表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者はどこにいった?  作者: なかたあきら
4/5

俺だけが勇者を知らない〜その2

 きっとこの剣はもう使われない。

 『勇者ブラン』によって、魔王はもう倒されたんだ。

 ――なぜか、ノア自身さえも確信していたことだった。

 ノアに課された役目、それは『勇者の剣』で村に襲ってくるモンスターを追い払うことだった。

 しかしもう、こののどかな村にモンスターは襲ってくる日はあるのだろうか?

 「『勇者の剣』なんて、使う日は来るのかよ……」

 村の者どころか、ノアでさえもそう思っていた。

 

 

 

 「ふぁ~あ。月を見るのはいいな……」

 月を眺めているとなぜか安心する。それがノアの夜遅くまで起きる要因だった。

 ノアにとっては決して珍しいことでない。

 そのことが朝の寝起きが悪い原因でもあるのだが。

 

 しかし今日は、西側の木の葉が風に揺れる音が、やたら騒がしい。

 村の皆は起きないのだろうか。

 しかも聞きなれない羽音まで紛れ込んでいた。

 ――これは鳥の音ではない。




 「――これは、モンスター……?」


 


 村人が起きたら大騒ぎになるだろう。

 起きる前に始末しなければ。

 ノアは冷静に判断していた。

 何より驚いていたのは、記憶もないのに「この程度のモンスターなら恐れるに足らない」と完全に理解していたノア自身のほうだった。



 やってきたのは、小さなドラゴンだった。

 一匹でやってきたのか?

 『勇者の剣を持つ』自分は冷静に立ち回れるが、武器を持たない人間にとっては脅威になる。


 「この村に、モンスターがのこのこと現れやがって……!」

 

 その小さなドラゴンは、火のブレスで森を燃やしていた。


 「次は脅しじゃねぇぜ!お前を燃やすからな!」

 小さなドラゴンは、ブレスを使えるだけでなく、人語も理解できるようだった。

 「お前、しゃべれるのか……?」

 「しゃべるのが人間だけと思っていたのか?」

 「いや、ちっちぇドラゴンがしゃべるのだと思って」

 「この俺様を、ち・っ・ち・ぇ、だと~~~!!」


 どうやらこのモンスターも、体が小さいことを気にしていたようだった。

(それじゃ隣の家のからかい対象、グリスと一緒じゃないか)

 小さなドラゴンは怒りにまかせて、あちこちに火のブレスを放っていた。

 普通の人間なら、驚いて慌てふためくだろう。

 しかしノアは違った。

 好都合だ。森の中でも、あまり木がなさそうなところに逃げていく。

 村から引き離すように、誘導するように。

 ノアは感じていた。

 (身のこなし、鈍ってなさそうだ。)

 同時にノアは、持ち合わせていないはずの戦いの記憶に疑問を持っていた。

 (自分は、どこで戦ったことがあるのだろうか?)

 自分の強さは、どうやら『勇者の剣』だけでできているようではないようだ。


 

 「まぁ、この『勇者の剣』の敵じゃないけどな」

 一度このセリフを言ってみたかったと、いたずら半分に思っていたが、怯えもせずにすらすら言える自分に驚いた。

 「一撃でお前をしとめる!」


 

 「『勇者の剣』……?」

 ぴたりと小さなドラゴンの体が止まった。

 つられてノアの動きも止まってしまった。

 「おいら、あまり剣の形見てなかったけど……やばい、逃げるぞ!魔王様に報告だ!」

 「おい、どこに逃げるんだ!」

 「決まってらぁ!魔王城に、てめぇ、今度は承知しねぇ……!」


 

 

 モンスターが襲ってきながらも撃退した。仕留めそこなったのは、申し訳なかったが。


 

 村に帰ってきたとき、まだ外は暗かった。

 しかしみんなは寝間着姿のまま、起きだして、村の門に集まっていた。

 モンスターが襲ってきた一連の騒ぎは大きかったようで、みんなが起きだして駆けつけてきたのだ。

 「やったぁ!ノア」

 「まさか、本当に『勇者の剣』を使う日がくるなんて」

 「お前さんのおかげだよ、ノア」

 その中にはからかい相手のグリスもいた。

 「まぁ、これくらい仕事やってもらわないと困るしなぁ」

 いつもは着飾っているロゼも、めずらしくすっぴんだった。美しいことには変わりないが。

 「へぇ、やればできるじゃない。」

 夜遅くまで仕事をしていたのか、ヴァンだけは普段着だった。

 「ありがとう、ノア」


 ノアは大きな仕事をした感覚がなかった。まるで当たり前のような仕事をしただけだったという感覚だった。

 「俺は仕事をしただけだ。それに、モンスターを逃がしてしまった……」

 「なぁに、勇者ブランも魔王以外のモンスターは追っ払うだけだったからね」

 「そんくらいお人好しだったのさ」

 (ここにも、『勇者ブラン』の名前は出るんだな)

 ここにいるのは、ただの『ノア』のはずなのに。

 

 勇者ブランのことを胸がざわめいてきた。

 村人のみんなに悪気があるわけではない。それはノアにもわかっていることだった。

 それでも、勇者ブランの話を持ち出す。

 ――勇者ブランを、俺に重ねてみている。


 「わけがわからない!なんで勇者の剣を持っているだけで俺を受け入れる!?」

 せきを切ったように、ノアは叫びだした。

 それはノアがずっと前から村人へ、抱いていた疑念だった。



 「みんなそうだ、俺のことを勇者、勇者って!」

 「ノア……」

 村人は、困惑した表情でノアを見つめていた。

 「グリスだってそうだ。本当に勇者であることが疑わしいんなら、俺にぶつかるどころか、影でこそこそ、もっと俺を遠ざけるはずだ!」

 

 「どうせ重ねてみているんだろ、俺には似ても似つかない、『お人好しの勇者』に!」

 

 「村の中で、俺だけが勇者を知らない」

 「俺はお前ら村人たちのことを、信じることができない!だって、俺は俺自身すらも一番わからない!自分のことを一番信じられないんだよ!」

 ノアは自分の家に向かって逃げ出した。

 


 

 「なぁ、勇者ってそんなに偉いのか?」

 誰もいない空間で、一人勇者ブランに問いかけた。

 「なぁ、勇者ってだけでみんなに受け入れられるって、どんな気持ちなんだ、ブラン?」

 返ってくる答えはない。

 ――実はノアの家は、いなくなった『勇者ブラン』の家でもあったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