妄想の帝国 その74 フツウノニホンジン病試験的治療法
ニホン国の元首都近郊で、行われているフツウノニホンジン病の治療法とは…
天高く馬肥ゆる秋と称される10月にはいったニホン国元首都圏の郊外。広々とした土地で草刈りに従事する一群がいた。
年齢も性別も様々な人々が一様に灰色のシャツにズボンという、簡易な作業服に身を包み、おぼつかない手つきで、カマで雑草と格闘していた。
「わー、手の甲が切れてる!な、なんで?、カマで切ったのか」
「いや、違うなんでだろうな?ところで、ハギュウダンさん。これ、ススキだっけ?」
「う、うーんわからん、ヤマキワさん。なんだか長細くて茶色、ダークブラウンっていうのか、この色」
「先の方が枝分かれしてるし、たぶんススキ…」
と喋っていると
「そこのジコウ党カの5と6!何を呑気にしゃべっているのです!」
と、眼鏡をかけ迷彩色の作業服の50-60代前後の女性に叱らりつけられる。
「え、えっと、その手が切れて!」
「見せてみなさい」
と女性の威圧的な口調に少し怯えて、ジコウ党カの5と書かれたゼッケンを背中に貼られたハギュウダンが、おそるおそる手をみせた。
「これは…葉で切ったようですね。草の葉を素手で触ったんでしょう」
「そ、そういえば、草を刈るとき葉っぱの根元ごと握って…」
「血はとまったようですが、雑菌がはいると厄介です。今消毒します、しみますが、少し我慢して」
女性はボディリュックから、消毒液を出し、てきぱきとハギュウダンいやジコウ党カの5の手当てをした。
「まったく、なぜ軍手もしくは作業業手袋をしていなかったのです。作業前に指示がでていたはずです」
「そのう、手袋するのはちょっと…」
「いやも応もありません。朝の農作業時には手袋着用、帽子をかぶり、汗拭き用手拭いを持参ときちんと書いてあるでしょう、読めないのですか」
「え、っと、ちょっと長すぎるし、ルビが…」
「はあ?何が長いんです、ジコウ党カの5、いやハギュウダン元ジコウ党政調会長。貴方確か、有名大学出で、どこかの大学の講師も務めてましたよね、落選中。たった100ページあまりのマニュアルを読めない?…なんてこと、そこまで重症だったなんて!」
オーバーに嘆く女性にハギュウダンはあわてたように
「い、いえ、決して、う、うっかり忘れただけで」
「本当に?フツウノニホンジン病には、病的な嘘つきという症状もあります。それに…。ジコウ党カの6,なんですか、ススキも知らないのですか?まさかニホン伝統行事の一つ、お月見もやったことがないというのですか?」
と今度はヤマキワの方に質問する
「え、えっと、その(うーいつも、月見では団子とかお供えの菓子しか興味なかったし。そういう用意は秘書が…)」
「秘書がすべてやっていたから、知らないですか」
「な、なんで、わかったんですか」
「すぐバレるというか、底の浅い言い訳をするのもフツウノニホンジン病の患者がよくやることですから。それにしても、いくら本人がニホン人とはいえ、他国のカルト集団の信者がニホンの伝統をマトモにやれると思ったのですか?本当にニホン国の伝統を知るものなら、逆にそのような怪しげカルトには騙されにくいとは思わなかったのですか」
「その、あの、ボランティアで、選挙をあんなに手伝ってくれた方だし、その、票集めとかトン一協会の集会でやってもらって」
「“うまい話には裏がある”とか“好事魔多し”などのニホンの諺、教訓を知らなかったのですか?」
「そ、そんなこと知らなくても、私は大臣になれた!」
「それを威張るより、大臣になっても無知、無教養なことを恥じなさい!まったく、なんて病気なんでしょうね、徹底的に治療しなければ」
と、二人をにらみつける女性に
「そんな、わ、私たちは悪いとこなんて、ないし、そ、そのジコウ党何とかという、く、屈辱的…」
「そ、そうだ、我々は元とはいえ、ニホン政府与党ジコウ党政権で閣僚まで務めた二人…」
と、言った途端
ダン!
