二話 神域になりうる場所
無言で三兄弟に着いて歩いて数分経った。着いて行く事に慣れて来たが、ここらで聞きたい事を聞いておきたい、何が起きたかという事を。
「あの、竜人の街はあの辺りと地図には書いてありましたけど…」
「人間の所為……と言っておこう。」
「大兄者!俺は許せないっす!!」
「私もそうだ、しかし、今ここで我々から聞くよりも、ハヤテ様から聞いた方がいいだろう」
竜人族の領主はハヤテと言うのか。着物、喋り方から連想するに…漢字で”颯”と書くかもしれない。疾風の竜人族…かっこいいな。
目の前の景色が、禿げた山から、森の中の山になる。どんどん、緑が生い茂った、空気が澄んだ場所の奥深くに入る。突然、何か、体が警告音を鳴らすかのように震えてくる。入ってはいけない場所に足を踏み入れてしまった、そんな感じだ。どんどん背筋がぞわぞわしてくる。
「な…なんです…?ここは」
「ここが”今は”ハヤテ様の空間だ」
タタは何事も無いかのように歩き続ける。メェルと俺は必死に耐えながら着いて行く。しばらく歩き続けると、大きな丘のような場所に出る。そこには、大きく口を開けたドラゴンのような洞窟があった。こんな所に住まなければいけないなんて…きっとストレスが溜まるのだろう。
三兄弟は洞窟に入り歩き続ける。タタに”掴まりなさい”と言われて、肩を掴む。真っ暗で何も見えやしない。大きいはずの洞窟なのに、閉塞感を感じる。しばらく何も見えずに、歩き続けていると、ふと明りが急に差し込んでくる。そこには、広場のような場所があって、ドラゴンが数多く、それこそ、ちらっと確認しただけで数十の群れを成していた。
「な?!お主ら!!何故人間を連れて来た!!」
今にも噛みついて来そうな緑色の大きなドラゴンが、俺の目の前で圧をかけて吠える。タタは俺の間に割って入ると”お客人だ、ハヤテ様は居るか?”と聞いた。ドラゴンは納得したのか、座り込んだ。ドラゴンをここまで怒らせることが出来る人間。一つだけ思い浮かんだのは”隷属”だ。
手前で寝ているドラゴンたちは、一区画ずつ割り当てられている。奥に進めば進むほど、大きな区画になっていく。すると、目の前にひと際大きく、天窓から光が差している場所が見えた。周りはどこからか流れている川で覆われている。そこだけ神域のようだ。そこで白と黒が綺麗に半分半分になったドラゴンが佇んでいた。今までのドラゴンが三メートルから五メートルだとすれば…5倍ぐらいは大きい。尖った牙を持っていて、立派な翼を携えている。白と黒のオッドアイはこちらをじっと見つめて離さない。
「静かにしろ!!!タタ、ツツ、トト。お前らが連れて来た客人はその人間と獣人であるか?」
「ええ、その通りです」
後ろでがやがやしていたドラゴンが静まり返り、三兄弟は綺麗に跪く。俺とメェルもそれに倣って跪いた。ドラゴンの領主は魔王みたいな感じなんだな。それにしても…なんて綺麗なドラゴンなんだ。なんていうんだろう、星空を初めて見た時みたいな感動を覚える。
「そうか、嬉しい事を言ってくれるな?だが、それとこれとは別だぁぁぁぁ!!!」
「なんです?!急に…」
これだけ怒りを露わにするなんて…理性的で冷静な感じがするのに。どんないたずらをされ……?ちょっと待て、俺が心の中で思った事を…読んだ?もしかして、竜人族って皆、俺の心の中が読めるの…?はったりとか通じない感じ?
「ほう?我を騙そうとしているのか?」
「あはは、まさか。最終手段を持つ事は大事な事ではないですか?」
「うむ、言われればそうかもしれぬな?」
「所で…何をお怒りになられているのですか?」
「まずはそこから話すべきであろうな?」
きっと俺らの事情なんて一瞬で察知しただろう。竜人三兄弟と出会ったときの話なども”視えている”に違いない。という事は、俺は話を聞いて、何が問題かを判断することが大事か。
領主の子供が行方不明である事をまず初めに聞いた。外で遊ぶことが何より大好きだった領主の子供が、外に出て一週間も帰ってきていないと言う。今までは一日遊べば帰ってきていたという。それとは別に、ここ最近、特に十年前程から竜人族の子供が攫われる被害が相次いて起こっていた。それに巻き込まれたかもしれない。
子供が攫われることの何が問題か。竜人族はほぼ無限と言っていいほどの寿命を持つ。生まれてから一年で生竜、十年で幼竜、百年で新竜、数千年で中竜、数万年で古竜となるらしい。子供によって個体差はある。そしてここからが大事な事だが、新竜になるまでの間は極めて弱く、気を付けて子育てをする事になる、という事だ。それと、子供を作る事をあまりしない、何故なら寿命がほぼ無限と言っていいほどあるから、薄れてしまうと言う事だ。
「あぁ、分かりました。こんな騒動を起こすのはきっと…」
「であろ?人間だ!!!故に我は人間を許せんのだぁぁぁぁ!!」
領主が叫ぶことによって、洞窟に反響した声が鼓膜を揺らして、脳を攻撃してくる。俺は咄嗟にメェルの耳を塞ぐ、これは音から保護するために取った手段だ。俺の耳はまだ…なんとか耐えることが出来ているが、これは攻撃と言ってもいいか?いいよな?俺も仕返ししたろか?!
「落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「んな?!す、すまなかったな…」
メェルを見て見ろ?!涙目で俺の後ろから動かなくなってしまったではないか!ただでさえ、ここまで来るのにブルブル震えていたんだぞ?!俺の仲間になんて事を…そろそろ流石の俺も怒るぞ?
「わはははは!我に対して”怒る”とは…面白い!!」




