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村人もまた、ぽつりぽつりと話し始める。実は先代の国王から代替わりしたのはここ最近の話。これまでの国王は、立派な人で魔族との和平条約を結んだのも先代の国王だ。しかし、ある日突然、戴冠式などをすることもなくどこかに消えてしまったという。きな臭い話だ。
さらに、今までの国王が認めてくれていた”亜人”に与えられた土地にすら不満を抱いている。だから、この土地を賭けて戦争を行うように仕向けている最中なのだとか。幾度となく、この土地にも兵士が足を踏み入れてきていると。
「旅人さんは他種族に関して知っている事はありますか?」
「いえ、特には。」
「そうでしょうね…人間は一部を除いて人ではない者を嫌いますからね」
「そう……でしょうね…。」
ぐっと握りこぶしに力を入れる。王が奴隷をコレクションと言ったときの顔が脳裏に焼き付いている。本当に…薄気味悪い笑顔を浮かべていた。
「亜人はですね、他種族と人間のハイブリッドなんです」
「と言いますと?」
聞けば亜人というのは、他種族と人間の混生、いわば両親のどちらかが人間、どちらかが他種族という話だ。この話には他種族の能力が関わってくる。他種族は魔法を使ったり、特性と呼ばれる自分のルーツに沿った能力を使えたりする。亜人は稀に、その両方を受け継いだ者が生まれる。これを国王は危惧している。
「なんだか…本当に傲慢な王になったんですね」
「そうかも知れないですね、私達はどちらかというと魔王様側ですから」
「その魔王はどうですか?」
「魔王様は先代から変わらず、人間に対して”も”友好的です」
この状況で友好的…?ありえない。お人よし、いや、魔族よしが過ぎる。だってそうじゃないか、自分の国の人々が危険にさらされている、奴隷に勝手にされようとしているのにそれを見過ごしているのと同義だ。
「怒ってくれてありがとうございます、しかし、戦争を好まないだけなのです」
「あぁ…そうか。」
俺は、力で力を制すると言う事をしようとしていたのか。本当に、為政者には向かないな…なるつもりは毛頭ないのだけど。しかし、どうにかして平和に導かなくてはならない。亡き親友からの願いでもあり、青年の願いでもあるのだから。はぁ…身に余る思いを受け取ってしまったな。
「この世に生を受けただけで、奴隷か兵器の扱いを受ける…本当に気分が悪い話ですね」
「ありがとうございます、その言葉を人間の貴方から聞けて良かったかもしれない」
「いえ、別に俺は本当の事を言っているだけですから。」
「そういえば、他種族の話も聞いて良いですか?」
「ええ、構いませんよ?」
村人はにこやかに話を聞かせてくれる。種族の分類は大まかに九種族。魔人族、獣人族、竜人族、鬼人族、武人族、亜人族、軟人族、土人族、森人族。獣人は身体能力アップ、魔人は魔法、竜人は不明、鬼人は力、武人は武器、亜人は身体能力とスキル、軟人は液状化、土人は防御、森人は魔法と武具の扱い、それぞれに長けている。
「領地も異なっていてですね、それぞれが領主として治めてますよ、今地図を…」
そう言うと村人は奥の方に消えていき、”確かここら辺に…”と言いながら地図を探している。しかし、人間以外が九種族も居るのに、半分しか治めていないのか。かなり込み入った国境線が引かれているんじゃないか?すると、村人が戻ってきて、”これです”と言いながら地図を見せてくれた。
地図には聞いた通り、正六角形が描かれていて、半分ずつで区切られている。東側がイトベリアで、詳しく見て見ると、綺麗に分かれるように国境線が引かれている。コルトランドと一番近い場所に位置するのが獣人領。その奥に竜人領、森人領、軟人領、首都と続いている。下側が鬼人領、武人領、土人領だ。これで統治出来ている魔王はすごいな。
「貴重な物を見せてくれてありがとうございます」
「いえ?別に貴重な物ではありませんよ?良ければ差し上げます」
「いや、いいんですか?」
「ええ、これも何かの縁ですから」
そういって村人は地図を丸めて差し出してくれる。本当に…何処まで親切にしてくれるんだ。俺が悪い人だったらどうするつもりだったんだ?村人全員が危険にさらされてしまうんだぞ?
「代わりに何か出来る事はありますか?」
「困りごとはありますけど…いいのでしょうか?」
「させてください」
ここまでしてもらって、何もせずにさようならは俺が自分を許せない。恩を貰ったなら、出来る事で恩を返す。それが礼儀だ。しかし、ここの村での困りごとなんてあるだろうか?如何せん平和そのものに見えるんだけど。
「実はここら辺で畑を荒らされ、村人も襲われて困っているのです」
「何に荒らされるんですか?」
「ホラーディアという魔物なんですけど」
森の名前に因んでいるんだろうけど、怖がらせてくるなぁ。もしかしたら、顔が怖い可能性はあるか。話を聞き終えると、”お疲れでしょう”と言い、村人はすぐにベッドの支度を整えてくれた。お礼を伝えてベッドに入る。なんだか安心できるし、一息つけるのは久しぶりな気がして、すぐに眠りについてしまった。




