三話 分かち合い
牛の店主が喜んで、犬の店主も喜んで、皆喜んでハッピーだと思うじゃない?実はそうも行かなくて…俺の懐が寂しい事になっている…あの氷が高すぎたんだ。なんで俺が犬の店主の物まで出しているんだ?まぁ…いいけどさ。大半の金が吹っ飛んだ。残りは…数泊過ごせるだけの金額だ。
「はぁ…そういえばさ、肉…食べる?」
隣を一緒に歩いているメェルに聞いてみる。メェルに奢るって言って奢ったような奢ってないような、中途半端な感じになってしまっていた。これでは、なんのために隣を歩いていてくれているか分からない。そもそも、良くここまで着いてきてくれた、と感謝するべきだ。
「大丈夫…です…それより…狩に…行きます…」
「なるほど、俺も行こうかな?」
「一緒に…行きますか…!」
メェルは俺の事を下から覗き込み、ウルウルした瞳こちらに向けてくる。なんだ、一人で狩っていると言うから心配していたけど、やっぱり仲間は欲しいのか。俺に求めるのか?いや、しかし…俺の事情に巻き込んでしまっていいのだろうか?俺はお尋ね者で、人間からかなりのヘイトを買っている。そんな俺が、メェルと一緒に行動して、彼女を守り切れるだろうか。
不安を抱えながらギルドへ向かう。ギルドへ向かう最中は二人とも一言も言葉を発することは無かった。ギルドに入ってからもそうだ。しかし、ボードを見つめている時に、ふと視界に入った魔物を見て”おいしそう”とメェルが呟いた。その視線の先には、モノクロで色なんか分からないが、タコの絵が描かれていた。
「タコ、か。いいね、行こうか?」
「え…でも…」
依頼のクラスを確認すると、丁度シルバークラス。俺が最近シルバークラスに上がったのにも意味があったって事か。でも、メェルが渋るって事は…メェルはシルバークラスではないのだろうな。最悪、俺が一人で戦えばそれでいい。俺は吊るされた依頼をもぎとって、オリーの元へ持って行った。
「え…健一さん、この依頼受けるんですか?」
「はい、受けようかなと思っています。」
「……。」
オリーはメェルをじっと見つめる。メェルはそっぽを向いたまま、何も言い返さない。オリーが”健一さんが一緒なら…あるいは…”と呟く。何か訳アリなのは知っているが、見捨てるつもりはない。
「大丈夫ですか?相手はシルバークラスですよ?」
「大丈夫です、タンクが居ますから」
「それは…そうですが。」
「頑張ります…」
自信は無さそうだが、メェルはちゃんとオリーを見て返事をした。オリーは諦めたのか、しぶしぶ”分かりました”と言い、承諾をする。何をそんなに嫌がっているんだろうか?まさか、いじめとかじゃないだろうな?いじめなんてどこの世界でも許されざる行為だ。オリーは俺を手招きして、あえてメェルに聞こえないようにすると”メェルさんを守ってあげてください”と分かり切った事をこそっと言ってきた。
「はい、大丈夫です」
そう言うと、メェルと一緒にギルドを後にした。確かに小柄なのは気になるが、仮にも大楯が使えるんだ。一人前のハンターとして適正があるはず。もしかすれば、俺の方が守ってもらう可能性すらあるかもしれない。そんな期待を抱いていた。
街を出て、すぐに脇道に逸れて歩いて行く。少し離れた場所に、このタコ…タコパスの生息している場所があるらしい。注意深く観察しながら、森の奥深くへと進んでいく。すると、木の上にぶら下がっている、蛍光色の何かを発見する。メェルは”あれです”と指を刺している。あれ…か。
「本当に食べれるの?」
「はい…美味しい…と聞きます…」
見るからに…そう、ヒョウモンダコという種類のタコを思い出す見た目。かなり強い毒を持っていて、というか人間が普通にコロっと死んでしまう程の強毒を持っている。食欲を失う見た目と、陸の上で木と共に生活しているタコを見て唖然としてしまう。
タコは……タコ。食べるなら…そう、タコ焼きだ!ビールと一緒にぐっと行きたい所ではあるのだが…獣人達はアルコールを嫌がりそうだから普通に酒なんて無さそう。あれ、でも最初に見た獣人は何を飲んでいたんだろう?余計な事を考えてしまった影響で、相手がどのように動くかを考えていなかった。
「はっ?!なんでっ?!目の前に…!!!」
タコの触手がこちらに伸びる!腹から数センチの所でギリギリの回避を決めます!ヒョウモンダコはどこに目があるか分からない、それを忘れてしまうとは…オーキチ選手も本当に油断していました!メェル選手は流石の反応!これで何故仲間が居ないのか不思議でしょうがないです!
「さて…あいつを見ていれば何とかなるとして…どう引き釣り降ろすか?」
タコパスはひょいひょいと猿のように木から木へと渡っています!これは、降りて来るまで耐え抜くしかない!耐久戦の始まりです!無駄な思考をしたせいで、考えがまとまらずに焦っています!守らなければいけない者を抱える事をどういう事か理解出来ていない、そういう心を読んでいるかのように、タコパスは上から攻撃してくる!
「きりがない…!」