と、ブーツで地面をたたく音がした。
シークレットブーツの底が瞬時にあがり
仁王立ちになって二人を見上げる女性。
震えあがる二人。
「本当に理解していないのね、この、無知、無教養、無恥のフツウノニホンジン病患者」
急に女性の口調が変わる。静かだが、冷たく厳しい声。
「あんたたちのような頭のイカレタ連中が、ニホン国を沈ませたんでしょうが、いい加減、現実をみたらどうなの?防衛費増大とか言って、ロクに使えない武器だの検知器だの、運用もできない戦艦モドキを建設するは、ショボい元総理のコクソウモドキでムダ金を使った上に世界中からアホ扱い、ホントあんたがたジコウ党の連中はトンデモナイことしてくれたわよ、しかも」
バンっと地面にたたきつけたのは、古雑誌。
「あんたか方のイカレタ応援団の出したpanadaだのvillだのの雑誌や事実誤認に誤字だらけの歴史修正本だの誇大妄想ニホンスゴイ論文モドキを本気にしたネトキョクウウどもが、マトモな人々を揶揄するわ、貶めるわ、脅すわやってくれたおかげで、ニホンはどうしようもなくなったのよ」
と二人をにらみつける女性にか細い声で
「ど、どうしようもないって、その、円安がすすんで1ドル千円になったぐらいで」
「そ、そうだ、人口がかなり減って、その若者が出稼ぎに外国にいくくらい」
反論する二人に
「ドアホ―!それを沈んだ、ダメになったというんだろうが!ええ、わかってんのか!今やニホン国はG7どころかG20からも滑り落ちソマリアと同レベル。いや、ソマリアのほうがましだわ、国内情勢が落ち着き、今から発展の芽があるってんだから。ニホン国は下がるだけ!それもこれもお前らとそれを支持する自称フツウノニホンジンどもが、妙な誇大妄想で現実を見ずに滅茶苦茶な政策をし、それを批判する人々を封じたからだろうが!おかげで、技術者は逃げ、マトモな商売はつぶれ、女性は子供がさらに生みにくくなり、産まれたとしてもマトモに育てられない。さらに基礎的研究や調査を疎かにして、思い付きでやみくもに成長産業とやらに手を出して、結果全部だめにして金をドブに捨てたんだろうが!そのせいで、国家破綻、カッコクレンの助けがなければ、国民飢え死にだったんだぞ!それでも、開き直って自分らだけ助かろうとしたんだろうが。レイワンのヤマダノさんや共産ニッポンのシイノさんに恥を知れなどといったジコウ党の女優崩れがいたらしいが、恥を知るのはおまえだろう!このクソカルト、人モドキめ」
とさらに厳しい、もとい、乱暴な口調になる女性。流れるように続く頭越しの怒声に、数センチ縮むハギュウダンら、いやジコウ党カの5と6。
「だいたい本来仕えるべき国民に、こんな人たちだのと揶揄するわ、質問にもマトモに答えずニヤニヤするなどと、人をさんざん馬鹿にしてきた、お前たちが番号で呼ばれるのは屈辱的?笑わせるな、お前らがニホン国の政府の一員だったことのほうが、よほど屈辱だ。お前らを引きずりおろせなかったことのほうが世界とニホン国の子孫に恥ずかしいわ」
さらに小さくなる二人。
「カッコクレン介入とはいえ、真っ当な民主主義政府ができたとき、本来ならお前らジコウ党の連中や、カルト集団トン一の関係者、御用学者や太鼓持ち芸人にマスコミ、やたらフツウノニホンジン名乗りたがるネトキョクウ連中は全員、死刑、終身刑、国外追放などの刑に処せられるはずだったんだ。それを現政府のシイノさんやヤマダノさんたちが、誇大妄想の一種であり精神の病であるとして、全員治療させる方向にもっていってくれたんだぞ、有り難く思え」
と怒りまくる女性を前に元ハギュウダン政調会長に元ヤマキワ大臣の二人は蚊の鳴くような声で
「野党の奴ら、情けは人のためならずってことなのか」
「アベノ元総理とかほかのジコウ党議員と同じことしてただけなのにい、フツーのことしていたのに、こんなひどい目にあるなんて。犬も歩けば棒にあたって、痛い目に遭うのか」
つぶやくと、
プッツン
何かが切れた音がした。
女性は黙って通信機器を取り出し、
「あー、本部、本部聞こえますか。こちらフツウノニホンジン治療試験第一会場の農場です。ジコウ党カの5と6は農作業と学習、食事療法を組み合わせた第一治療では効果なしの疑い。これから第二施設に移動し、検査を行いたいので許可願います」
「わー、やめてええ!第二施設はいやだああ!毎日、食事、運動管理に学習指導で討論会なんて!学者連中に文章の書き方とかいちいち文句付けられるなんてええ!」
「panadaとかの雑誌に書いていた奴らは書き取りから練習だって。ぶ、文章じゃないマトモに作文も書けないって言われちゃうんだろ。そ、そのうえ、小学校どころか幼稚園からおさらいなんて、な、情けないよお」
と泣き出すジコウ党カの5と6。
