(2)
人間……街……嫌だ……。けど、仕方ない…。この世界の人間は俺の事を知らないし、大丈夫…大丈夫。何とかなるって、記憶を見た感じは文明が進んでいる訳でもなさそうだし。森の中、記憶を頼りに進んでいく。でこぼこの地面に、大量の木の根が張っていて、歩きづらいし、目印もない。それなのに歩けている。
「本当に…どうしたものかね。」
俺はどうするか悩んでいる。この体の元の持ち主がやりたかった事…それは平和をもたらす事だった。だけど、俺にはそんな大それたことは出来ないと思う。そもそも、この体の青年みたいに”強く”はないから。自分の事で頭が一杯の人間が大それた目標を掲げていいわけがない。
二、三十分程考え事をしながら歩いていたら、整備された街道に出る。石畳で周りの草木は刈り取られていて、綺麗な道。どっちに向かえば良いかは、記憶を頼りにしなくてもすぐに分かった。遠くに、西洋でよく見る、いわゆる大きなお城が見えたから。
「どうする?こういうのの定番って分からないんだけど…?」
もう少ししたら城壁に差し掛かる辺りで困惑する。俺は実況者をやりたい。実況者がやりたいのに、狩をして生計を立てなければならない。しかし、食い物に困らなければなんとか……いやしかし!ずっと野宿という訳にも行かない…。困ったな…小説とか読んでおけば良かったか。
色々な知識を入れておく事が重要なのは理解していたんだけど、小説を全て読むだけの時間は無かった。一応これでも、色々な所へ引っ張りだこな実況者だったから。流行っているのは知ってるんだけど…なんか、ないかな?そんな事を考えていたら城門と門番が見えて来た。
色々考えてて気づかなかったが、相当立派な建物だった。城壁だけで、数十メートルぐらいはある。城門も頑丈そうな鉄扉だ。もし仮に何かが攻めてきても守ることが出来るだろう、というぐらいの代物だと思う。近づいて行って素通りしようとすると、腕を捕まれた。
「おいおい!素通りするな?」
「はい?何か?」
「ここを通るのには通行証か身分証が必要だろう?」
門番は手を左右に広げて溜息を吐く。そんな常識だろ?みたいに言われましても。こちらは先ほど上陸したばかりなんだが?上陸って言うのか?前世を離陸してるから…着陸でいいか。で、ええと…?身分証なんて持ってたか?ちょっとさっきのカバンから引き出してみるか……って?!手になんか四角いカードを持ってるじゃないか?!
「これでいいですか?」
冷静に…平静に…。自分のカバンから出て来たのに、驚いていたら怪しまれてしまうかもしれない。今だってほら…門番の顔が曇って……?なんだ?!なんで土下座しているんだ?!このカードってそんなに……ああ、そうか。この世界では一応、貴族ではあったのか。
「失礼いたしました!どうか…殺すのだけは勘弁を…」
「そんな事しないけど?!」
「へ?」
「えぇ?」
この世界の人ってすぐに人殺すの?本当に…人間に会いたくない。何かこう…嫌な予感がするんだよなぁ。悪寒というか、身震いというか…。だけど金は必要じゃないか?このかばんから金は出てこないんだ…。所持金はゼロという事は分かったから。
城門から中に入ると、そこには様々な形の家が立ち並んでいて、王城まで一直線に道が敷かれている。ただ、様々な種族が居るって聞いた割には、行きかうのは皆、人間のみ。もっと様々な種類の種族が居ると思っていた。そんな感想を抱きつつ、物を売れそうな店を探す。
「しかしなぁ…文字が読めない。」
どんな言語なのか分からない。文字を見比べて立ち往生をする。看板が所せましと並んでいるが、文字しか書いてない店がほとんど。これじゃあ、どれがどれだか分からない。様々な場所から聞こえてくる言語は日本語として認識できるのだが…。
「困ったもんだな……。」
ふらふらと歩いていると、何やらビールのようなマークを見つける。もしかして酒なのではないか?!ここでも酒が飲めるのか…?俺は飲んでもいいのか?いや……しかし……!とか言いつつ、ふらふらと導かれて店の門をくぐってしまった。
「ほう…これが。」
中は広く吹き抜けになっていて、一階部分は机と椅子が所せましと並んでいる。手前にある階段は、吹き抜けのさらに奥にある二階に繋がっていて、もう一つのバーカウンターが見える。凝った造りをしていてなかなか面白い店のようだ。一階の奥に見えるカウンターで注文をしようとカウンター奥に居るお姉さんに声を掛ける。
「すいません」
「はい!ギルドへようこそ!」
「ぎ、ギルド?!」
ギルドってなんだ?居酒屋とかじゃなくて、ギルド?言葉の意味的には…同業者の集まりみたいな感じだったか?という事は…ここはもしかして何かの集まり?
「ここは酒屋ではなくて?」
「お酒の方も提供できますよ?ここはハンターの受付となります!」
お酒の方も?メインはハンターの受付だったのね。じゃあ、当たりではあるか。