一話 獣人の姿
「なんでこの世界は森ばかりなんだ?」
行く先々は全て森の中。俺が森の中を歩く、と決めたから仕方のない事ではあったのだが。コルトランド方面は少なからず街道があった。イトベリアの方はもはや街道は無く、あるのは獣道のみ。これが一番安全ではあるか。だが、突然目の前に整備された街道が広がる。木々がアーチを描いた、絵画の中でしか見た事のないような綺麗な光景。
歩きやすい街道だし、雰囲気もいいな。この領地に歓迎されている気分だ、心地がいいよ。本当に…亜人の領地からまた数時間も歩くとは思わなかったもんな。森の中を歩きすぎて整備された道の方が寧ろ歩きずらい気すらするよ…。というか、なんで人間は普通に行き来しているんだ?
「おぉ…これが。」
森の中に現れた幻想的な城壁に見惚れる。石レンガ造りの屋敷には蔦が絡まっていて、城址のような儚くも美しい光景。自然との共生が目に見えて分かる、周りに生えている木々を殺さないようにしているのが分かるからだ。気づけば、門番の姿が確認出来た。
「いらっしゃい!」
近くまで歩いて行くと門番に声を掛けられる。ウェルカムを感じ……?!あれ?待って?獣人ってコルトランド城で見た感じと違うぞ?この獣人は…顔はライオンで、二足歩行、手足は肉球とふさふさの毛。動物が二足歩行をしている感じなのか。失礼かもしれないけど…めっちゃ可愛い。
「えっと、身分証を」
「要らないよ?好きなだけ通りな!」
「ど?!人間が近いうちに攻めて来るかもしれないのに?!」
「あはは、悪意のある人間なんて分かるさ、兄さんからはそれを感じねぇ!」
門番は”がはは”と笑い飛ばして、肩をバシバシ叩いてくる。そうか、こういう種族なのか…。これは、亜人領の村人に言われた事が分かるなぁ。戦う時は戦うんだろうな、俺は、どうした方がいいかな。
「では、行きますね」
「おうよ!」
門を通って中に進む。中は、城壁と同じで石造りのレンガで一つの町が出来ていた。中にも所々に自然を感じるように出来ていて、綺麗な街並みだ。窓は吹き抜けで、古代の遺跡を思わせる。
さて、ここからどういう風に動くべきだろうか。亜人領の村人が領主の印の話を知っていたって事は…別に秘匿されている情報ではないように思う。ただ、一般の人がその条件を知っているとは…思えないよなぁ。
「さぁさぁ!寄ってきな!」
「うちならおまけするぜぇ!」
「こっちにもありますよ~」
周りが騒がしいと思えば、市場にたどり着いていたみたいだ。市場の様子を見ると、果物がたくさん並んでいる。りんごやぶどう、オレンジ…たくさんの日本のスーパーで売っているような果物を目にする。食べ物に思いを馳せていると”ぐぅ~”と腹が音を立てる。食べていくか。
「すいません」
「あいよ?なんだい?」
「そこの赤いのもらえますか?」
「リンゴだね?百円だよ!」
「ありがとうございます」
お代を渡して商品を受け取る。一口齧ってみると、みずみずしい果汁が口の中を埋め尽くす。甘さと少しの酸っぱさ、シャキッとした触感も堪らない。これで酒を造ったら…美味しいだろうな。この甘さなら、アップルブランデーあたりがいいだろうか。そうだ、ここは市場だし情報収集をしてみるか。
「すいません、聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「領主に会いたいんですけど、どうすればいいか分かります?」
「そうだね~…何か武功を積むとかだろうね?」
「あ~…なるほど。」
武功か~…戦うのがあまり好きじゃないから考えてなかったな。かといって、別に考えがあるわけじゃないんだよな。困ったなぁ…。でも、この世界での武功って何だろう?戦争でって訳じゃなさそうだよな?そろそろコルトランドが起こしてくる可能性はあるが、頻発する世の中では無かった、と聞いたし。
「それ以外だと、分からないね?」
「何か、領民が領主に会った話とか聞きませんか?」
「あんまり会いたい人が居ないんじゃないかい?」
「え?それはどうしてですか?」
「会っても別に何にもならないからさ!金になるわけでもないしね!」
”あははは”と笑われる。そうなんだ、金一封みたいな物もあるかと思ったけど、そういうのは無さそうか。いや、待てよ?武功で会えるって事は、他にもどうにかして会う方法があるんじゃないか?この領地の役に立つ事……とか。いやいや、初めて来た土地の役に立つ事とか探すの難しすぎ。
「そうだ!」
「どうされました?!」
「ギルドに行ってみてはどうだい?」
「ギルドですか?」
「あそこなら、あたしより詳しい奴がいるだろうね?」
「分かりました、ありがとうございます」
店主に頭を下げて、その場を去る。ギルド、か。さて、どこを歩いて行けばいいかな?この土地に住んでいる人を捕まえるのが早いけど…まだ全然時間に余裕はある、自分でひとまず探してみるか。
「で、迷った訳なんだけど…。」




