(1)
「んな?!なんだこの失礼な人間は?」
「なんです?わたくしの主に無礼を働くおつもりですか?滅しますか?」
「待って?!物騒は良くない!」
「はい、健一さんがそう仰られるのであれば、そういたしましょう!」
ミヤビが構えていた手を下に収める。その様子を見て”ほう?人間に懐くとは…珍しいのぉ?”と爺さんは声を上げた。しかし、爺さん一人だけが出て来るなんて…?客人として歓迎されては無さそうだ。この人はなんだ?何のために出て来たんだ?うるさいから出て来たのか?
「ハヤテの遣いなのに、貴方一人で出迎えですか?」
「何を言っておる?竜人族の領主の娘だからこそ儂が出て来たんじゃろ?」
「……?」
「健一さん?この方が森人族の領主という事になっているらしいですよ?」
「な、なんだって?!」
こんなこってこての見た目の領主が存在するのか?耳はまぁ…置いておいて。肩まで掛かる白い長髪、顔のしわしわ具合、口元にある大きな黒子、縮んでしまったであろう身長、手に持たれた山菜のゼンマイのような木の杖をついてて…。
「そうじゃよ?儂が森人族領主のゼルエルじゃ」
「はぇ…そうなんだ?」
「なんじゃ?所でお主…そこの娘さん方の食料か何かなのかの?」
「なんだ?喧嘩か?買うぞ?こってこての見た目をした爺さんよ?」
「あなた…言ってくれますね?わたくしの健一さんを愚弄する事は大罪ですよ?それに…父の事を愚弄している事と何ら変わりありませんけど、覚悟の程はよろしいですか?」
ゼルエルがぎょっとした顔をして”先に言わないかい…そんなに目の敵にせんでもいいじゃろ?”と許しを請ってくる。まぁ、別に取って食おうとはしていないし大丈夫なんだけど。これから先は俺よりも、どうにかメェルとミヤビを押さえないと。メェルからも殺気を感じる。俺は別に慣れているし、そもそも気にしていないから。
「ちょっと待って?!国際問題に発展するから!」
「わたくし達なら大丈夫ですよ、健一さんの名誉にかけて…滅ぼして差し上げますので!」
「私も…協力します…!」
「待ってくれ…悪かったから、許してほしいのじゃ。」
ゼルエルはすっと頭を下げる。いや、脅しをしたい訳じゃないんだけど?!ゼルエルに頭を上げてくれ、と言うと目の前で胸を撫でおろしていた。待ってくれ…脅しから入る交渉って、もはや相手に飲ませるしかなくなるんだけど。どうした物かな…。
「わたくし達はあなた方の問題を解決するためにやって来たのです」
「ほぇ?そうなのかの?」
「えぇ、そうですね」
「じゃあ…儂から言える事は…この領地に問題は存在せん!帰ってもらえるかの?」
ゼルエルはニコニコしながら答えた。マジか…まぁ、当然の結果と言えば当然の結果だろうな。飲ませると言っても相手がテーブルに座っていればの話だから。ゼルエルは俺らに背を向けて、森の中に姿を消した。
「ねぇ…失敗したよ?」
「申し訳ございません、今すぐに滅して参ります!」
「待って!!!それがいけないんだ!すぐに力を振るう事は良くない事だ、いいね?」
「分かりました、しかしこの状況をどうすればいいでしょうか?」
全員隠れて出てこない、ミヤビの脅しで領主も消えて行った。さて、どうするかねぇ…。だけど、問題が無い事は無いはずだ。領主はああ言ってたけど、見回す限り、家が無い。それに、多分だけど、皆が警戒している訳ではなさそうだ。俺らが領主に対して対応を間違えただけで…。
「この周りに領主以外の森人は居るかな?」
「はい!結構な数確認出来ますけど…どうされるおつもりですか?」
「そうだね…まずは周りから固めて行こうか?」
「周りから…と言いますと?」
具体的には、周りの森人から直接悩みを聞く所から始めよう。いつもしてきたことだ。領主自身が困っていなくても、領民からは不満が漏れ出る事もある。それを聞いて行こうか。ミヤビが手を叩いて”なるほど、それは妙案でございます!流石健一さんですね!”とよいしょしてくれる。誰でも思いつく方法だよ。
「で、どこに声を掛ければ出てきてくれるんだろうか?」
領主が消えて行った方向以外の所に目を向ける。俺には気配なんかは分からないし、見回してもなんの変哲もない森にしか見えない。ここに…隠れているんだよな?隠れるのが上手いんだな…。耳が長い種族と聞くと、全員が美男美女みたいなイメージだった。領主がお爺さんだった、というのを見たからそんなイメージは捨てたけど。
「二人とも…声の方向とか分かるかな?どこにいるかな?」
「心の声は聞こえるのですが…何処に居るかまではわたくしには分かりません、お役に立てず申し訳ございません。」
ミヤビが頭を下げた後、俯いている。心の声が聞こえるって事は居るのは分かるんだ。それだけでお手柄だよ。心の中で慰めると、それはミヤビには伝わっている。ミヤビの顔がぱっと明るくなって”ありがとうございます!”と元気になった。
「私が…分かります…!」
「本当に?!どこに居るかな?」
「こっち…です…!」
メェルが案内してくれる。全く道が無い森の中を抜けて行くと、小さな集会場がもう一つあった。そこには、耳の長い、若い森人族がたくさん集まっていた。数百人は下らない程だ。なんでわざわざ分かれているんだろう?




