(1)
馬車に揺られて、数分、馬車は緩やかに停車する。外を見ると領主の屋敷に到着していた。屋敷で奴隷にされていた獣人を全員保護したのか。馬車を降りて、屋敷を見つめる。確かに、庭ですら家が数件入る程大きく、屋敷も比例して大きい。見事な石造りをしていて、装飾などは無いが、シンプルで綺麗だ。
「さぁ、こちらに来なさい」
領主に招かれて、移動する。中に入ると、白い絨毯が敷かれたエントランスが目の前に現れる。本当に白が好きなんだな。エントランスを抜けて、横に広い廊下に出る。廊下にはいくつもの扉があって、それは全部部屋らしい。
「ここが羊の獣人の部屋だね」
「メェル?」
「はい…ありがとうございます…入ります…」
「何か…怯える要素があるの?」
「いえ…領主様が目の前に居るので…緊張しています…。」
そっちかい!!ずっと怯えているのかと思ってたじゃないか!!緊張していたのか…しかも親と会えるからじゃなくて、領主の前だから、と。はは、なんだかメェルらしいと言えばメェルらしいな。俺はメェルに目配せをして、扉に手をかける。二回ノックをして、部屋の中に入った。
部屋の中には羊の獣人が…一人、羊の獣人が…二人……zzz…。じゃなくて!!羊の獣人だけでこんなに居るのか?じゃあ、あの時救えて本当に良かった。羊の獣人達は俺らを見ると”ありがとうございます”と頭を下げた。全員羊の顔をしていて、非常に可愛らしい。
「あぁ…違いました…」
「そっか、また探せばいいよ。きっとどこかに居るはずだからね」
そう言ってメェルの頭を撫でまわす。メェルは小声で”はい…”と返事をした。すると、領主が咳払いをして”場所を変えようか”と言い、案内をしてくれる。部屋を出て、廊下を右手に歩く。すると、突き当りに一つ、ポツンと部屋がある。領主はそこに俺らを招きいれた。
少しばかり豪華に飾られた部屋には、三人程が腰かけられる椅子が二組、机を挟んで設置してあった。領主は”どちらでも好きな方に腰かけてくれ”と言った。とりあえず、左手に見える方に腰を下ろした。
「応接室だ、ゆっくりしていってくれ。」
「どこかに行くんですか?」
「ああ、少し準備があるんだが…君たちになら話せるか。君たちの事だしな。」
納得したのか、領主は対面に座り込む。俺らは二人して首を傾げていたが、その様子を見て笑っていた。ひとしきり笑ったのか、今度は真面目な顔をして話を始めた。
俺らがした事は重大な問題でもあると同時に領地を守ってくれた英雄でもあると言う事実だ。重大な問題は気にしなくても良い事だ、と言って話はしてくれなかった。これに伴って、褒賞を出すという事だった。領主の印とは別に授与されるものであり、ここまで大きな貢献をしてくれた者に対して出せる物が極めて少ないらしい。領地の中の土地を少しばかり渡すと言われた。
「土地は要らないので、領主の印だけください」
「な?!いいのか?それだけで?」
「だって土地を貰いに来たわけではないですよ?それに、目的は先ほど伝えたじゃないですか?」
「あぁ…分かってはいるのだが…」
領主は頭を抱えて”いや、しかし…”とか呟いている。俺がこの領地のためにしたい事をしただけだったし、領主の印を貰おうとして行動した結果だ。報酬は領主の印さえ貰えれば十分だと感じる。
「この領地を守れた事が最大の報酬ですね」
「クサい事…言ってます…!」
「んな?!どこでそんな言葉を覚えて来たんだ?!」
「元々…知ってます…!」
「あはは、そうか、ありがとう。」
領主が頭を下げてお礼を伝えてくれる。本当に…領民が戦争で犠牲になる事が無くて良かった。その後すぐに”ふむ…”と言って俺らをじっと見つめる領主。さては、メェルが俺の奴隷だと思っているな?
「所で、健一君はメェル君の事をすごく年下だと思っているかい?」
「え…?それはそうですけど…なんでですか?」
「メェル君は健一君と同い年ぐらいだよ?」
「……は?!」
驚きのあまり、隣のメェルを見る。メェルは既に俺を見つめていて頷いている。まさか…俺と同い年?三十ぐらいって事か?あ、違うわ!この世界の年齢であれば、十五歳か。なるほど、俺と同い年…ねぇ。こんなに小さいのに?
「メェル君も旅に同行させるのかい?」
「え?旅なんて言いましたか?」
「言ってはいないが…旅になるだろう?魔王様に会うのだから」
あぁ、そっか。少し考えれば分かる事だった。俺があまりに脳死で会話していた…というか、きっと疲れているんだろう。今日一日で普段使わない感情を山ほど使った。恐怖、怒り、悲しみ…。特に、同族を斬った時の虚無感がすごかった。メェルが居てくれなければ俺は…あそこで死んでいただろうな。
「英雄が街に残ってくれればいいのだが…」
「メェルは…どうしたい?」
俺がメェルに聞くと、メェルはなんとも言えない表情をしている。ここに残ると言う選択をする事だって出来る。もちろん、俺としては一緒に来てくれたら嬉しい。だって、もう仲間なんだから。でも、ここはメェルの故郷だ、無理に連れて行こうとは思わない。
「なんで…そんな事…聞くんですか…?」
「え…?」
「あの時の話は嘘だったんですか?」
「あ…。」
「行きます、一緒に。」
手を力いっぱい握られる。あぁ…狡いじゃないか。自分の中にある強さを見せる時だけ口調が変わるなんて…。そうだよ、俺も思っていたよ。




