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クリエイターたちの作業通話

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流行り病が落ち着き多少の移動が解除されたとはいえ、他県への移動が憚られる今日この頃


SNSのフォロワーと作業通話から数時間経ち、飲み会になだれ込んだときにこんな話になった。


「旅に出たいな」


「そうさん、アウトドア趣味でしたっけ?」


『そう』というのは彼のSNS上でのハンドルネームだ。

雅号から通字を除き音の響きで崩したものだそうだ。


お互いに活動している分野が違うため、活動名や詳しい活動内容は知っていたり知らなかったりだ。

ただ、文字を扱うという根っこの部分では同じなため気が合いつつも創作者として互いをリスペクトし合える関係が築けている。


隣の畑違いの人の意見は意外と参考になることが多かったりする。


知識を深めるためだったり単純な興味だったりで、集まりに人が増えることがあっても減ることはあまりない。

気が向いたら集う、気が向いたら誰かが声をかける緩やかな通話。

創作の時間が削られることを嫌がり、重い繋がりを好みたがらない創作が最優先な人間にとっては心地のよい関係性だ。


「昔はいろんなところに行かせてもらったんだけど、今は見てみてまわれるほど体力がなくてね」


「おっさんくさいよそうちゃん」


滑舌のいい通る声でツッコむ声が聞こえる。

彼女はこの集まりでは恐らく最年少だが、物怖じせず誰にでも人懐っこい。


「そりゃあおじさんですからね」


「まあ時期も時期ですしねぇ」


次いで青年の声が聞こえる。

爽やかで特徴がある通る声だ。

なにかメディアで聞いたことあったような気がする。


「それなら今のうちに筋力トレーニングしておかないと、ですね」


遠慮がちに会話に入ってきた落ち着いた声の女性は普段はロム専、あまり喋らずに通話を聞いている人だったので皆少しだけ驚いて騒がしくなった。


「ひこちゃん!おひさ!」


「ひこみこさんは筋トレ好きなんですか」


「いえ、旅行が好きで……。旅行話を聞くのが好きなんです」


「そうなんだ。てっきりお二人さん……」


青年が茶化そうとすると、


「年下好きなのでごめんなさい」「じじいには勿体ない良い子だよ」


二人は同時に否定するのだ。

ますます怪しいが、深い詮索はここのルールに反するので会話を流すために話題を変える。


「それで、旅行でしたっけ?」


「そうなんだよ。最近スランプでね、先人の地でも拝んで御知恵を拝借しようかと思ったんだ」


なるほど、インスピレーションの枯渇は死に至る病だ。

特にこの通話にいる人たちは、それぞれ分野は違うが仕事にしてしまうほどには自分の作品への信頼があり、創作への熱で己を焼きながら作品を創り上げて世に売り出している才気あふれるナルシストが集っている。


故に同志として、作業仲間として解決策を考えるのは皆やぶさかではないだろう。


少しの唸り声、或いは思考による静寂を少女は声を持ってして切り裂く。


「そうちゃんって絵の人だよね?うちいま京都だから代わりに観光して来てあげよっか?」


「それはいいね!お願いできるかい?」


「私も聞きたいです!」


少しでも旅気分をと旅行話を聞かせるために代わりに少女が観光してこようかと提案すると、案の定旅好き二人が食いついた。


仲のよろしいことで。



「どらこ、ルポルタージュにしましょ?あたしも読みたいわ」


今まで黙っていたハスキーで艶のある声の女性が、少女の提案に乗るように口を開く。


ディスカッションのような、企画会議のような意見の出し合い被せ合いは、ここではよくある会話の流れだ。

大抵の場合は悪ノリなのだが。


この前もチョコレート菓子のちょっとした派閥争いが大プレゼン大会に発展した。

文字を職にしている人間故に口が回る回る。


即席でパワーポイントを作ってプレゼンするもの

菓子を擬人化した萌え絵で推してくるもの

その擬人化したキャラクターの声をあてるもの

菓子にまつわる短編をものの数分で書き上げて提出してくるもの

推し菓子の素晴らしさを称えるラップで主張するもの

菓子のテーマソングから繋げて歌詞を作って歌うもの



言うなればカオス

口だけじゃなくてお酒も回ってたから仕方ないね。



わたしはキャッチコピーを提出しました、はい。


今更ですが、わたしはしがないコピーライターの女です。



「リーちゃん。うちルポルタージュ?ってやつ書いたことないよ。そもそも普段文章とか書かないし」


彼女、どらこさんは普段マイクで語る人だからルポタージュは難しいだろう。


「教えたげるわよ。ゆかりが」


「わたしですか」


無茶振りもいいところだ。

わたしだってルポルタージュは専門外だ。


「そこは李さんが教えて下さいよ」


「それは、ほら。あたしが教えると官能的になっちゃうもの。ついでにゆかりもルポ書いてきたら」


彼女は李さん、ゴシップ誌にアダルト小説の連載を持っている作家だ。

実は元師匠で頭が上がらなかったりする。


「それはいいね、楽しみだ」


「広島でしたっけ?通過したことはあるんですけど一度じっくり観光してみたかったんですよね」


普段は悪ノリを止める側の旅好き二人がノリノリだ……これはやる流れだなぁ


「……駆け出しの頃に何本か書いたことはありますけど、本当に専門外なので期待しないでくださいね。あとどうせならそこで高みの見物してるミノルカさんも書きましょ、李さんが書き方教えますから」 


「え、俺も?」


「住居バレしたくなかったら前旅行したところでもいいですよ」


「マジか……最近アドリブ減って読み上げるばっかりだったから文章考える自信ないなぁ」


「うちもしっかり文字書くの小学校の読書感想文以来だよ!あっ、せっかくだしミノミノとうちのどっちが上手くかけたか審査してよ!」


「面白そうじゃないの。指導込みで完成版を仲のいい旅好きな二人に審査してもらいましょ」


「審査、私達でいいんですか?二人とも文を浚うのは素人ですけど……」


「勿論ですよ。負けた方が勝った方の欲しい本一冊贈るのはどうですか。絶版初版の入手困難本はなしで」


「それ欲しいのゆかちゃんとリーちゃんの二人だけじゃん!」


少女の叫びに小さな笑いが起こる。


「それじゃ俺たちは欲しいものリストの中から一つな」


「いいね!DJ始めてみたいからDJ用の機材でよろしく!」


「俺は買い替えたかった録音機器で」


あちら側もまとまったようで、やいのやいの微笑ましい煽り合いが聴こえる。



「賭けの内容は決まったかしら?本気でいくわよ」


「どらこさん、まずは自由に書いてきてください。書けたらいつでもいいので個人チャットに送ってください」


「ミノルカ、個人通話するわよ。部屋建てるからいらっしゃい」


実は李さんから貰いたい本があったのだ。

この勝負、絶対に負けられない。


「そういえば、李さんもルポ書きますよね?」


「勿論よ」


「それならいいです」


「それじゃ、今日はお開きですかね」


「四人の旅ルポルタージュ、楽しみにしてるよ」



続きを読みたい人がいれば長編で続き載せます

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