二話 森人達の拠り所
そうだ、家を作るのであれば家の形を決めなくてはならない。そもそも、環境に配慮した家とはどんな感じなのだろうか。環境に配慮というか、木を使わない事にはどうにもできない。
「木を使う事は可能ですか?」
「木を切るのは難しいかな…使うぐらいなら出来るかもしれないけど」
「切らなければ問題はないはずだ」
森人の男性も女性も同じ意見のようだ。木を切らなければ…?そこら辺に落ちているのは枝とかそういう物ばかりだろう?朽ちてしまった木なんかも使ってしまえば大惨事になりかねないし。あ、ちょっと待てよ?
俺はあたりを見回して考える。そうだ、この辺りの木は、通常の森に生えている物よりも遥かに大きな木だ。これの枝があれば…可能なのではないか?少しだけ、集会場から離れて森の中を歩く。すると、目の前に大きな木の幹ぐらいの枝が落ちているのを目にした。これならいけるか。ていうか…なんで死者が出ないの?
「何をお造りになられるのですか?」
「ん?これは…どうしようか?」
決めていなかった。木材を確保したのは良いとして、土台なんかを造ったりすれば…領主がなんと言ってくるか想像できそうだ。”森を汚しに来たのかの?””森から出て行くのじゃ”なんて言われかねない。土台を作れない、となると…元々生えているこの大木を使うしかないだろうな。
「この大木の外に階段を付けて上を居住スペースにするのは出来ますか?」
「それはいい!」
「やってみよう!」
皆やる気を出してくれたみたいだ。次々に枝が木材として加工されていく。加工技術があるのか?何故、加工技術があってそれを使わないんだ?あんなに大きな枝があると言うのに…。
気づけば、大木を囲って、作業を開始していた。女性と男性が手を取り合って加工していく様は見ていて気持ちがいい。そう、やらなきゃいけないとかは無い。出来る人がやればいいし、男性にしか出来ないとか、女性には出来ないとか存在しないんだ。皆で一緒にやれればいいんだよ。
「ここまで見事に組み立てることが出来るのですね」
「そうだね、これは…長年の加工技術がなせる業だろうね?」
「でも…皆…加工はしないって…言ってます…?」
メェルが作業を見ながら首を傾げている。そうなんだよ、そこが疑問なんだ。自然を大事にしたい気持ちは分かるけど、共生という形を取ることが大事だと思うんだ?今までの森人たちは、共生というより…共存に近いのかな?ただ、二つがそこにあるだけって感じだった。
「共に生きる事を選ぶのに、自分たちが害を受けてしまうのは…悲しいかな」
「難しい…です…」
「そうだね、利益を取り過ぎてもダメ、取らなさ過ぎてもダメ。でも、この問題を解決できるのは森人しか居ないよ?」
「そう…ですか…?」
そうなんだ、森人しかこの生き方をする事は出来ない。きっと、長い年月を共に過ごして来たんだ。どれだけ何かをすれば、どうなってしまうかが分かっているはずだ。だから、仕来りを作ったりしているんだろう。難しいように見えて、森人たちは自分たちの中に答えがあると思う。
「加工技術があるのも、自分たちの中に答えがあったからだろうね」
「そうなのでしょうか?わたくしには分かりません。」
「まぁ、森人では無いからね?」
「そういう物でしょうか?」
ミヤビは首を傾げて不思議そうにしていた。誰しもが自分の中に答えを持っている。それを自分で押し込んでしまう事で迷ってしまうんだよ。森人たちもそうなんだろうな。俺らが話している最中も、作業の手際が良くて、階段作りはかなり早く進んでいった。
「お!階段が完成してるね!」
「これが健一さんがイメージしていた物になりますか?」
「そうだね、こんな感じだったね」
真っすぐに伸びた一本の木。そこに螺旋状に階段が巻き付いている。階段は木の最上階、枝が分かれている部分まである。階段の一段一段は、行き交う人が多数いても大丈夫なように幅にゆとりを持たせてある。さて、ここからが肝心でここからがメインなんだけど…。
「えっと、木の上の枝と枝の間に家を建てて行きます!土台は、しっかり太い枝に丸く木をはめ込んだりしてください!」
森人の皆が”分かった!”と言って、それぞれ建材を持っていく。うん、いい感じに進んで行ってるな。あれだけ高い位置にあれば…魔物の侵入なんかも防げるだろう。人間がもし仮に、この領地に来て上に上がろうとすれば、一発で分かるし。
「よし…良い感じに進んで行ってるね」
「健一さん…もしかしたら、あまり良く思われていないかもしれないです」
「なんで?!」
「森人たちがそれぞれ不安を口走っている風に感じるのです」
ミヤビが不安に駆られて眉毛を下げて俺に訴えかけてくる。あぁ…不安か、変わるのが怖いんだろうな。今までの生活から変わるのが怖い、自分を変えていくのが怖い。これは良くある事ではある。ただ、これを乗り越える事で、自分を変える事は怖くないと認識してもらう必要があると思う。自分を変えると、世界すら変わって見えてくるのだから。




