目覚め
これは、誰の目覚めだったのか。
ただわかっているのは、彼が勇者の剣を扱えること、
だが彼は「勇者」ではないこと。
「おーい」
木のドアをたたく音がする。
「おーい」
何回も、何回も音がする。
「おーいってば!」
赤い瞳が緩やかに開く。
何回も大声で呼ばれるのはさすがにうるさいと感じたので、ベッドから起き上がり、黒髪の青年――ノアは、ドアのカギを開けることにした。
眩しい光を背にした、緑髪の青年が、正面に立っていた。
「やれやれ、お前のねぼすけにも困ったもんだ」
彼の名前はヴァン。この村の村長を務めていた。
村長としての職務で忙しい中、ノアのところを起こしてくれたのだ。
「ずっと寝ていたら、日が暮れちまうだろうが」
「俺の仕事のメインは夜なんだ、勘弁してくれ……それにモンスターが主に活動するのは夜だぞ」
思いつく言い訳を並べつつ、ノアは目をこすっていた。
「でも村人たちが外に出てくるのは昼だ。万が一そんな時に村人がモンスターに襲われたらどーする」
ノアの仕事の時間は、日が真上に上る頃から、月が真上に上る頃までだった。
本当は夜明けまで仕事をした方がよいのだが、それではノアの体がもたない。
村の少し外で倒れていたところを村人たちによって助けられたとき、ノアは記憶を失っていた。
ノアについてわかっているのは、勇者の剣を持っていて、しかも扱えることだけだった。
「ノア」という名前も、村人たちにつけられた名前だった。
――黒い髪……ノワールっていう名前はどう?
――それじゃ読みにくいし、親しみにくい、ノアにしよう。
村人の様子だと、こんな感じで名前が付けられたようだった。
自分の本当の名前は知らないが、村人たちが考えてつけてくれた「ノア」という名前は、ノア自身も悪くないと思っていた。