七話 怒りの矛先
遠くからでも様子が丸わかりだ、明らかに指揮官は焦っている。俺ら二人だけでも、想定外なのに、まさか領民まで参戦してくるなんて思っても見なかったのだろう。戦況はあっけなくひっくり返り、終戦も間近に迫って来る。あちこちで怒声が聞こえてきて、もはやどちらが攻めているか分かった物ではない。
今思った事は、俺ら二人だけで背負う必要が無かったかもしれない、という事だ。俺らは二人だけの所為にして、領民に迷惑が掛からないように仕向けたかったが、今考えればありえない。そもそも、攻め入った兵士が帰還できなければ、ドン・タイガー領の所為という事になってしまうのだから。
「最初から頼みたかったなぁ…」
「本当に…そうですね…。」
メェルはいつもの口調に戻ってしまったけど、内側に秘めた物を感じることが出来たいい機会だったのかもしれない。今はメェルと、話をする余裕さえある。もはや兵士がこちらに攻め込んでこれる余地が無いのだから。
奥の方で”退避!”という声が聞こえる。明らかにコルトランドの軍勢の声ではない。というか、分かる、獣人の物だ。なんだ?もしかして獣人を戦わせてきたか?!それはまずい、行かなければ!
「メェル!行くよ!」
「分かり…ました…!」
メェルと二人で、ガラガラになった戦場を走り抜ける。こちらに走ってくる獣人は皆、同様に怯えた顔をしている。
なんだ?仲間たちと戦う事になったのなら、こんな顔はしない。まさか…違う切り札を切ってきたという事か?いや、明らかに雑兵しか連れていなかったはずだ。それなのに、湧いてくるはずがない。
「はぁ…はぁ…」
「どう…でしょうか…?」
息を切らせて走ったから、下を向いて息を整える。顔を上げれば、三人の兵士が待ち構えていた。雑兵と同じ鎧を着ている。ただ、佇まいからすれば、只者ではない事を見受けられる。もしかすれば…スキル持ちなのかもしれない。
「まさか…お前ら?」
鎧を着た三人の兵士は赤、青、黄のスカーフを腕に巻いている。気づかなかった、ちゃんと雑兵に紛れて居たのか。でも、今まで出てこなかった、という事は。戦況をひっくり返すだけのポテンシャルを持っているんだろう。それほどまでに強いのかもしれない。
「お前ら…スキル持ちか?」
「ぷくく、こんな子たちに負けたのか?」
赤色のスカーフを巻いた奴が少し高めの声色で喋る。年は近そうなのだが、俺らはマスクを被っているから分からないのか。俺らに槍を向けて立派に挑発をしている。槍の間合いを見極めるのは難しい、か。
「そうだな、これはコルトランドの恥だぜ!早く処刑しねぇとなぁ?!」
青色のスカーフを巻いた奴は斧を抱えて、蛮族のような喋り方で威圧してくる。斧をべろべろ嘗め回していそうな、嫌な声だ。こんなのが王国の兵士をしているとは、にわかには信じられない。
「待ちなさい、舐めてはいけませんよ?」
黄色のスカーフの奴は細剣を携えて、甲高い声で喋る。細剣という事は、突きをメインでしてくるのだろう。全員の武器の形状的に突き、突き、払い、か。注意すべき攻撃はそんな所だろう。斧は打撃にも注意すべきかもしれない。こちらは軽鎧しかない。メェルにはどれも効かないだろうが、注意するに越したことは無い。
「うん、なんか拍子抜けだ」
「あぁ?!なんだと?」
「雑兵と同じ格好でスキル持ちなんて…ただの雑兵じゃないか~…終いにしよう。」
青が怒りに身を任せて斧を振るう。そうそう、そうやって怒りに身を任せてくれ。冷静に対処されるよりも、頭に血が上っている方がいいんだ。相手をしやすいからね。よしよし、この調子でどんどん行こうか。
「あら、乗ってはいけませんよ?」
「いやぁ、細剣いいですね!細剣は使い手が優雅でなくてはいけない。」
「あら、分かってるじゃない?」
「いや、細剣に話しかけているんです。使い手は薄汚い蛮族ですよ?」
「言わせておけばぁ!!!!!」
黄はすぐに突きの態勢に入る。しかし、赤はその挑発に乗る者か、とばかりに二人の前に手を出して”落ち着け”と言う。ほう、なかなか頭が切れるみたいだ。
「君の挑発には乗らない、それが手なんだろう?」
「別にこれが手って訳じゃないよ?ただ、勝手に相手が怒るだけだ」
「見てごらん、これを」
赤が傷つけた牛の獣人をまるで物を扱うみたいに持ってくる。”今、息の根を止めてあげよう”と言って槍に手をかける。その瞬間、俺の頭の中で何かが弾ける音がした。
開幕ですよ?!伝家の宝刀サイドステップからの斬り上げ!!!渾身の一撃を赤選手が受け止めようと槍を前に出します!遅い遅い、まるで蝸牛の歩み!槍をそのまま叩き切る!!!!青選手、黄選手は両方とも反応しきれていません!オーキチ選手、怒りに身を任せて渾身の一撃をかましてしまった!!
「……は?」
「もう一回その薄汚い手で獣人に触れて見ろ…今度はお前を叩き切るぞ、オラぁ!!!!!」




