(1)
「俺だって人間に腸が煮えくり返る思いをさせられてるんだからな?」
「そうか、お主もそのように…」
「というわけで落ち着いて話をしましょうか?」
「うむ、お主の言う通りだな」
とは言っても…だ。こんなに大きな竜人の子供を連れ去るとか…無理じゃないか?どうやって連れ去るんだ?怒れる竜人なんて、災いその物だぞ?何か…隷属をさせて連れ去るとかか?それなら、親を隷属化させた方がいい、か。
「普通に連れて行くぞ?」
「え?目の前からですか?」
「そうだ、だから何も出来ず……このようになるのだ!」
領主の顔が怒りで”クワッ”としている。今にも噛みついて、世界を壊そうとしているような、悪いドラゴンのお手本のような恐ろしい顔。しかし、この竜人がただ恐ろしいだけじゃない事は、俺にだって分かる。メェルは親が攫われたが、竜人は子供を攫われているのだ。しかも…為すすべなく、自分の目の前で。…待てよ?何で目の前で?
「いや、待ってください?何故、抵抗しないんですか?」
「それは子供を一緒に巻き込んでしまうからであろう?」
「あぁ…それほどまでに。」
「我々は強いのだ」
自分強い語りを領主が始めてしまったので、頷いて話を聞くことにした。竜人は皆、火を噴いたり、毒を使ったり、爪や牙を使ったり、硬いウロコに覆われていて、致命傷を与えられることは殆ど無い。更には、魔法を使う上位個体まで存在している。隙が無いように聞こえるが、弱点は存在していた。それが、子供だ。
自分の子供が可愛くない、なんてのは殆どの親が思わない事。どんな親にとっても自分の子は可愛い。竜人の生まれたばかりの子供は、ある程度の攻撃は防ぐことが出来ても、親からの攻撃は防げない。だから、そのまま連れ去る事が出来る。何故なら、親は反撃する術を持たないから。もし仮に、自分の子供を殺してしまえば…どんな事になるか分かるだろう。
本当に…厄介な事ばかりしてくれるもんだ。きっと、隷属して戦争の道具にするなり、貴族の愛玩動物的な立ち位置に置かれたりするのだろうな。その種族を保護するためにやっているのではなくて、自分たちのステータス保持や醜い欲のために行っている、と。反吐が出る。
「そこまで可愛いのですかね?」
「あぁ、可愛いぞ。見せてやれば分かるか?」
領主が手招きをすると、俺の前に小さな妖精のようなミニチュアドラゴンが姿を現した。ミニチュアと言っても、少し大きい。俺の腕にすっぽり収まるが、はみ出るぐらいの大きさだ。あぁ…確かに。これは攫いたくなるかもしれないな。
「渡さん!!!」
領主は俺から離れるように、赤子に指示を出す。すると、スッと俺の傍から離れて姿を消してしまった。あぁ、俺が邪な事を考えたばかりに…もう少しだけ触りたかった気がするな。そんな事を考えていたら、今度はふわふわな何かが俺の腕の中にすっぽり収まってくる。メェルが俺の中に納まっていた。
「あはは、ドラゴンになったの?」
「がお~…そうです…」
「うむ、なるほど?仲が良いのだな?」
「えぇ、奴隷じゃなくて仲間ですからね」
自信満々に答えると、メェルは恥ずかしそうに俺から離れた。さて、まず始めなければいけない事は…何処に連れ去られたか、と何に連れ去られたか、という事だ。実際に見ていないから人間で確定、とは言えない。それに、定期的に連れ去られるのであれば、この領地内に誰かが巣くっている事になる。いやぁ…流石にこの領地の中から探すのは無理かもなぁ…。
「なるほど、連れ去られた時の記憶なのだが、元竜人の街辺りで臭い人間が我らの幼子を良く攫って行ったぞ?」
大事な事は先に言ってくれ!あぁ、だからずっと、人間を許せない、と言っていたのか。俺が馬鹿だったのかもしれない。というか…臭い?
「臭い?!もしかして…俺らも臭い?」
「いや、お主らはそこまでではないな?」
そこまでではないって…奴らとまでは行かなくとも、臭いって言ってるじゃないか。言い返してやりたいのに…なんでこんなに清潔で臭くない洞穴に住んでいるんだ?というか、竜人自体も無臭だし。人間って…思ってるより臭いのかな。
「そんなに気にするでない、うむ…そうだな。身なりはみすぼらしい感じで、何故か全員腕を出しておる」
領主は大きな指を顎に当てる。う~ん…聞いていて、イメージ出来るのは盗賊か。しかも、タダの盗賊ではないかもしれない。ここら辺に巣くっているって事は、他種族の内部の連携を邪魔する事も出来る。なら、指示を出しているのはコルトランドだろうな。
「お主は意外と聡明なのだな?」
「意外、以外は有難く受け取りますね?」
「くふふ…また…言いました…」
緊張と恐怖を感じていたメェルが俺のくだらないダジャレに笑った。そんなに面白くないだろうに…緊張で疲れちゃったんだろうな…早くこの場を離れて、探しに行ってもいいかもしれないな。
「お主…本当に失礼な奴でもあるな?我らを愛玩動物扱いしたり、怖がらせる道具みたいな扱いしたり?」
「ははは!生きている者は皆平等なんですよ、誰が偉いとか存在しないですから」
「そうか、別に我は良いのだが。」
「それに皆さんを信頼しているし、尊敬しているからこその口の利き方と思っていただければ。」
イトベリアの民は皆、この程度では怒らないだろうし。それに、皆が理性的で力を誇示する感じでもない。まだ二つ目の領地だけど、初めて、好きになれた国だ…イトベリアは。




