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アクアのため息  作者: 桜庭眞秀
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まるで人魚のようだ

彼女と僕は海の中で出会った。

暗くどこまでも暗く、呑み込まれてしまいそうな程不気味なのに

強く安心感を覚えてしまうあの海で。



その日僕は、命を絶とうとしていた。

命を絶つからには、それなりの理由がいるのだろうけど

僕にはない。

命を絶つ事を選んでしまう程、思い詰めていることもない。

理由もなく命を投げ出すなんて行為を神様が見たらどう思うのだろう

神様なんているのかもわからないけど

それでも僕は今命を絶とうとしている。


僕は海へと続く道、冷たく真っ白な浜辺の道を歩いていく。

砂から水へ、全身が海に溶け込むのを感じながらゆっくりと。



「生まれ変わるなら僕はまた人がいいな」


そう声にならない声で呟きながら、僕は歩みを進める。


やがて僕の体は海へと消え、

踏み込む地面などはとうにない、それでも左右の足は地面を求めている。

まるで他人事のように体から意識を切り離し、そのまま目を閉じた。


不思議だ、目を閉じたはずなのに瞼の裏には海が広がっているように見える。

とても気持ちがいい。なんだか僕が溶け込んだ海とは全く別の海のようだ。

海は僕のような異物だとしても受け入れてくれるみたいだ

海が広がっていた景色だったのが次々と違う場面へと移り変わる。

走馬灯、というのは人によって意味が違うのかもしれないな

その瞬間をどうにかして回避しようとする防衛反応であったり

一番幸せな思い出であったりするけど、僕の場合は。。。


考えることが段々難しくなって意識も薄れてきたとき

大きな、少し大きな何かが近づいてくるのを感じた。

勘弁してほしい、僕は僕の意思で命を絶とうとしているのに

自分以外の何かの手を借り、命を絶っても意味がないんだ

まぁでも、もういいか。なんだって。。。


変だな

あれから大分経ったように感じるが僕はまだ僕のままだ

ふわふわとしていた考えが段々固まりを成し

薄れていた意識がだんだんはっきりしていく。

それに、海の中にいるはずなのに呼吸ができる。

もしかして僕は既に何かに生まれ変わってしまったのかも知れない。

目を開けてみようか

いや、このままゆっくり時間に赴くのもいいかもしれない


そう思ったのもつかの間

顔、とまだ言える筈であろう部分に何かが触れるのを感じた。


いたい

やめてくれ

なんだ、触るな


何かが僕の顔をつよくたたいているようだ。

呼吸ができるようになったからか、さっきまで海に溶け込んでいた手足のようなものが

段々と動くようになってきた。

僕は少し恐怖を抱きながらも、目を開ける。


そこには、分厚いゴーグルをかけた”人”がいた。

口に違和感を感じたがどうやら酸素ボンベの先を口に入れられているようだ。

僕の目の前で漂うその人は何かを訴えているようだが、何も聞こえない。

そして、僕はその人を見た瞬間に何かを強く感じ、

そのまま意識をなくした。


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