衆に受けていたという事でもあるのだが、いい気はしないし乗ろうとも思わなかった。
「この国が戦争を起こしている事はご存じですか?」
「……は?戦争を”起こしている”?」
日本に居た時もニュースでしか聞いたことないワードに言葉が詰まる。戦争なんて起こしてもいい事は起りはしない。無駄な血を流して、悲しみや怒りを煽り、相手の土地を踏み荒らす。”人間”がやっていい事ではない。それを起こした?
「はい、なので兵士が必要なのだとか。どうでしょうか?」
「どう、とは?」
「兵士になられてみては?他種族と戦えますよ?」
お国のために!を俺にやれ、と?出来る事なら関与したくない。まさか、この金額は支度金……なんてことはないよな?それは悪く考えすぎ、か?だけど、大蛇がこんなに簡単に殺せるならと思われているなら……。
何やら外が騒がしい事に気づく。してやられたか、と感じた。どたどたとこちらに複数の足音が近づいてくる。一人の兵士を集めるために複数人の兵士を派遣するのか。いや、国のために働く、と思わせるためには”脅し”を使ってくるとは到底考えられない。しかし、そんな想像は儚く散る。その証拠に、目の前のドアは激しく蹴破られる形で鋭い音を立てて開かれた。
「連絡で聞いた冒険者だな?」
複数人の重装備をした兵士が並び、先頭の兵士が俺に向かって横柄な態度で聞いてくる。見た所、六人程度の少数人数ではある。ただ、こちらが一人というのには変わりない。状況は不利、逃げる事は……不可能だろう。
「はい、きっとそうなのでしょうね。」
「国王様がお呼びだ、今すぐに支度をしろ」
「嫌だ、と言ったらどうしますか?」
「殴ってでも連れて行き、不敬罪で奴隷落ちだ!」
槍の切っ先をこちらに向けてくる。本当に不愉快な連中だ、俺は意志を持った人間な訳なのだが、それすらを操ることが出来ると思っている。これだから”人間”は嫌いなのだ。もし、他種族と会う事があれば…もしかしたら分かり合えるかもしれない、そんな事を考えてしまった。
支度をしろって言ったって…目の前の金を仕舞うだけか。さて…断ったら奴隷とまで言われているから、行くしかないんだけど……本当に気が乗らないな。というか、なんだ?貴族は特権階級みたいなこの感じは。人の上に人を置くんじゃないよ。
「早くしろ!」
「分かりましたよ、行きますから」
席を立ちあがり、ギルドマスターを睨みつける。ギルドマスターはニコニコしていた、これはグルなんだな。国がいい人材を集めるためにやっているのだろう、このギルドという事業を。そうして、兵士が俺の事を囲んで、ギルドを後にした。
「ところで、これ、何とかなりません?罪人みたいじゃないですか?」
「お前に拒否権はない」
囲まれて王城へ連れて行かれる様は、まるで犯罪者だ。ただ、住民はまるで気にしていない……というより、寧ろ何故か好意的な印象すら受ける。この様子を見て俺は”この国はどうかしている”と思う。戦争に駆り出される事を後押しするって事は、国自体が戦争を良い物として捉えているという事だから。
ガシャンガシャンと鳴り響く音が不意に止まる。目の前には、堀の上に橋がかけられていて、その先に一つの村のような物が出来ている。王城は大きく、どこかの国の写真で見たお城そのものだ。端を渡って、王城の周りには家が立ち並ぶ。明らかにその辺で見た民家とは違う物で、彫刻があったり、配色が鮮やかだったり、贅の限りを尽くしたような見た目の家々が並んでいる。
「ここはどういう所ですか?」
「なんだ?知らないのか?貴族様のお屋敷と王城だ」
貴族は明らかに住民と一線を引いているのか。うわぁ…ますます会いたくない。お偉いは皆偉そうなんだ、自分が敬語を使って話すのは良いけど、強制されて話すのは嫌なんだよな。そもそも、王か…王に対する話し方は……普通の敬語でいいか?この状況を抜ける事さえできれば…それでいい。