「あのなあ、泣きたいのはこっちだよ、何が普通だよ、それはお前らの身勝手な自分たち本意のお身内ルールだろ、合理的にも、世間的にも、法律的にも通用しないわ、そんな屁理屈。ニホン国の憲法ちゃんとよめ、理解必須のことをわかりもしないで議員やってた連中がいたこと自体が嘆かわしいわ。こんなのが国の中枢にいたなんて、だからニホン国はダメになったんだよ、本当に理解力がないのか。言っとくけど、私が罵倒するのも、何かしでかしたとき簡易番号でよぶのも、治療の一環なんだからな。自分を過大評価しすぎて、他人を見下しまくった、お前たちのトンデモナイ傲慢さを矯正するためのな。ホントはお前らとは口もききたくないんだよ、だけど叱られて、真面目にやって見返そうって効果もあるっていうからな。だいたい、お前らは一番マシな境遇のくせに、何をたらたら文句ばっかり言ってるんだ。一応回覧を回したから、知ってるだろう、ジコウ党カの1~4だのの元総理、副総理連中はすでに第三施設、薬物を使って、ゆがんだ認知を修正する治療なんだ。フツウノニホンジン病はまだ治療法が確立されていないから、様々な治療が試されているんだ。この第一施設では、以前のニホンジンの大多数を占めていた農民の暮らしを現代風にアレンジし、より健康的で知的にした生活をするという治療法だ。行動の自由もかなりみとめられているというのに」
と、ため息をつく女性。
「だけど、赤坂とかで飲めないし、そもそも酒もステーキもろくにでてこないし」
「スマホとか、ネットの制限も」
とブツブツ言う二人に
「っとに立場わかってんのか。だいたいニホン国の繁華街はもうないんだぞ。お前らが政党助成金だのを口実に税金を使い込んだようなところはつぶれてるんだ、仕入れもろくにできず、円安による経済破綻でな。だいたい不健康な生活で認知がゆがんだという仮説のもとで治療を行ってるんだ、酒、過度の肉食、長時間のネット閲覧など不摂生のもとになるようなものは禁止されるにきまってるだろう」
呆れたような女性。
その言葉に、今度はジコウ党カの5と6が逆ギレ。
「くう、私はエライんだぞ、ジコウ党の政調会長!」
「わ、私だって、大臣、世襲何代目!」
と、わめきだし暴れだした。
すると
プシュウ
ひそかに手に持った麻酔銃を打ち込む女性。
ふらふらと倒れる二人。
「やれやれ、おとなしく検査を受けてくれば、こんなことまでしなくてすんだのだが。まったく現実をみず、自己陶酔がひどいな。鏡をよく見ろ、いや新聞ぐらいきちんとよめ、それは許可されているんだから。すでにジコウ党ニホン政府は存在しない。それにここから出れば、恨み骨髄のニホン国民たちに八つ裂きにされかねないというのに。まだ自分らの支持者がいるとおもっているんだろうか。まあ同病のフツウノニホンジンだと自称するネトキョクウ連中もいることはいるが、全員治療中なのに」
女性は騒ぎを遠巻きに眺めていた人々を横目で見た。
「誰もこいつらに加勢しようともしない、か。ネトキョクウ連中はネットやなにかで偉そうなことをいうが、何かあるとわが身可愛さで仲間も切り捨てて逃げようとするらしいからなあ。話し合って協力し抵抗するならまだ治癒の見込みもあるんだが。かといって、精進して作業に励むとか、お互い切磋琢磨して高めあうってこともない。ただ、やり過ごし、裏で文句を言おうとするだけだ。…ああ、そうだ、また虐めがおこらないよう、新入りを早く個室を用意し、食事や運動メニューにも気をくばらないと。精神の安定のためには魚を取らせるのが手っ取り早いんだが、気候変動と通貨の関係で手に入りにくいからな。やはりDHAサプリメントを混ぜるか」
独り言を言っているうちに運搬用ドローンがやってきた。
「おーい、こっち、こっち。…よっこらしょ、しっかり固定して、落ちないように。では、よろしく。私も後から行きます。…さて」
と、女性は畑を見回して
「皆さんは10時半でいったん、休憩です。各自、所定の薬草茶や間食をとるように。その後は作業続きを行い、12時に食堂で各自の食事を受け取って朝食。13時からシエスタ。13時半から起き、水分を取ったあと、17時まで学習時間です。今日は論理的思考を身につける方法です、講師はカネコダマサル先生、その後はいつものように検査をうけていただきます」
元ネトキョクウ、元ジコウ党議員たちは彼女の言葉におどおどした態度で休憩に入った。
どこぞの国では”自分はフツウノナンタラ”というフレーズを言いたがる人がいるそうですが、フツウというのはどういう基準で言っているのか、まるで理解不能らしいですな。エビデンスだの、論理だのを無視してデマだろうが何だろうが言ったもの勝ちと思い込む人々にありがちのようですが、そこまで目茶苦茶だと一種の病なんだろうかとすら思ってしまいますわ。