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「仲睦まじいのは良い事だ!」
がはは!と領主は豪快に笑い飛ばす。俺は慌てて手を離した、何故かって?恥ずかしいじゃん…女の子と手を握り合っている、なんて状況はさぁ…。何か話題を変えなくては、恥ずかしくてしょうがない!話題…話題…。そうだ、聞きづらいけど聞いてしまおうか。
「奴隷についてなんですけど、あれは逃げることが出来ない物なのですか?」
領主の顔から笑顔が引いた。聞いてはいけない事なのかもしれないが、知っておかなければならない気がする。今後、もし仮に、このような事態が起こった時。切り札として出され、対処できない可能性がある。どうなってしまうかを聞いておかなければならないから。
「あぁ、あれはスキルだ、と言われている」
「あれが、スキル…ですか?」
「そうだ、隷属化というスキルで隷属という状態だそうだ」
領主が遠くを見つめている。そこまで深刻なのか。という事は…対処が出来ない、もしくは頑張っているという所だろうか。領主はぽつぽつと知っている事を教えてくれた。
隷属という状態になると、言う事を聞くしかない状態になる。意思は存在せず、抵抗できぬままに操られてしまうと言う恐ろしいスキル。対処法は一つだけ、あるにはある。スキルの使用者を殺すだけ。それが難しい、隷属されてしまえば逆らう事が出来なくなってしまうから。
しかし、最近になって妙な物が発見される。それが、俺らが戦場で見たペンダントだ。あれには、隷属化スキルのコピーが施されていて、一度使えば砕け散るが、隷属化のスキルを使用できるらしい。そこまで数多く出回っている物ではないが、用心しておくに越したことは無い、と。
「そうですか…」
話を聞き終えて”ふぅ…”と息を吐く。聞きたくて聞いた話ではあるが…胸糞悪い話に変わりはない。いや、もし。もしだ、隷属化というのが人間に効かないスキルなのだとしたら。俺は無敵という事にならないだろうか?これから、人間の仲間を増やしたりする予定は無いけれど、俺に対して効果が無いとすれば。
「人間の隷属化について聞いたことは?」
「人間の隷属化…それは聞いたことが無いね?」
どうも引っかかる。領主がどうこうでは無くて、指揮官が去り際に残した言葉。お前を手に入れれば、という言葉。俺は確かに被り物をしていたのは認める。ただ、あれに騙される程馬鹿ではない……はず。俺の考えすぎであればそれでいい、この問題は頭にとどめておくことにするか。
さて、そろそろお暇させてもらおうか。宿に帰る必要があるし…それに今日はもう疲れて何もする気が起きない。いやぁ…しかし。風呂に入りたい、ここ数日風呂に入ってない。とは言っても…魔法が使える訳でもないからなぁ…。
「じゃあ、そろそろ帰ります」
「待ちたまえ!今日はここに泊って行くといい」
「えぇ?!いいんですか?」
「あぁ、寧ろ英雄をそのまま帰す訳にも行かないだろう?」
英雄という言葉は気恥ずかしいな。さて…どうしたものか…。俺の考えとは裏腹に腹が”ぐぅ~”と音を立てる。いつも同じ音がしているし、いつも変なタイミングで音が鳴る。俺の腹には意志があるみたいだ。
「はは、食事なんかも用意しよう」
「え、そ、そうですか?」
食事は怖い!!この領地の食事とか怖すぎる!だって最近まで腐った肉を食べてた訳で…領主も虎だから別に胃腸が弱い訳でもなくて…。うわぁ、どうしよう。
「酒も好きであれば、仕入れた物がある」
「もちろん、お願いします!!」
「お酒…嫌です…」
「メェル、酒はうまいぞ?」
「ははは!私以外の獣人にはちときついのかもしれないな!では用意させよう」
領主は手を叩く。肉球があるはずなのに、どうやって音が鳴っているんだ?と、思っていたら羊の執事が入ってくる。ダジャレだ、凄い!黒のスーツを着て、背筋を伸ばした羊の獣人が料理と酒を運んでくる。酒は瓶に入っていて、見た感じはビールみたいだ。
「おぉ、ビールですか?」
「そうだな、ビールだ」
目の前に並べられる料理を見ると、しっかり調理されていて、非常に美味しそうだ。匂いも…良い!!はっきり言って満点以上だ。ステーキの香ばしい香り、ブラックペッパーと焦がされたバターの香ばしくも甘さを纏う香りがふわっと漂う。これにビールは夢のような組み合わせだ。
「これは良い、しかし、この食事を全員が食べられるようにしたかったですね」
「その件だが、売り物に関しては仕方ない事だったのだ。」
「あぁ…家庭では腐った物は食べないのですね?」
「そうだな、狩に行ったら、ギルドがその時に売りに出す仕組みになっているからな」
話が一回終わり、俺は目の前のステーキに”いただきます”と言いかぶりつく。肉の歯切れの良さ、程よく乗った脂。ブラックペッパーの辛味と油の甘味がマッチして非常に美味しい。香ばしいバターは、より一層、肉そのものの美味しさを際立たせてくれている。そして、口の中で調和のとれた状態でビールを流し込む。喉を鳴らして胃袋へと…。
「くはぁ…!!!美味しい!!」
「喜んでもらえたのなら良かったよ」
「メェルはどう?」
「はい…美味しい…です…!」
小さな口でちょっとずつ食べている、まるで小動物みたいに。少しばかり、親の気分が分かったような気がした。




