七話 成長の瞬間
外に出ると、すっかり日が暮れていて、夜になった街を見る。明りが灯っていて、とても神秘的な感じがする。俺はメェルを連れて隣の家まで歩いて行く。領主は家の前で仁王立ちしていて”健一よ、よくぞ来た!”とどこぞの王様みたいな歓迎をしてくれた。俺は別に勇者でもなんでもないけど、家にお邪魔することにした。
「あれ、二人は寝ちゃった?」
「そうだ、そろそろだからな?」
「そろそろ?何が?」
「はは、良いではないか!さぁ、座るがいい!」
俺は首を傾げながら、昨日と同じ席に座ると、メェルは俺の隣にぴったりくっ付いて座った。すごい恥ずかしいけど、なんだか心地良い。目の前には、たくさんのごちそうが用意されている。ただ、この世界では見慣れない食べ物だ。そう、日本で振舞われていた料理が並んでいる。
「まじか?!すげぇ…」
「であろう?」
「こんなのどこから仕入れて来たんだ?!」
「我ぐらいになれば、どうにでもなるのだ!」
ハヤテは豪快に笑っているが、それだけでは済まないぐらいの品物だ。生ハムにチーズはもちろん。卵焼きや焼き魚、ナッツ類。ソーセージや唐揚げ。つまみになるような物がたくさん並んでいるが、感動する。もう二度と味わえないかもしれない、と思っていた物だったから。
「じゃあ…いただきます」
「さぁ、グイっと行くんだぞ?」
まずは…卵焼き。卵焼きはふんわりした仕上がりなのに、薄焼き卵の層があるから弾力を兼ね備えている。中にはチーズが入っていて、とろっと中からにじみ出てくる。それを、赤ワインで流し込む。赤ワインの芳醇な香りが卵の塩気を攫って行く。はぁ…至福の時だ。
次に唐揚げ。唐揚げは衣がサクッとしていて、まるで竜田揚げのような雰囲気。中からはジュワっと肉汁が出て来る、それと同時に鼻を刺激するのは鶏肉の香りとうま味。独特の弾力と歯ごたえ、それに岩塩だろうか?塩のうま味が利いている。
「うわぁ…完全再現だ。」
「がはは!であろう?」
「こんなに…美味しいもの…食べた事…ないです…!!」
メェルも俺もどんどん平らげていく。やばい、これは…いくらでも食べることが出来てしまう。ハヤテも一緒に”うまい?!なんだこれは?!”とか言いながら食べている。味見はしなかったのね。それでも、こんなに美味しい物を作れるなんて、とんでもない才能だ。
「そういえば、人間の姿になるのはどんな理由があるの?」
「うむ、そうだな?ただこの姿なら小さいところにも入れる、というメリットがあるぐらいだな?」
「へぇ、そうなんだ?」
「この姿になるためには…そうだな。この話は魔王から聞くのがよかろう」
「何か深い事情があるんだ?」
「そうだ、色々あるのだ」
気兼ねなく話をしながらワインを飲む。メェルは…ただただ、食べ物を食べる。何かないかな?メェルにも飲める美味しいお酒…ではないけど、ジュース的な何か。
「む?それならこれが良かろう?」
ハヤテは異空間の中から、もう一つの樽を持ち出してくる。その樽は、ワインよりも一回りぐらい小さい物だ。ワインではないにしても、この熟成方法は酒でしかないだろうに。
「それ、酒でしょ?」
「お主なら知っておるだろう?ぶどうジュースだ」
「あぁ!そういう事か!」
元の世界でも結構有名な物があったはず。日本でも、ワイナリーがぶどうジュースを作っているのは珍しくない。ワイン用の品種をぶどうジュースに加工したりする事もある。そういうぶどうジュースは…贅沢な美味しさがある。
「飲んでみる?」
「いい…ですか…?」
ハヤテがもう一つのワイングラスを用意して、ジュースをグラスに注ぐ。綺麗な赤色をしていて、俺らが飲んでいるワインと同じ色だ。メェルはそのまま口に含んで”美味しい”と言った。
「ありがとう、ハヤテ」
「何、良いのだ!友の仲間なら友であろう?」
「あはは、そうだね」
皆で笑いあって各々飲み物を飲んだ。そろそろ…次の領地に行かなければならないだろうな。領主の印は貰えるだろうから。ただ…この領地を離れたくはないなぁ…。
領主の家からの眺望はまさに絶景。完成した街は、薄ら明るく、各々の家に明りが灯る。畑に水を入れるための川がゆらゆらと揺蕩う明りを演出している。ここの領地て、マジで子守と酒の記憶しかない。
「良いであろう?戦争なんかに巻き込まれずに済んだのだ」
「そうだね、それが一番いいんだ。」
「そうです…戦争なんて…したくない…です…」
「しかし、人間の領地まで連れ去られなくて本当に良かった。」
幼竜がもし仮に、連れ去られていたとしたら。ここで俺の旅は終わっていたかもしれないし、戦争を仕掛けなくてはいけなかったかもしれない。優位に進むとは限らないし…寧ろ不利だっただろうな。本当に、幼竜が無事で良かった。
「そうだな…時に、英次は良き男であったな?」
「はは、そうだね。あいつが居てくれたから今の俺がある。」
だから、今度は俺が借りを返す番。実況で楽しませてやる、どこに居ても届くような、俺も好きな実況で。それと…この青年の体を借りている以上、この青年の願いも一緒にね。




